調査報告書③ 大人のデートを楽しみましょう
まずは負傷者の傷を癒すことから始めるか。
僕の回復魔法は、中位の主天使クラスしか扱えない。
表面的な傷は癒せても、欠損してしまった部分や精神的な傷は癒せない。
とりあえずの応急処置だが、エレノアさんの回復魔法よりはまだましだろう。
「すごい、神官クラスの回復魔法なんて・・・」
「見た目だけですよ。傷が塞がっても安静にしなくちゃいけません」
「ところで、さっ、さっきのお誘いですけど、わっ、わっ、私でよければ・・・」
同僚の回復をみて安心したのか、
僕の誘いを受けてくれた。
詳細は説明していないのに随分不用心だ。
って誘った僕が言える立場ではない。
上空からは街の明かりが見えたのだが、
平地からだと物の影になって明かりはほどんど見えなかった。
それでも警戒しているのならば、
明かりを暗くするべきなのかとおもったけれど、
夜の闇は負傷兵の心を蝕んでしまうらしい。
結局魔族は明かりがなくとも、
狙いを定めれば必ず人間を仕留めに来る。
サルドウスさんの剣術指南でも耳にタコができるほど教わった。
殺られる前に殺せ。
それも剣術の基本だった。
飢えを凌げれば安眠できる。
指揮官として部隊を離れるのは心外だろうが、
ここは少し我慢してもらおう。
10分後宿の外で待ち合わせをする。
その間、大役を終えたマリラを聖都の上層、
モンスターハウスまで空間転移で戻しておいた。
マシューが安心したように翼を広げたのは喜びの表れだろう。
「またすぐに戻るから心配するな。それと皆にはまだ報告しなくていい。朝ごはんまでには戻るから」
【かしこまりました。ご主人様もどうぞご無事で】
いつかマシューもあの空に連れてきてあげよう。
村に戻ると、ビチビチでぱっつんぱっつんの迷彩服に身を包んだエレノアさんがやってきた。
なんだその恰好は。
新手のミリタリーキャバクラ嬢だろうか。
探知無効魔法付与の機能性を重視したのだろうが、
見た目がエロエロ付与の悩殺系になっている。
これならば真っ裸の方がむしろ健全かもしれない。
エレノアさんがキャバクラに在籍しているのであれば、
まちがいなくこの娘を指名するだろう。
うん。しかも延長確定だ。
【浮遊板】
ソフィアからコピーした土魔法。
タタミ1畳ほどの半透明の板を出した。
地面から30センチほど浮いている様子に、
エレノアさかは驚きの表情を浮かべる。
「さあ、これに乗ってください」
「えっ、まさかこんな外で始めるつもりですか!?」
・・・なにか重大な行き違いがあるようだ。
「寝るんじゃなくて座ってください。これに乗って移動するんですよ」
「あっ、そういう事でしたか・・・」
火が出るくらい顔を真っ赤にしたエレノアさん。
もしかしたら、僕はとてつもないチャンスを逃してしまったのだろうか。
【マスター、そういう発想をするからダメンズって言われるのです】
(うるさい。呪うぞ)
街道までは僕が手で浮遊板を押し続けたけど、
真っすぐな街道に出たところで手から風魔法を連射してみた。
すると勢いよく浮遊板が街道を走り出す。
時速にすれば40キロ程度であるが、
ハノーク砦までの15キロ余り。
歩いても走ってもそれなりに時間が掛かる。
まして疲弊しているエレノアさんにそのような無理をさせる訳にはいかない。
でもどうしてもというのであれば、
この浮遊板を人気のないところまで移動して、
少し体力を消費しなくてはいけない事も覚悟はしている。
浮遊板のクッション機能も遊びの部分は大きく設定しておこう。
風魔法を微調整しながらも、
30分もかからずに、ハノーク砦まで1キロの地点に到着した。
最初は怖がっていたエレノアさんだったけど、
慣れってやつは恐ろしい。
もっとスピードは出ないのかと催促されてしまった。
そういえば絶叫マシン系は男よりも女性の方が好む傾向にあったな。
空を飛ぶ気持ちよさとはまた違った爽快感があった。
「エレノアさん、あの砦の事を教えてください」
「はい、谷間を連ねるように砦が築かれています。ここは難攻不落の要害です。中央に門がありますが、今は閉ざされている様子です。もし砦が奪われているのであれば、聖都からの援軍は望めないでしょう」
「城壁の中には居住区とか空間があるんですかね」
「はい、兵士の居住区や関所の行政官の官舎など30程度の部屋があります。それに3層構造です」
そういうと、砦の間取りを地面に描いてくれた。
これは厄介だな。
中に侵入できたとしても、
部屋をひとつひとつ調べるのは手間がかかる。
それに、偵察に行ったエレノアさんの同僚が捕虜にされている可能性もある。
探知されないよう、極少波長の魔素探知で中の様子を探ってみるか。
来るときは、この上空が飛行ルートでは無かったら、
砦の事は魔素探知で調査していなかった。
精神を集中しよう。
どんな些細な魔素の流れも拾い上げるんだ。
「・・・むう、これは!」
「なにかありましたか!?」
「いえ、僕の勘違いです。まだ何も・・・」
思わず近くのものを探知してしまった。
あれはまさしくB98・W62・H88のHカップ!!
ルポルさん、魔石は見つからなかったけど、
魔乳は2つも見つかったよ!
【マスター、死ねばいいのに】
取り乱しました。
さて、砦の中には30数体の反応がある。
あれはマーサさんの開拓村を襲った異形の魔族と同じ波長だ。
一度に倒してしまうのならば、ここからフルパワーの対消滅弾をぶち込んで、
砦もろともこの世から塵ひとつ残らないよう抹殺してしまうところなのだが、
この砦があるから聖都を守っているというのも間違いない話の訳で・・・
聖騎士団の補給路を断つというのが魔族の目的なのであろう。
「それじゃ、エレノアさんはここで待っててくれませんか」
「まさか砦にひとりで向かう気じゃ・・・」
「まさか、僕にそんな勇気はありませんよ。ちょっとだけ様子を探って来るだけです。大丈夫、心配しないでください。僕にはそういう探査系のスキルがあるんですよ」
そう言ってその場から消え去った。
実のところは消えたわけじゃないけど、
単純に早く移動しただけだ。
でもレベル20くらいの人では、
目で追えない早さなのだろうな。
探査されないように、
僕自身全身を真実の偽物で隠蔽している。
もう少しで、エレノアさんからそのエッチな迷彩服を貸してくれと引きはがすところだった。
いや、貸してくれと頼むより、無理やりはぎ取りたい衝動と戦ったが、
僕にはこの魔法があるじゃないかと、
なんとか耐えきったのは自分を褒めてあげたい。
残念だが、ここに人間の魔素は一切ない。
ただし、人間だったものの残骸は確認することが出来た。
その数、実に1000柱近い。
どれだけ命を弄べば気が住むのかと怒りを覚えたけど、
「その感情が落とし穴だ」という兄さんの言葉を思い返す。
城壁の壁下で上を見上げると、8体の魔族が蠢いている。
聖都方面と鉱山方面の両方向を監視しているつもりなのだろう。
まずはご挨拶といきますか。
(左手の第一関節4本分。右手の第一関節4本分。自動追尾付与。捉えたらその場で圧縮。いっけー!)
両指からはなたれた白光の咆哮。
真っすぐに天に向かったかと思うと、
城壁の最上部でほほど直角に折れ曲がり、
城壁最上部を警戒していた異形の魔族をことごとく捉えていく。
どの魔族も断末魔さえ残すことなく白き発行体の光の中へと消えていった。
同時にルポルさんから授かった、
魔素剣ヴェインに魔素を注入する。
刀身が青白い炎を纏ったようにゆらゆらと輝き始める。
ルボルさんの店で纏った魔素とは違った色をしているが、
この剣は人を選ぶと言ってたっけ。
ということは、使われるタイミングだって選んでいるって事でいいよな。
今一番ぶった切りたいもの。
この堅く閉ざされた城門目掛けて剣を振り抜くと、
抵抗感もなくあっさりと門は粉々に切り裂かれた。
「・・・またつまらねものを切ってしまった」
【マスター、初めて切りましたよね】
「いや、一度言ってみたかったんだよ。このセリフ」
ハノーク砦奪還作戦が始まった。




