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 村越先生は、静かに授業を進めているように見えた。黒板には何も書かれていない。ただ、白い粉のような光が、教室の空気に漂っている。誰かが咳をすると、その粒子はふわりと形を変え、四角く、整っていく。


 最初に箱になったのは、窓際の佐伯だった。彼は立ち上がろうとした瞬間、身体の輪郭が硬直し、関節が折りたたまれるように内側へ沈み、やがて継ぎ目のない箱へと変わった。蓋も鍵もない。ただ完璧に閉じられた立方体。音もなく、そこに置かれている。


 私は、それを覗き穴から見ている。教室の外、壁に穿たれた小さな円孔。なぜここにいるのか分からない。だが、目を離すことができない。


 箱は次々と増えていく。名前を呼ばれた者から順に、形を失い、規格へと回収されていく。村越先生は微笑みもしない。ただ淡々と、存在を折り畳む。


 だが、そのときだった。


 一つの箱が、微かに震えた。角がほどけ、隙間から柔らかなものが覗く。羽だった。白でも黒でもない、どこか夢の中の色をした羽。箱は内側から膨らみ、裂けることなく、静かに展開していく。


 やがて、それは箱の形を保ったまま、翼を持つものになった。


 飛んだ。


 音もなく、窓をすり抜け、空へと上がる。夕焼けの中、箱たちはゆっくりと舞い上がり、重さを裏切るように軽やかに、互いに触れもせず、しかしどこかで繋がっているように漂う。


 村越先生は、黒板に手を当てていた。何も書かれていないはずのそこに、かすかな線が浮かび上がる。箱、箱、箱、そして翼。


 私は覗き穴に指をかける。外へ出れば、あの空に触れられるのかもしれない。


 だが同時に、ここに留まらなければ、私は何に畳まれてしまうのだろう、という予感があった。


 急に後ろからガシと掴む腕がある。それをやったのは勿論、あたしなのだ。あたしは、箱になって飛んでから一回りして、覗いているあいつの後ろに回った。そして、箱から腕を出す。


「諸悪の根源はあなたよ」


 私とは誰なのか。私は今でもわからない。私とはわからないものの透明な総称なのか。それともたんなる空虚なのか。


「ある種の装置、仕掛け、マルンバ」

「え?最後、よく聞こえなかった」


どこかからナイフが飛んできてあたしの箱に刺さってきてあたしは箱から放り出された。私は叫ぶ。


「黒ひげ危機一発?」


なんじゃこりゃ。


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