調査報告書③ 真夜中の狂騒曲
うーん。
落ち着いて寝られない。
主寝室は20畳ほどあるのだが、
大きなベットがひとつと、クローゼットがふたり。
あと、小さな机がひとりあるか。
書斎が別室である為か、特に目立った家具は無かった。
なんだか殺風景な部屋である。
それに天蓋付きのベットだなんて、
映画の世界でしかお目にかかったことが無い。
とりあえず、空間保管庫にしまっていた3Dプリンターを机に置いてみた。
相変わらずエネルギー残量は限りなくゼロに近い。
これが動けばこの世界でも役に立つような便利道具が出来るんだけどな。
【マスター、具体的に何を作ろうとしているのですか?】
(そうだな、武器はルポルさんに頼んでいるけど、防具系の装備って貧弱だよなぁ)
【確かに。マスターはメイル系防具の装備が可能ですが、女性陣は基本的に魔法使い。防御系の装備は弱いと判断します】
(そうなんだよなぁ。炭素繊維で防御力の強いローブなんか作れないかなぁ)
【作れますよ】
(はぁ?じゃあなんで作ってくれないのさ!)
【材料が無いからです。こちらの世界でも直接材料を仕入れることが可能であれば可能だという事です】
(それじゃ、ミスリル製の剣なんか、ミスリルのインゴットさえあれば出来るというのか?)
【はい、一度粉砕機で微粒子まで粉砕する必要がありますが、その機能は搭載されています】
(なんで教えてくれなかったんだよ!)
【マニュアルにちゃんと記載されてますよ。教えなかったとは人聞きが悪いですね。聞かれなかっただけです】
(・・・じゃあ、炭素繊維の道具は何が原材料になるんだ?)
【石油ですね。この世界で石油の存在は確認されていませんが、間違いなく埋蔵されているはずです】
そうか。
それとなく石油の事も調べておく必要があるな。
近々ディックさんの書斎でなにか役に立ちそうな情報がないか調べてみよう。
僕より200年も早くこの世界で生活していたのだ。
役に立ちそうな情報は同じ日本人的な視点で大いに期待できるところである。
このプリンターは稼働さえすれば大きな戦力になるのだから。
そんな眠れない時を過ごしていると、
僕の魔素探知が異変を察知した。
屋根の上で何かが動いている。
(エミリー、屋根の上で何か気配を感じた)
【敵意は無いのでしょうか】
(ああ、僕たちを攻撃してくるような気配はないけど、この屋敷。ボーさんの魔法結界で守られているんだぜ。しかも相当レベルの高い防御魔法だ)
気になって窓を開けると、
そのまま一気に壁を伝わり気配のあった屋根まで駆けのぼる。
ビビりなので、一応ナタリーさんの剣は持ってきた。
すると、屋根の上にとてつもなく大きな怪鳥が羽を広げているではないか。
漆黒の中に浮かび上がる黒い影。
すると背後にもう一羽怪鳥が羽を広げて見せた。
「・・・もしかしてガーゴイル?」
襲ってくるどころか、僕の頬にくちばしを擦りつけてくるような仕草を見せる。
なるぼと、これがポーさんの言ってたこの屋敷の見張り番か。
「はじめまして、僕はボーズだ。今日からお世話になります」
言葉こそしゃべれないけど、二羽とも人懐っこくカラダを擦りつけてくる。
このガーゴイルたちもディックさんが使役した精霊たちなのだろうか。
手をガーゴイルのカラダにあて、魔素の流れを探知してみる。
やはりこのガーゴイルたちも、大地の魔素を吸収している気配がする。
ご挨拶代わりに、僕の魔素をお裾分けだ。
すると突然ガーゴイルの二羽が天高く飛び立ってしまった。
(いっちゃったよ・・・)
【マスター、気分を悪くしたわけではなさそうです。ご挨拶としては適宜であったと思料します】
警備を放棄してどこ行くんだと思いつつ、
僕が24時間索敵中だから別にいいんだけどね。
でも、心強い仲間がいるって事は大いに安心できるのだ。
屋根の探検を終え、寝室に戻ると、
今度はクローゼットになにか反応がある。
おいおい、次は何だよ。
クローゼットの中から、学校の理科室にある人体模型でも出てきたら恐ろしすぎる。
誰かの悪戯にしてもお痛が過ぎるレベルだ。
ガタガタと音がするクローゼットの扉が急に静まり、
スーっと扉が開いていった。
中から出てきたのは白い服の少女が・・・
「うぎゃーーーーーーーーーっ!」
王道のホラー映画を見たかの如く、
つい大声を出してしまった。
やっぱりここはモンスターハウス。
お化けの1匹や2匹。いや10や20.
ついさっき屋根に化け物の鳥を二羽も見たばかりだ。
でも人型お化けってヤツは怖すぎるだろう。
「・・・ご主人様、アンです」
「へっ、なんだアンかよ」
「すみません、ご主人様の部屋の様子がおかしかったので、ドアを叩いたのですが返事がなくって・・・」
「ああ、それは悪かった。ちょっと屋根の様子を見に行ってたんだ。このクローゼット、アンが穴をあけたのか?」
「いえ、なんか気になってクローゼットを開けたら、この扉があって・・・」
そういえば、さっき部屋を決める時、
ポーさんが意味ありげに隣の部屋を勧めてたっけな。
それにしてもこの秘密の通路をすぐさま探し出すって言うのは、
アンの魔眼による検索能力なのだろうか。
まぁ、いまそんな事を考えてもしょうがないか。
「勝手が違うから寝れないんだろ。実は僕もだ。みろ、こんな天蓋付きのベット。落ち着かないったらありしゃしない」
いつまでもアンを立たせている訳にもいかず、
ベットまで来るように手招きする。
魔石灯の薄暗い光と、窓から差し込む月明かり。
僕の部屋の明かりはそれだけなのだが、
アンの白いワンピースのナイトガウンから、
カラダのラインをくっきりと浮かび上がらせている。
戦闘力は発展途上ながら腰のラインは危険水域に達している。
ベットに腰掛け、興味が無いような素振りで話しかけるのだが、
つい意識せずにはいられなくなってくる。
何気ない会話の中で、はにかむように笑顔を見せるアンを見るたび、
思わず両肩を強く抱きしめたくなる衝動が僕を襲ってくる。
これはまずい。
モンスターハウス初日でアンと一線を越えてしまったら、
サテラさんの隷属契約で僕が殺される。
・・・でも、殺されてもいいや。
そんな葛藤が波のように僕を襲い掛かる。
その時だった。
ベットの横の空間に、黒い棺が浮かび上がってきた。
「ご主人様ぁ、なんか枕が変わってよく眠らないのでいっしょに寝ましょう♪ってあれ、なんでアンがご主人様の部屋にいるの?」
棺の蓋が豪快に開けられたかと思えば、
空気が読めない天然吸血鬼がお出ましだ。
しかも、黒のスケスケのナイトウェアで。
がちゃがちゃがちゃ。
部屋のドアを開けようとする気配。
鍵が掛かっている為、部屋に入ることは出来ない。
「開錠!」
がちゃ!
「ちょっとぉ、婚姻関係に無い男女は一緒に寝ちゃダメってルールでしょう!」
ペトラが尻尾を逆立てて猛烈な抗議にやってきた。
おい、今しれっととんでもない魔法を使わなかったか?
こっちはストライプのピンクのパジャマ。
うん、学生はこういう正統派じゃないとね。
そんなこんなでギャーギャーと騒ぎ立て、
結局大きなベットで3人仲良く寝ることになった。
これじゃ、今までと変わらない。
もちろん僕は床で体育座りだった。




