調査報告書③ 正面突破はありえません
木と鉄で組みあがっている門が大きな音を立て崩れ落ちた。
すごい。サクっと切れたのに刃こぼれひとつない。
切るというより、刀身に触れた部分だけが、
急激に溶けていったような感覚だった。
なのにこの刀身には熱を一切感じない。
これならば魔族相手でも十分戦える。
爆乳魔王戦で学んだことがある。
『魔法が全く通用しない敵がいるかもしれない』という事だ。
僕のように俄か仕立ての魔法使いなんて、
魔法を知り尽くした相手ならば勝つことが出来ない。
レベルの差は勝率のそれと必ずしも一致しないという事がわかった。
生き残る確率を上げるには、魔法の知識を深め、剣の技を高める事。
それでも埋められない経験の差ってヤツは、
兄さんから与えられた能力をもって克服するしかないだろう。
それに、地球に生まれたものとして、
この世界の間違っている事は正してやりたい。
きっと兄さんもそう思っただろうな。
それならば、この世界の人には考えつかないような方法でやってみようじゃないか。
【マスター、そのようなお考えをお持ちとは、エミリー感服致しました】
(あっ、それってピンチになったら自動運転頼むって事だから)
【・・・尊敬した自分を軽蔑します】
それじゃ、門が豪快に開いたところで、
壁の突起をつたわって、城壁をスルスルと登っていく。
一度しかやった事なかったけど、ボルダリングの要領だ。
城壁の上にいた見張り役は、初撃の対消滅弾で消し飛んでいる。
【聖鑑定】
氏名:不明
レベル:30~32
性別:不明
年齢:不明
種族:下位悪魔
属性:火★水☆風☆土★聖☆闇★
魔法:無詠唱 即死魔法
:無詠唱 精神支配
ギフト:魔素探知
:非表示
称号:不明
これが城壁の上にいた魔族だ。
直接対峙していなかったからはっきりわからないけど、
マーサさんの開拓村を襲撃した魔族と、
姿形は似ているのだが、
こちらのほうが随分弱いように思えた。
多少は僕も強くなっているのだけれど、
あの圧倒的な悍ましい魔力というものを感じなかった。
それよりも、城壁の内部にいる魔族の方が警戒すべきだと、
魔素探知が教えてくれている。
そんなところに正面から堂々と突入するなど真っ平ごめんだ。
一対一ならなんとかなりそうだが、
集団で囲まれてタコ殴りされたら、
とてもじゃないけど生きては帰れないだろう。
ということで、大きな音を立てて門を切り落としたのは、
単純明快。陽動作戦である。
内部の警戒を下層の門に集中させて、
上層から少しずつ削っていく。
なんとも僕らしい卑怯なやり方である。
・・・卑怯って言葉にちょっとだけキュンとするのはなぜだろう。
【変態だからです】
謎が解けた。
城壁を登りきったところにある敵楼には、
階下に続く出入り口があった。
3層構造の城壁内部は、
それぞれに大小10程度の部屋がある。
城門の音を聞きつけて、何体かの魔族が下に降りて行ったので、
このフロアにいるのは4体。
まずは一番手前のこの部屋にいるのからだ。
すっと開いたドアの先に、
ベットでくつろいでいる魔族が1体。
赤と黒の異形の形からして上にいたのと同じレベルなのだろうが、
くつろぐ姿に思わず「すいません」と謝るところだった。
でもその隣に変わり果てた兵士たちの残骸を見た瞬間、
魔族は魔素剣ヴェインによって、
一瞬のうちに灰塵と化した。
「殺れる前に殺れ」
サルドウスさんの言葉が頭の中を駆け巡った。
どのような事情や都合があったとしても、
今は殺さなければいけない敵である。
それ以上は考えるだけ無駄な事だ。
次の部屋には2体。
一番奥ま部屋に1体。
反撃の隙を与えることなく魔族は塵となっていく。
これで合わせて12体。
残りは・・・18、いや19体か。
中層に4体ほどの反応があるけど、
これは今までの魔族より反応が大きい。
中位以上の魔族かもしれない。
一度城壁の最上部に戻り、
崩れた門付近を出力最大で探知する。
さっきのレッサーデーモンと同程度の魔族が9体集まってきている。
さらに奥から7体向かってきているか。
だれも上層に向かってきていないことを考えれば、
まだ僕の存在は確認されていないのだろう。
よし、再度両指に第二関節分の魔素を込める。
再度天高く舞い上がった9つの白光は、
渓谷の両側に弧を描くように反転し、そのまま城門に向かって突き進む。
自動追尾された方向は全弾魔族を捉え消滅した。
さらに追加でもう7発。
気取られないように今度は聖都側の門を突き破るように発射した。
【マスター、全弾命中です。これで残りは3体ですね】
(エミリー、魔素の残量は?)
【ちょうど半分を使い切りました】
まだ油断できないけど、
思ったよりも順調だ。
さすがに異変を感じたのか、
2体が上層と下層に分かれて移動してきた。
いままでのヤツラよりも強い魔素反応だった。
さてどうしよう。
上層に留まり、やってくる1体を仕留めるか。
下層に飛び降り、迎撃するか。
ふつうならそう思うよな。
だとしたら、そう思わない方を選ぶしかないでしょう。
「空間転移」
最上部に駆け上がった魔族と入れ替わるように、
僕は3階層に転移した。
もちろん狙いは中層で一際大きな魔素反応を示している魔族だ。
こいつがここの司令官ってとこなのだろう。
ドアを蹴破った先に、
戦闘斧を振りかぶった異形の姿があった。
黒と赤の下級魔族とは見た目が違っている。
風貌は人間の姿に近いのだが、
身長は2メートルを優に超えていた。
下級魔族たちは服を着ていないが、
こいつは立派な紳士風の衣服を身に纏っている。
問答無用で激しい打撃が僕に襲い掛かる。
剣で受け止めるが攻撃の技術には雲泥の差があることが明白だった。
【自動運転移行します】
(エミリー、僕は魔素のコントロールに専念する。魔法の発動は僕に権限残しててくれよ)
【はいマスター、魔素残量にご留意ください】
(もちろん、お互いに死にたくないだろう)
【聖鑑定】
氏名:ゾルターン・ヴァヴルシャ
レベル:76
性別:不明
年齢:222
種族:上位悪魔
属性:火★水★風☆土★聖☆闇★
魔法:無詠唱 即死魔法(極大)
:無詠唱 精神支配(極大)
:無詠唱 火炎地獄(極大)
ギフト:魔法破棄
:絶対魔法防御
称号:アチンマジックマスター
不安的中って訳か。
魔法による魔法防御ならなんとかなりそうだが、
アチラもギフトこ持ちの魔法防御か。
周りを魔族に固めさせておけば無敵の存在になるのだろうな。
漆黒の球体の中に突き落としてやってもいいが、
それも無効化されるのであれば、
うかつに近づくことで致命傷になりかねない。
(やっぱり魔法じゃ勝てない相手っぽい。頼むよエミリーちゃん)
【しっかり他の敵を見張っててくださいね】
自動操縦に切り替わった僕は、
未だかつてないスピードをもって相手に斬撃を与え続けた。
サルドウスさんに教わった剣術の基本であるが、
あの地道な講義が、しっかりエミリーの戦闘ルーチーンに組み込まれている。
聖者の墓所の時とは攻撃のパターンも手数も段違いだった。
名前を持ってるのだから知性はあるのだろうが、
言葉で惑わされるのは真っ平だ。
狡猾な相手とは一切の交渉はしない。
ここから先はそういう世界なのだろう。
最後は魔素剣ヴェインに真っ二つにされた後、
約10,000個の賽の目状態まで切り刻まれた。
それも綺麗なサイコロ状である。
ここでエミリーから女子力の高さを見せつけられるとは思わなかった。
それが1粒残らず灰塵に消えゆくところで、
残りの2体の魔族が現れたけど、
結果はこの魔人と同じ運命をたどっていくのだった。
(城壁内に魔族は反応もない。他の生命反応もないけど、1000人分の骸はありそうだ)
【マスター、エレノア軍曹に後始末を頼むつもりですか?】
(いや、それはいくらなんでも。ただ補給を確保しても撤退命令がない限りあの人はここから離れないと思うぞ。まずは援軍を要請しよう)
最後は少し派手にやりすぎたか。
心配させないようにと静かに収めようと思ったが、
魔法攻撃が通用しない敵との遭遇でそれどころじゃなくなったからな。
たいぶ大きな爆発音もしたので心配しているかもしれないな。
エレノアさんの無事を確認するため、
魔素探知の感度を高め、
彼女のいる方向を重点的に探ってみると・・・
「こっ、これは・・・」
B98・W62・H88のHカップを覆っている、
けしからんピチピチ迷彩服に、
謎の突起物が出現しているではないか。
「いっ、いかん。今すぐその内側がどうなっているか確認せねば。ボルダリングだ、ボルダリング!」
【・・・サテラ様に言いつけますよ】
ハノーク砦奪還作戦がここに終了した。




