調査報告書③ もしもの時はどうしましょう
「すごい剣です、ありがとうございますルポルさん!」
この感謝をどうすれば伝えきれるだろうか。
今すぐマーサさんのところに空間転移してあげるか。
いや、まて。この剣でクソババぁを切り殺せと言われたら僕が困る。
それに僕がどうのこうの以前に、
あの二人を突然再開させるのは危険すぎる。
【まぜるな危険】と表示しておくべきだった。
「それとこれは嬢ちゃんたちの役に立てばいいんだが」
ミスリル製の短杖が2本。
これも魔剣ならぬ魔杖なんだと理解することが出来た。
「こいつがアン嬢ちゃん用だ。5属性適合ってのも相当なレアスキルだぜ。ただし、これはまだ未完成品。杖の先に高品質の魔石を埋め込む必要がある」
高品質の魔石。
空間格納庫から、
吸血姫の魔石を取り出してみた。
いまのところこれしか持ち合わせていない。
「なんて禍々しい魔石だ。魔石というより魔核に近いな。高性能であるのは違いないが、これじゃ使い手の精神が崩壊しかねない。いいかボーズ、お前は自分の魔素を剣に流し込むが、この短杖は、魔石から力を支援してもらう増幅装置だ。できれば鉱山から出た自然石の魔石がいい」
「鉱山って犯罪奴隷が送られるようなところですよね・・・」
「なに言ってやがる、遅かれ早かれどうせ行くに決まってる。お前は」
・・・酷い。
「ちょっと、おじいちゃん・・・」
ナタリーさんから咎められ、
慌てて言葉が足りなかったことを付け加える。
「いやすまん、お嬢ちゃんたちの為に魔石を取りに行くような男だって言ったまでだ。それだけお前さんの事をワシは買っている。ほれ、これにもお前さんの魔素を流ししてみろ。闇属性だけ抜いて流すのじゃぞ」
右手から流し込んだ魔素は、
先の魔素剣と同じく、
杖全体に葉脈のように魔素回路が張り巡らされていた。
つまり、魔石が埋め込まれた場合、
その逆の事が起こるという訳か。
まさに魔素の増幅装置という反則級の短杖なのだろう。
「聖都から北に120キロのレストレア山脈。その麓に広がるカムラムカル渓谷沿いにあるウルトガ鉱山。そこでしか産出されない『紅孔雀石』は火・水・風・土の4属性魔石だ。この杖には最適だろう」
「ルポルさんがそこまでおっしゃっているのにまだ未完成という事は、希少性の高い魔石ってことなんですね」
ルポルさんが目をつむり、
あごひげを撫でながら黙り込む。
ナタリーさんも気のせいか僕から目を背けたような気がした。
「・・・どうかされましたか。気に障るような事でも言いましたでしょうか?」
「そこの鉱山は現在犯罪奴隷はいない」
「へぇ。鉱山って聞いたから、てっきり奴隷が酷使されてる地獄かと思ってましたよ」
「まぁ、地獄だというのはあながち間違いではない・・・」
「大丈夫ですよ。モンスターハウスに転居してからチーム内の人間関係が地獄絵図化してますから、大抵のことは聞いても驚かないと思います。ははははっ」
とっさの切り返しなのだが、我ながらあきれる返答だった。
「そうか、それならいい」
・・・えっ、いいのか?
ルポルさんの口から聞いたことは、
僕の想像をはるかに超えた話だった。
いまから遡ること3ヵ月前。
ウルトガ鉱山に魔族の大群が押し寄せてきた。
鉱山にいるすべての人間が殺されたらしい。
魔族がなにを目的としているのかは今もって不明だが、
現在、聖騎士団と魔族が全面的に交戦中なのだ。
だから聖魔の予言の時、
サテラさんのような若い女性が単独行動をしていたというのも頷ける話だった。
そちらに戦力の大部分を振り向けなくてはいけない事情があったのだろう。
「ボーズの主、ペンツピルスの嬢ちゃんも、その鉱山に補充されている」
「サテラさんが・・・」
「このところ、魔族との戦闘用に武器や防具の大量発注があってな。鍛冶師組合はてんてこ舞いよ。なにせ魔族を倒せる武器なんざ打てるヤツなど片手くらいだ。まぁ、それでも俺は人を見るがな」
にぃ、と卑屈に右の口角だけを吊り上げる。
「ボーズの主はベンツピルス家の嬢ちゃんのままだろう。という事は嬢ちゃんはまだ生きているって事だ。でもな、魔族を相手に長期戦なんぞどう考えても人間にとって有利な事などある訳がない・・・」
これはクエストではない。
僕のワガママである。
主のピンチをほ放っておくわけにはいかない。
「がはははははははっ。そうくると思ったわい。なに気にするな、お前は自分の短杖の魔石を探しに行くだけじゃろう」
「もちろん魔石探しです。それとこの剣の切れ味を試しに」
「もう一つは風・土・闇の属性じゃ。猫目石なら上出来じゃろう。孔雀石よりは簡単に手に入るが、折角じゃからウルトガ鉱山で見つけてこい。それともう一人の嬢ちゃんのことじゃが・・・」
黒い布に巻かれた包みほ渡された。
これはソフィア用の武器ではないが、
いざとなったらソフィアに使えと言われた。
うけとった瞬間、ルポルさんの意図がなんとなく分かった。
きっとこれは僕が使えない武器だろう。
魔族との交戦。
隷属契約は結んでいるとはいえ、
ソフィアはもっとも魔族に近い存在だ。
もし大規模な戦闘になったり、
高レベルな魔族と対峙した時、
ソフィアが僕たちを裏切るような行動に出るならば、
僕はソフィアを御しきれるのか。
やるときはやる。
そう格好をつけたとしても、
その瞬間がくるまでは、
実のところ僕自身でさえ分からない。
ルポルさんはその時が来たら、
僕はダメだと判断したという事か。
複雑な思いが絡み合うけど、
別に意地悪をされている訳ではない。
むしろ親心なのだろう。
僕の甘さへの警告。
兄さんも言ってたっけ。
魔王・魔族は狡猾だって。
あらゆる隙間に入り込もうとしてくる。
歴戦の勇者であるルポルさんも、
その事は身に染みて理解している事なのだろう。
丁重に礼をして鍛冶工房レブロンを後にした。
剣の残金は予定通り金貨200枚を支払ったけど、
アンとペトラと、それとソフィア用の追加代金は、
剣の代金に含んであると、一切の支払いは求められなかった。
それも鍛冶師マイスターとしてのプライドなのだろうな。
(エミリー、この黒い包みの中なんだと思う?)
【重さと形状から判断すればナイフのように思われます】
(ああ、たぶん銀製のナイフだ。吸血鬼の心臓に突き刺す鉄板アイテムの・・・)
【いがされますか。マスターが使用できない場合、アン様に手渡すべきかと思料いたします】
(いや、アンにそこまでの責任を負わせたくない。これは空間格納庫に入れておくから、いざという時はエミリーに一任する)
【了解しました。私には感情がありませんが、もし感情というものが存在するなら、マスターを恨んでいるところなのでしょうね】
(・・・それが恨みの感情だと思うよ。ところで鉱山まではどのくらいかかるかな)
【空間転移出来ないエリアですから、徒歩なら5日、早馬なら2日程度でしょうか】
(うーん、そうだな。もう一つ方法があるかもしれない。とにかく拠点に帰ったら、ウルトガ鉱山の作製会議といくか)
サテラさん。
どうぞご無事で。
特にその美しすぎる戦闘力はご自愛を・・・




