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最強の成長するユニークスキル異界の心臓で、異世界無双 ~エルフ美少女に愛され養われ、精霊美少女にも愛されてハーレム状態~  作者: 手ノ皮ぺろり
第一章『精霊の森』十幕『神殺し』

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ヒトガタの慟哭

 醜悪な神の肉体へ呑まれて行くカイトの手を、何も出来ずに離してしまった。それが悔やまれるが、目の前の化け物は、その暇も与えてくれそうにない。


「やってくれたのう、貴様。覚悟は出来ておるか?」


 神は下卑た笑い声を上げ、こちらを挑発する。


「ケヒヒヒッ! あの小虫は、我が体内でゆるりと溶かし、養分にしてくれる。神の一部となれるのだ。本望であろうよ」


 わざと怒りを誘おうとしているのか、高慢で無遠慮な言葉が空間を震わす。


「儂が恐れると思うておるのか?」


 神はこちらの言葉には応じず、酸の体液を吐き出した。それを魔力の波で打ち払い、開いた一つ目を睨み付ける。こちらを侮っているのか、それとも開閉機能に何らかの問題が起きたか、巨大な眼球は大気に晒され続けていた。


「ふん。か弱い乙女の柔肌へ向け、斯様な醜悪な液体を放つとは、下衆を通り越して哀れになる」


 空間を揺さぶる哄笑が響き、その不快感に背筋が震える。


「ケヒヒヒッ! ケヒヒヒヒッ! 貴様が、か弱いとな! どの口でほざきよる、この化け物めが。……しかし、憐れよのう。あの様な小虫に、いたずらに力を浪費され、力の核である魔力もほとんど残っておらぬのではないか? あれにそこまでする価値があるか?」


 問いかけに見せた安い挑発だ。


「何に重きを置くかは、儂が決める事よ。貴様の知る所ではない。……それより、そろそろ黙ってもらうぞ」


 神は遠慮なく挑発を続けていたが、今回は心底おかしそうに笑った。


「ケヒヒヒッ! そのザマで何が出来る!? 片腹痛いわ!」


 その笑いを無言で受け流し、内側へ意識を集中させて行く。


「これを使うのも随分と久しいな。前は、何時だったか……」


 今度は、こちらが挑発する番だ。


「ああ、思い出したぞ。丁度、貴様のような、俗神を、二三匹かたづけた時じゃった」


 ちょっとした挑発に激昂し、狂った様に喚き出す。その隙に、力を高めて行く。


「我を、俗神だとッ!? 五月蠅く飛び回る小蠅ごときがッ!」


 やれやれ堪え性のない小物じゃのう。巨大な図体に見合わぬ小心、儂が暴いてやろう。


「相対する者を、必死に貶めるのは、本心では、恐れておるからじゃ、底が見えたのう?」


 神は、もはや語る事も忘れ、ただ叫ぶ。


「貴様ッ!」


 間髪入れずに、最後の言葉を送る。


「醜悪な心に覆い隠された、臆病な本性が透けて見えておるぞ。今ならまだ間に合うじゃろう。神としての威厳を持ったまま果てよ」


 もはや我も忘れて奇声を上げる神が、酸と骨を雨矢の如く投射する。それを舞い踊る魔力の波で容易く弾き。歌う様に、詠唱に入る。


「我は、陰、闇夜に浮かぶ月の如く、忍ぶもの、そして、自ら輝く力を持たぬ。だが、それは、奇瑞。陰であるが故、光に焼かれる事はない」


「戦術陣・双月陰陽」


 詠唱を終えた直後、周囲に光り輝く球が広がり、神の本体、その瞳を越え、体内にまで領域を到達させる。

 神は驚愕の叫びを上げ、慄いた。


「馬鹿なァッ! 我の、我の陣の内に、異なる陣を張っただとッ! あり得ぬ! 断じて認めぬぞッ!」


 消耗した今の状態では、戦術陣を展開すること自体が強い負荷となる。他者の陣の内部であればなおさらだ。だが、集中し、力を漲らせ、狭い範囲で魔力の密度を極限まで高めれば、戦術陣の上書きは、不可能ではなかった。

 そして、この陣を展開することは、通常ならば、相手の死を意味する。この規格外の怪物に対して、どこまでの効果を持つかは、未知数となるが。


「さて、時も限られておる。精々、泣き喚き、己が無粋を呪うが良い」


 神は再び激昂し、酸と骨を乱れ打つ。躱すスペースもない程に空間を埋め尽くす投射。本来であれば、慌ただしく相殺する必要があっただろう。

 だが――。


「無駄じゃ。儂の詠唱は聞こえなかったかの? 我は陰、そして、陽となるは貴様じゃ。まあ、我らは互いに交わる事はないが……」


 身体に酸が直撃するが、何も恐れる事はない。それが、この戦術陣の力だった。神は瞬間的に、沸き立ち、歓声を上げるが、それがぬか喜びである事を知る。

 酸を受けたはずの身体は、舞う様に回転し、分裂していく。その数は、双子の月齢に対応し、六十に及ぶ。


 分身にも酸が浴びせられ、回転し、消えて行く。その瞬間、それぞれの満ち欠けに対応した光が放たれ、それの照射を受けた神の肉体に、次々と溶解した酷い傷が出来上がって行く。


「グオオオオッ!? 何だ、何だこれは!?」


 相手を溶かしたはずが、自らの身体が、溶けていく様に、恐れ慄く。


「何じゃ。早々に化けの皮が剥がれたか? まだ始まったばかりじゃぞ」


 分身を再び生み出し、次の攻撃へ備える。


「さあ、このまま新月と満月を迎えるまで踊ってもらうぞ」


 舞い踊りながら、体内へ取りこまれた少年を想う。

 カイトよ。おんしがここで果てるとは思うてはおらぬ。しかし、得体の知れぬ体内に独り。どの様な危険が待ち受けるとも知れぬ。

 儂の戦術陣は、体内にまで到達しておる。それを標とし、ここまで辿り着いておくれ。


 祈る事しか出来ない自分を、不甲斐なく思った。




※ ※ ※ 




 薄暗く生温かい、至る所から腐敗した臭気を感じる、気味の悪い場所で転がっていた。瞼が開き、指の感触を確かめる。


「くせぇ。何だ、この匂い……。おえ。胸がムカムカして吐きそうになる。……それにしても、こんな所で気を失ってたのか? 一体どれだけ……?」


 うつ伏せに倒れていた身体を押し上げ、周囲の様子を探る。


「本当に酷い匂いだな……。だが、周囲に敵の気配はない……? こんな場所で気絶していたんだ、敵がいればとっくに死んでるか」


 手指の感触をもう一度たしかめ力を込めると、押した床が、ぶよぶよと生き物の様にへこんで、脈動しているのを感じた。


「気持ち悪い、酷い場所だな。それに、不味い事に気付いた……」


 神に取りこまれた人々の願いの力、マナの代わりとして作用していた力を感じない。恐らくこの場では、今もっているマナしか使えないだろう。

 手持ちが少ないのでは、いくら多彩な魔法が使えても意味がない。極力、消耗を抑えて出口を探す必要がある。


「うえぇぇぇ。死にゲーにありがちな展開……」


 だが、困った事に、自分の命はひとつしかない。死んで試す事など出来ない。

 ゆっくりと立ち上がるが、体重をかけた足には、また床からの気味の悪い感触が伝わって来た。


「内臓にでも乗っかってるみたいだ……。それに、倒れてた身体にも何かねばっとしたのが……」


 頬の不快感を拭い去り、もう一度、周囲を見回すが、薄暗く数メートル先もはっきりと見えない。漂う臭気が嫌悪を、闇が恐怖心を煽り立てる。そして、生温かく湿気を感じる空気の重さ。早々に脱出したいと思わされる場所だが、そのために歩き回る行動力は湧き起こってこない。重い身体をのろのろと動かし、消極的に探索を始める。


「暗い……。こんな場所に、何かが潜んでいたらと思うと……」


 寒気がする。だが、行動しなければ一生ここに閉じ込められたままだ。両手を伸ばし、恐る恐る先の空間を探り、進んでいると、壁らしき物が見えた。それに右手を沿わせ、そのまま離れずに歩く。


「あれ、曲がり角か。思ったより狭い場所なのか……?」


 壁沿いをそのまま進んでいると、また角があり、それを何度か繰り返し、ほぼ四角く、狭い部屋に閉じ込められている事が分かった。


「何だ? 出口も何もない? どうすれば……」


 気味の悪い感触と、吐き気を誘う臭気を放つ壁を、くまなく調べて行く。這わせた手指に粘液の様な、得体の知れない物質がつき、今すぐにその場にうずくまりたい衝動が沸き起こる。

 だが、嫌悪に耐えて、壁を探っていると、おかしな反応を示す場所があった。右手の甲が触れた所に、抉れた様な傷が出来る。


「これは――いったい?」


 薄暗がりの中で、もう一度、自分の右の指を見て思い出す。


「そうか、指輪、まだ、装備してたんだった」


 それがある閃きを生む。


「手の甲が触れたからじゃないな。指輪が擦れたんだ……」


 思い立って、壁に指輪を押し付けて行くと、溶けだす様に、内側へ萎んで行き、道が現れる。その先の暗闇を凝視する。


「ダメだ。真っ暗でなんも見えねぇ。気が重いな……」


 のろのろと歩き出し、真っ直ぐな通路をしばらく行くと、壁に添えていた右手が何か異物に触れた。おもむろにそちらに目をやると――。


「ひっ!」


 思わず引き攣った悲鳴を上げる。

 壁の一部がへこんでいて、その中に納まるように、人の死体らしきものが置かれていた。


「腐敗、はしてない。でも、変色した皮と出っ張った骨。まるで、アムダイの初期段階みたいだ」


 顔を探るが、目は閉じられていて、動き出す様な気配も感じなかった。縮れた髪の毛の端が、振動にしたがって宙を舞った。


「もし、こいつが動いたら悲惨だな」


 そのまま死体の傍を通り抜け、更に奥へ向かうが、右手を沿えていた壁が途切れ、また小さな部屋らしき場所に出る。


「とは言っても、遠くは見えないから、どの程度の大きさかも分からないな……」


 部屋の中に、少し進むと、目の前に何かの覆いの様な、一段と暗い場所が現れる。


「何だ、これ。一部分だけが暗くなってて、何かが空間を塞いでる様な」


 恐る恐る触れてみると、柔らかい感触が返る。そのままゆっくりと押してみる。すると、ほとんど抵抗感もなく、何かは動き出した。奥へ揺れ、手前に戻る、それを何度か繰り返し、止まる。


「考えたくないけど、何か、何かが吊り下げられてるのか……」


 その何か、の答えは、想像もしたくないモノだったが、先ほど通路で見たモノを考えれば、容易にイメージ出来た。


 その時、目の前の何かが、鈍い音を立て、床に落ちた。それに驚き、悲鳴を上げる。


「ひいぃっ!」


 腰が抜け、尻餅をついた足に、もたれかかって来た、それを必死にどけると、側面へ転がり、また鈍い音が響く。


「は、はあ、はあ。くそっ! 死にゲーでもホラーテイストかよ!」


 何とか立ち上がり、床に転がった物体を見つめる。


「ホントに止めてくれ……。こんな場所に独りなだけでもキツイのに」


 死体らしき人の形、その指あたりに、何か光るモノを見つける。


「何だ!? こんな暗がりで光って……」


 目を凝らして、近づいて行くと、その正体が分かった。


「指輪だ……。どうする? 持っていくべきか……?」


 お約束の展開じゃ、取ろうとする、もしくは取った後に、死体が動き出すとかだよな。こんな場所に落ちてるんだから、レアアイテム間違いなしだが。


「いや、待てよ。ゲームだとそうだが、これは現実だ。ただ、神に取りこまれた人が、たまたま指輪を装備してただけかも」


 中々、手を出す気にはなれない。だが、奇妙な事に、見つめていると、だんだんと好奇心が湧き上がって来る。


「泥棒じゃない、生き残るために必要だから手を出すんだ。断じて泥棒じゃない!」


 そっと手を伸ばし、細く皺だらけで、枯れ枝の様な指から、指輪を抜き取った。そして、距離を取り、動きがないかを確かめる。


「ふう。死体は、動かないな……。ヒヤヒヤしたぜ」


 指につまんでいた指輪を見つめる。小さな宝石の飾られたシンプルな指輪だが、なにか不思議な好奇心をざわめきの様に、巻き起こす。


「嵌めてみるか。呪われて、抜けなくなったりして!」


 息を呑み、ゆっくりと左の指に嵌めた。


 すると――。


 周囲の光景が一変し、暗がりの先まで見通せる様になるが、同時にあり得ない怖ろしい何かが目に入る。


 何だ!? ゆ、幽霊!?


「見つけたァァァ!」

「痛いィィィ、苦しいィィィ」

「殺せ、殺してくれ」

「おま、おまえ、いき、てる?」

「呪ってやる、呪ってやるッ!」


 耳を塞いでも聞こえて来る、異常な気を狂わせる様な、声。それが、脳内にこだまし、複数の影が、徐々にこちらへ近づいて来る。


 クソッ! なんなんだ!? この指輪の効果なのか!?


「外さなきゃ、外さなきゃ!」


 息をするのも苦しいが、足をもつれさせながら、あいている空間に逃げ込み、指輪を思い切り、引き抜いた。


 直後、感じていた異常な気配も、声も聞こえなくなるが、周りを見通せていた視界は、再び闇に包まれていた。

 急いで動いたからか、周囲の状況も良く分かっていなかったが、背中に不気味な感触を覚えて、右手で探る。


「何だ、これ。何か、置かれてる?」


 振り向くと、柱に囲まれた場所の中央に、何か奇妙な球体が置かれていた。心臓の拍動の様に、不気味に収縮と拡張を繰り返し、表面には血管らしき筋が幾つも浮き出している。


「これは――何かの仕掛けか?」


 ここは、あの神の体内である事を思うと、これは臓器のひとつの可能性もある。また、右手の指輪を近づけ、表面を撫でた。すると、球体は、痙攣する様に、震え出し、血管が破れ黒い膿が噴き出す。そして、内側へ萎んで溶けていった。

 跡には、黒い泡立った膿の塊が残された。


「え?」


 何か、何かが足首を掴んだ――!?

 咄嗟に首を捻って、足元を見ると、先ほどの死体がこちらへ恨めしそうに、手を伸ばし、足首を掴んでいた。


「うわっ! うわあ!」


 その細い腕を踏みつけ、無理やり手を剥がし、入ってきた場所へと駆ける。


「道、間違ってたりしないよなっ!?」


 幸い、入り口はすぐに見つかり、そこへ駆け込むが、目を疑うモノが待っていた。

 それは、先ほど壁の中に埋まっていた死体だった。動き出し、開かれた目が怪しく光り、こちらへ今にも襲い掛かろうとしている。


 この得体の知れない迷宮から、抜け出せないまま、奴らの餌食になるのだろうか? 暗い想像が頭を過る中、外に置いて来たジジの身を案じていた――。

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