調査報告書③ マイスターの魂が完成しました
サルドウスさん達、雷帝の剣の特訓が終わりを迎えた日、
鍛冶工房レブロンから注文の品が完成したとの連絡が入った。
ルポルさんにどうしても会いたいというサルドウスさんを連れ立って、
鍛冶工房レブロンに向かったのだが・・・
「なぁ、ボーズ。ルポル翁、俺にも1振り剣を打ってくれないかな」
「さあ、どうでしょうね。僕の剣を打ってくれるってのは偶然が重なっただけですから」
マーサさんとの再会を果たした時は、
下手すれば最終戦争に突入する可能性があった。
かつて炎帝と呼ばれた夫婦の本気の喧嘩だ。
少なくともマーサさんの開拓村は、
魔族襲撃以上の壊滅的な被害が出ていた事だろう。
「ルポルさんは打ってくれるかどうかは分かりませんが、この剣を打ってくれたお孫さんもなかなかの腕前ですよ」
正確にはひ孫なのだろうけど、
面倒なのでそれ以上の説明はしないでおく。
ナタリーさんの魔剣を鞘から抜いて、
魔素を流し込んでみる。
僕の魔素は全属性の魔素を練り込んだ特別製らしい。
ここはサルドウスさんと同じく、
火と風を練り込んだ雷属性の魔素を纏われてみた。
ミスリル銀の刀身が淡く黄色に光り出す。
通常でも鋼の剣より3割ほど軽いのだが、
魔素を纏わせたその剣は、ほとんどと言っていいほど重さを感じることは無い。
剣術で重さを感じないという事がどれだけのアドバンテージになるのか、
この10日間でサルドウスさんには嫌というほど教え込まれた訳で・・・
「それに超絶の美人ですよ。ビリアンティさんにも負けていませんから」
「なんだ、女なのか?」
「女性でも腕は関係ないじゃないですか・・・」
「いや、『果実は青いほど美味い』って主義なだけだ。こんなすごい剣を打てる人なんだ。それなりに年いってるんだろう」
「たぶんビリアンティさんより若いと思いますよ。よくわからないけど」
「何、まさかソフィアちゃんと同じくらいか?」
88才という事なのだろうか。
見た目の12才くらいと言いたいのだろうな。
どちらにせよ、こいつは正真正銘の変態野郎だ。
「20才すこし超えたくらいです・・・」
ちょっと残念そうな表情を浮かべる変態野郎。
普通なら『どストライク』と喜ぶところだろう。
ルポルさんとナタリーさんの前で変なことしなきゃいいんだけど。
「きたなボーズ。なんだ連れがいるのか?」
「お初にお目にかかります。私は『雷帝の剣』のユリウス・サルドウスと申します!」
「雷帝・・・。つまりお前はイエレミヤーシュの弟子って事か?」
「はい、最後の弟子のひとりです」
僕の剣がお披露目されることなく、
「出ていけ!」と一喝され、けんもほろろに追い返されてしまった。
まったく一体全体どういう事なのだろう。
「サルドウスさん、どうしてくれるんですか・・・」
「いやぁ、すまん。まさか師匠とルポル翁があんなに険悪だなんて思ってもみなかった」
かつて雷帝と炎帝として、
勇者エリアスに仕えた従者の縁。
それを頼って剣を打ってもらおうという姑息な手段が悪かったのだろう。
こんなことなら、はじめからナタリーさんに魔剣の製作依頼をすればよかったのに。
どうも俺はルポル翁とは縁がなさそうだと、
頭を掻きながら「雷帝の剣」の拠点へと帰っていくサルドウスさん。
なんだか後ろ姿はとても悲しそうに見える。
まっすぐな人だから、あれで結構傷ついてるかもしれないな。
「サルドウスさん、近々ウチの拠点で引っ越し祝いやりますから来てくださいね」
振り返らずに軽く右手を上げる。
「ソフィアも会いたがってましたよ」
「そうか、いつやるんだ。今夜か、明日か、なんなら3日くらいなら泊りこみでもいいぞ。もちろん泊る部屋はソフィアちゃんの部屋でいい♪」
猛ダッシュで戻ってきやがった。
この変態野郎め・・・
仕方が無いから、ビリアンティさんは僕の部屋に案内しよう。
あの魔乳の伝説の全貌が解き明かされるかもしれない。
【・・・変態野郎】
今はどんな言葉も快感に感じる。
さて、僕は鍛冶工房レブロンに戻るか、
それとも日を改めたほうがいいのか。
迷っているところに、ナタリーさんが迎えに来てくれた。
「ボーズさん、さきほどはおじいちゃんが大変失礼しました」
慌てた様子で息が上がっている。
走ってやってきたのだろう。
汗こそ書いてはいないけど、超絶美女の乱れる呼吸がなんとも・・・
【・・・変態野郎】
「こほん、こちらこそ失礼しました。まさか『雷帝』さんとルポルさんが険悪なご関係だと知りませんで」
「話せば長くなるので、その話は後程。まずは店の方にお戻りいただけますか?先ほどの方は・・・」
「今日のところは失礼するそうです。もしよろしければナタリーさんに剣の製作依頼をしたいそうですが、あらためてご相談いただけますか」
「ええ、私でよければいつでも」
サルドウスさんの為に、
「私でよければいつでも」なんて言葉をもらうのはムカつく。
この言葉はプライベートで僕だけが聞きたかった。
例えば引越パーティーに誘った時、
「酔いすぎて帰れない・・・」
「よろしければお泊りください。僕の部屋でご一緒に」
「私でよければいつでも♪」
なんてことになったら最高だったのにな。
【・・・変態野郎】
ぶちっ。
さて邪魔者は消えた。
店に戻ると、バツの悪そうなルポルさんが待っていた。
「雷帝」の名前に激高したものの、
僕の剣が完成したことはすこぶる機嫌がいいらしい。
「いやぁ、ボーズの客人にすまなかったな」
「いえ、事情も知らず同行させてしまった僕の責任です。こちろこそすみませんでした」
「そう言ってもらえると助かる。ヤツとは少なからずの因縁があってな・・・」
ナタリーさんからもその因縁については話が長くなると聞いているので、
今日のところは聞かないでおこう。
それにマーサさんから聞いた方が、
結論が早く出そうだしな。
「まずはこの剣を見てくれ」
ミスリルの剣だと聞いていたけど、
この刀身にはミスリル銀特有の光り輝く金属光が無かった。
普通の銀であればその表面はすぐに変色してしまうのだが、
ミスリルにそのような劣化はあり得ない。
でもそこは鍛冶師マイスター、ルポルさんの剣だ。
そのような失敗などありえるはずがない。
普通ではない剣という証なのだろう。
剣を受け取ると、わずかではあるが刀身がミスリル光を発した気がした。
「その剣は人を選ぶ。ボーズは全属性適合者だってな。マーサから聞いている」
「・・・全属性適合。信じられない」
ナタリーさんから驚愕の声が漏れる。
出来れば夜にその言葉を聞きたかった。
「ボーズ、お前は普段どんな魔素を剣に纏わせている」
「選ぶときは火とか水とか、相手の弱点の魔素ですけど、大抵は僕のカラダの中にある魔素を練り込んで使ってます」
「それが出来るのは全属性適合者だけだろう。ふつう魔素をコントロールできるのは、そいつの属性している魔素だけだ。その剣に全属性の魔素を流し込んでみろ。いいか纏わせるんじゃない。流し込んでみるんだ」
右手にもった刀身に、練り込んだ魔素を流し込む。
纏わせたのではない。
刀身に通る幾筋もの血管のような魔素の通り道。
これが全属性融合した魔素だなんて気がつかなったけど、
剣に血が通ったような、生命の鼓動を感じることが出来た。
「・・・すごい。魔素が漲ってくる」
「そうだ。今この剣に生命が宿ったって訳だ」
ミスリル銀の光沢とは違った生きている剣の輝き。
ナタリーさんの剣も凄かったけど、
この剣と比べてしまえば格が違っていた。
長い年月を経てたどり着いた職人の聖域。
その神髄がこの刀身すべてに現われている。
「気に入ったか?」
「はい、もちろんです!」
「それはよかった。ワシの最高傑作だからの。もっともミスリル製ではという所じゃが。まぁ、今の世にこれ以上は望めぬわい。どうじゃ、その剣に名前を付けてやらねば。所有者であるボーズが名付けると言い」
ネーミングセンスは最低なのだが、
この剣に魔素を流し込むとき感じたままを名前にしようと思った。
刀身の隅々に魔素を運ぶ葉脈のような魔素回路。
生命を宿すのは、その通路がいかに繊細なのかが物語っている。
「魔素剣ヴェイン」
「今からその剣の名前はそれで決まりだ。大切にしてくれ」
「はい、ルポルさん!」
待望の僕の剣が完成した。




