告白
しばらく、私は話し続けた。
自殺願望、と呼んでいいのか分からない。ただ、消えることについては、昔から具体的に考えていた。方法とか、場所とか、時間帯とか。母親や父親のときと同じで、考えはだんだん細部を持ちはじめる。
「別に、今すぐ死にたいわけじゃない」
私はそう言った。
「ただ、いつでも終われる、っていう状態にしておきたいだけだ」
それがあると、少しだけ楽になる気がする。逆に言えば、それがないと、どこにも逃げ場がない。
「書くことも、似たようなもんで」
私はカップの底に残った、冷えきった液体を見た。
「いつでもやめられると思ってるから、続けてるのかもしれない」
彼女は黙っている。聞いているのか、ただ順番を待っているのか、判別はつかない。
「でも、たまに」
私は少しだけ言葉を探す。
「どこで終わるのが正しいのか、分からなくなる」
終わりの位置が決まらないと、全部が宙に浮く。
「そのまま、ずっと続いていく感じがして」
続いていくこと自体が、怖くなる。
「だから、どこかで区切りをつけたくなる」
区切り。あるいは、切断。
「自分で決めたい、っていうのがあるのかもしれない」
そこまで言って、私は一度黙った。
店内の音が、また戻ってくる。さっきと同じはずなのに、少しだけ遠くに感じる。
彼女はまだ何も言わない。その沈黙が、妙に長く伸びる。
私は、その中で、ふと思いついたように口を開いた。
「今夜」
自分の声が、少しだけ変わった気がした。
「一緒に、ホテルに泊まってくれないか」
彼女の目が、わずかに動く。
「もし、あなたが俺を信用してくれるのなら、指一本触れない」
言葉は、思っていたよりも滑らかに出た。
「しかし」
私は、そこで少しだけ間を置く。
「信用しないのなら」
その先は、ほとんど自動的に出てきた。
「取り返しのつかない、恐ろしいことが待っているだろう」
言い終えてから、自分でも、その文の形が妙に整っていることに気づく。誰かが書いた文章を、なぞったような感じだった。
彼女は、すぐには反応しなかった。
視線だけが、わずかに下がり、テーブルの一点に落ちる。指先が、カップの取っ手に触れて、しかし持ち上げない。
悩んでいる、というより、何かを照合しているように見えた。教えと、今の状況と、自分の位置と。
「それは」
彼女は、ゆっくりと口を開いた。
だが、そこで一度言葉が止まる。
何かを選び損ねたように、沈黙が落ちる。
私は何も言わない。急かす気もない。ただ、その沈黙がどう転がるのかを見ている。
彼女は、もう一度、息を吸った。
目の焦点は、まだ揺れていない。
だが、ほんのわずかに、その奥で、何かがずれているようにも見えた。
答えは、まだ出ていない。




