調査報告書③ 夜間飛行と参りましょう
皆が寝静まった頃、
屋根の上にいるガーゴイルのところまでやってきた。
東側のガーゴイルって言われたけど、
名前はあるのだろうか。
鑑定してみたけど、
どうやら名前は無いらしい。
けれど、性別があることが判明した。
西側の戦闘用ガーゴイルが雄で、
東側の警戒用ガーゴイルは雌だ。
「ポーさんから聞いてるかい?」
そう話しかけると大きな翼を広げて見せる。
ガーゴイル流のコミュニケーションなのだろう。
「まずはキミたちに名前をつけるね。なんて呼べばいいのか困っちゃうから」
二羽が同時に羽を広げて見せた。
了承されたって事でいいのだろうな。
「よし、キミは雄だからマシュー。キミは雌だからマリラだ。今夜はマリラが僕の事を助けてほしい。もちろんマシューにも僕が不在のこの拠点を守っててほしい」
二羽は嬉しそうにカラダを震わせる。
名前を付けた後、二羽とも魔素の潜在量が飛躍的に増加している。
そして僕の魔素がちょっとだけ減少した。
名前を付けると主人として契約したことになるのだろうか。
まぁ、詳しい事はあとでポーさんから聞く事にしよう。
「それじゃ、マリラ。この結界が張ってある空域から脱出する。その方法に驚かないでほしいんだけど分かるかい?」
【もちろんです、ご主人様】
あっ、しゃべった。
偶然ガーゴイルをバージョンアップしてしまったけど、
コミュニケーションは大切だから良しとするか。
「それじゃ、マシュー、留守を頼む」
【・・・御意】
「いくぞ。空間転移」
聖都南にあるウォールバルカから程近い、
開拓村近くまで魔法で転移した。
この魔法、便利なんだけど、
一度行ったことのある場所にしか転移できない。
鉱山のように遠く離れた場所に移動するには、
徒歩で歩いていくか、馬を使うのが基本なのだが、
今回はサテラさんにもしものことがある可能性がある訳で・・・
彼女が今対峙している敵は魔族であり、
魔族の数もそうなのだが、なにしろ相手が悪すぎる。
「よし、マリラ。ここから聖都を避ける飛行ルートで北のレストレア山脈を目指そう」
徒歩で5日。
早馬で2日間。
でもガーゴイルで空から移動すれば、
かなり短い時間でレストレア山脈付近までは行き着くことが出来ると考えた。
難しいのはそれからだろう。
カムラムカル渓谷沿いにあるウルトガ鉱山。
ピンポイントで発見するのは困難だろう。
今夜の目的は、人里をみつけたらその地点をマークしてくることだ。
そのあと僕がひとりでマーク地点に戻り、
情報収集するれば目的地へは自ずと道は開けるはずだ。
【ご主人様、しっかりとおつかまりください】
羽を広げたかと思うと、あっという間に僕は空を舞っていた。
鳥に乗るなんて事は昔某国営放送のアニメを見て以来の夢だったが、
それが異世界で現実のものとなるとは、思ってもみなかった訳で・・・
バサバサと羽ばたいて上昇するのかと思いきや、
重力が無くなった、もしくは反発して浮かび上がった。
少なくとも、垂直離着陸の戦闘機のような強引さは微塵もない。
だから、つかまっていろと言われても、
揺れる事さえない乗り心地には良い面で期待を裏切られてしまった。
雲よりも高いところまで、大きく旋回しながら上昇を続けていく。
満月に近い今夜の月明かりは、夜の散歩には丁度良い。
下層の積雲を超えたあたりで水平飛行となったが、
眼下には月明かりに浮かび上がる積層の雲海。
高く、早く、そして自由に空を飛ぶ。
防御魔法の結界が張ってあるので、
風を受けるというところは弱いんだけど、
いま間違いなく僕とマリラは風と一体となっているだろう。
「すごいよ、マリラ。子供のころの夢が叶った気分だ」
【ご主人様、このような自由な空が広がっているという事を今夜初めて知りました。私こそ感謝致します】
「機会があったらマシューも連れ出してあげよう。狭い空間ばかりじゃつまらないもんな」
【はい、兄も喜ぶはずです】
「・・・兄さんだったのか。てっきり夫婦かと」
【私たちは同じ工房で同じ製作者から作られましたから兄妹です】
マシューとマリラ。
ほんとうにぴったりの名前だったな。
風に乗り、滑空を続けること2時間余り、
前方の果てに、白銀を頂く山脈が見えてきた。
月明かりに白い山肌が神々しくみえる。
魔素探知の出力を最大限に上げた。
ここから先は何が起こるかわからない。
もちろん魔族の奇襲だってあり得る訳で・・・
マリラは戦闘用のガーゴイルじゃない。
警戒用と言っても空から侵入者を発見・威嚇するのが役割であり、
攻撃に向いているスキルは持ち合わせてはいない。
僕がマリラに乗っていれば、絶対魔法防御や、物理攻撃防御。
そして気配自体を無かった事にしてくれている、
真実の偽物で守られているのだけれど、
だからと言って前条の最前線に連れて行こうとは思っちゃいない。
そこから先は僕の仕事という訳だ。
「・・・マリラ、進行方向2時、街灯らしきものが見える」
【確認しました。その付近に着陸してもよろしいでしょうか】
「ああ、できるだけ灯からは離れたところで頼めるかな。敵の陣地とも限らない」
といってみたけど、魔素探知の反応は人間のものだった。
捕虜にしては、魔族の反応が見当たらない。
軍の宿営地にしてはレベルの高い人間も見当たらない。
小さな開拓村といったところなのだろうか。
明かりが近づいてくると、
近くの森の付近で高度を下げながら滑空していく。
明かりの数からすれば村の戸数は100軒余り。
マーサさんの開拓村と同じような規模という訳か。
という事は、宿の1軒くらいはあるのかもしれない。
できるの事なら、1週間とか部屋を借りれれば、
この村を仮拠点として調査探索に出かけられるし、
空間転移するのも都合がよい。
まもなく夜も更けそうな時間なのだが、
はやる気持ちを抑えきれず、
マリラを森の中に待機させ、
僕一人、単独行動で村の宿屋に向かってみた。
夜遅くとも、
宿屋には夜警を兼ねた帳場番がいるものだ。
マーサさんの宿にも年寄りの爺さんを夜間当番として雇っていた。
移動手段が徒歩や馬車のこの世界。
明るいうちに宿のある村までたどり着く保証はない。
特に鉱山聖都を結ぶ主要街道沿いにあるこの開拓村。
旅人を受け入れるのは24時間対応しているのは当然なのだが・・・
「・・・すいませーん、誰かいらっしゃいませんか?」
食堂のカウンターを兼ねる受付には誰の人影もない。
建物の中に、人の気配が7名、いや8名程度あるのだけれど、
どれが客の反応で、どれが宿屋の関係者のものなのかが分からない。
きっと居眠りでもしていて、僕の来訪に気がついていないのだろう。
今夜のところは運がなかったと諦めるしかないのか。
そう踵を返したその瞬間だった。
「動かないで。そのまま両手をあげなさい!」
カウンターの裏にあるパントリーから、
それまで全く反応することが無かった人影が飛び出してきた。
振り向くなと言われたので手をあげて敵意は無いポーズを取ってはみたが、
相手は依然として警戒を解こうとする様子は無いようだった。
僕に向けられているのはボーガンなんだろうか。
多分、物理攻撃防御の防衛対象にはなるだろう。
たまにアンやペトラ、マーサさんの攻撃が通用しなかった時はあったけど、
この場面でそれが通用しなかったら、
ギフトの欄から消去してしまおう。
「あなた何者?」
「旅のものです。聖都からウルトガ鉱山に知人を訪ねてやってきたんですが、すっかり日が落ちてしまって、こんな夜分に申し訳なかったです」
「聖都から?ふん、見え透いた嘘をよくも・・・」
「いえ、本当なんです。僕は聖都ギルドのミスリルホルダーの冒険者です。とあるクエストも請け負ってまして。メダルを渡しますから手を動かしてもいいですかね」
「・・・ヘンな真似したら撃つからね」
左手で首のメダルをそっと差し出してみた。
「ボーズ・ランウォーカー。登録年月日ってつい最近じゃない。それじゃあなた、本当に聖都からの援軍なの!?」
驚愕の声をあげたのは、
手にボーガンを持ち、迷彩服で身を包んだ女性だった。
しかも、戦闘力がもの凄いことになっている。
今にもそのシャツのボタンがはちきれんばかり。
隠されたけしからん過ぎる戦闘力が、
とてつもなく自己主張しているではないか。
「しっ、失礼しました。私は聖国国防軍所属、エレノア・クラーセン軍曹であります」
戦闘力が半端ない、爆乳軍曹と遭遇した。




