シャワー
部屋は思っていたよりも狭く、壁紙はところどころで浮いていた。窓はあるが、開けると隣の建物の壁しか見えない。空気は乾いていて、何か古い布の匂いがした。
二人で同じベッドに座っていると、距離の取り方が曖昧になる。近いのか遠いのか、判断がつかない。沈黙が少しだけ続いた。
彼女は部屋の中を一度見回し、それから視線を落とした。ここに来るまでの流れを、頭の中でなぞっているようだった。
「シャワーを浴びてきなよ」
私はそう言った。特に理由はなかった。ただ、順番の一つとして、そこに置いたような感じだった。
彼女はすぐには動かなかった。指先が、スカートの布地を軽くつまむ。
「……どうして?」
小さな声だった。
「どうして、っていうのは」
私は少しだけ考えるふりをしたが、答えは最初から決まっているような気もした。
「その方が、いい気がするからだ」
曖昧な言い方だが、それ以上具体的にする必要を感じなかった。
彼女は私の顔を見る。焦点は合っている。だが、その奥で、何かを測っている。
「さっきの話と、関係があるんですか」
「あるかもしれないし、ないかもしれない」
私は肩を少しだけ動かした。
「順番の話で言えば」
そこで言葉を切る。
「たぶん、これはどこに置いてもいい」
彼女は、しばらく黙った。
部屋の隅にある小さなユニットバスのドアを見て、それからまた私を見る。その視線が、少しだけ揺れる。
「……分かりました」
そう言いかけて、また止まる。
完全には決めきれていない声音だった。
私はその間に、もう一度だけ言った。
「信じなさい」
彼女の目が、わずかに動く。
「あなたの子羊を」
自分で言っておきながら、その言葉の出どころが分からない。だが、妙にしっくりきていた。
彼女は、その言葉を繰り返すように、ほんの小さく口の中で動かした。
「……子羊」
それが教義にある言葉なのか、それともまったく関係のないものなのか、私には分からない。
彼女は立ち上がる。動きはゆっくりで、どこかぎこちない。
ユニットバスの前まで行き、ドアに手をかける。
そのまま、しばらく動かない。
背中越しに、彼女がまだ迷っているのが分かる。
私は何も言わなかった。これ以上言葉を足すと、何かが崩れる気がした。
やがて、ドアが小さく開く。
彼女は一度だけこちらを振り返る。
その目は、さっきまでよりも、ほんの少しだけ焦点がずれているように見えた。
それが不安なのか、あるいは別の何かなのかは、判別がつかない。
ドアが閉まる。
水の音は、まだ聞こえない。
私はベッドに座ったまま、その音が始まるのを待っている。




