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安宿(やすやど)  作者: ウィリアム輝夫
序論(私と言う呪いについて)
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 毎回毎回、芸のない話で申し訳ないのであるが、今回は、カップラーメンを食べようとしている、というところから始めたい。しかも、仕事の帰りに寄ったドラッグストアーには、カップスターしかなかった。のこいのこの「味の虜になりました」というCMのあの妙に歯切れの良い歌声を連想するが、そんなのを覚えているのももう相当な歳な人であろうて。私は家に帰ると、早速、フライパンで湯を沸かして、というかこのフライパンはいつもお湯を沸かしてばかりであるが、暫くしたら、蓋を開けた容器の中に、熱湯を注ぐのであった。この時、フライパンから直であるからたまに床にこぼす時もあるが無視している。本当に男の料理であるが、私は大食いなのにも関わらず、今回は、これ一本で勝負したいと思っている。もし、これで満足ができなかったら、私は一晩中、空腹に苦しまないといけない。だが、一口スープを啜って、その心配はなさそうに感じた。この圧倒的な味の濃さというか、罪深いジャンクな感じ。これが私を無敵モードに誘ったのであった。普段は、高速に味も確かめずに、カップスターを食べてしまうが、今回は瞬間瞬間に立ち止まることにしたのだった。意外と、こう言うことができない人が多いのはなぜだろう。食べることが作業になっている人たちに問いたい。何故食べるのか?旨いからだろ。それを引き出すためには、集中すべきである。今、目の前にあることに、じっくりと身を浸すことである。そして、麺を箸で口の中に運ぶ。「ズルズルズル」こうやって口の中に吸い込みながら、どうして蕎麦とはこんなにも違うのか暫し感慨に耽るのであった。それは健康面からいえば、蕎麦の方が上であるが、この腰の低い感じ、これは圧倒的に好感が持てるのである。私は謎の安心感にしばらく襲われて呆然とした。カップスターは、それだけでやはり完成されているのだ。少しパンチが弱いにせよ、流石、カップラーメン界の大御所である。偶然、生き残ってはいない。そこには、人々の脳を、リピートさせるために、説得できる繊細な味の調和があったのだ。麺、スープ、そして、貧弱な具が、私の心を軽やかに空へと飛び上がらせるのである。そこは、カップ麺の天国だった。眉を顰めて、私はどんどんこの楽園を削ってゆく。食べ終わると、正直、何が起きていたのか、それは全く覚えていない。そして、この「何も覚えていない感じ」これこそが、カップスターが生き残ってきた強みである。人々は、「あれって何だったっけ」と、記憶をリピートすることにより、上書きしてみたくなる控えめな味わいなのだ。

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