調査報告書③ プライベートは守りましょう
「ここがリビングでございます。そして向こうがダイニング。奥はキッチンとなります」
稽古を終えるとまっすく向かったのは新しい拠点となるモンスターハウスだ。
玄関にはポーさんお手製の【緑の切り妻屋根】の表札が掛けられている。
実際のところ、モンスターハウスは赤い煉瓦葺きの陸屋根なのだ。
まぁ、チーム名はここにくる前に決めていたので、
これから表札を見る人たちは不思議に思うかもしれないけど、
その怪しさがモンスターハウスには相応しいのかもしれない。
荷物は全てアンの妖精の小箱で運んでいる為、
てぶらに近い状態でやってきた。
ポーさんはその点について一切質問することもなく、
部屋の間取りを案内してくれた。
2階にはディックさんの書斎と20畳ほどのホール。
そしてアンとペトラが待望していたお風呂である。
蒸し風呂が主流のこの世界では珍しく、
お湯につかれる大き浴槽があった。
さすがディックさんが日本人であったおかげというところか。
久しく使っていなかったというが、
屋敷全体がポーさんの魔法によって、
経年劣化しないように保護されていたため、
古さはまったく感じられない。
お湯は魔石によって供給される仕組みのようだったので、
これだけは新しいものと交換が必要みたいだ。
「3階は寝室が5つございます。そのうち1つは主寝室でございますので、ボーズ様がお使いください」
「広い部屋を貰っていいんでいすか?」
「はい、ご当主がお住まいになられる訳ですから。お嬢様方は、それぞれ自室がございます。それぞれお好きなお部屋をご利用くださいませ」
勉強に集中できると一番明るい部屋を選んだのはペトラだった。
逆に隣の家に隠れて日当たりが悪そうな部屋を選んだのはソフィア。
それぞれに個性が出るけど、自分の部屋が貰えたことはすごく嬉しいらしい。
部屋に入るなり、ベットめがけてダイブとなった。
「アンはどの部屋がいい?」
「・・・私はご主人さまと一緒の部屋がいいです」
かぁ。
こういうのって弱いんだよなぁ。
なんだか無性に守りたくなるのは男の性なのだろうな。
でも、こんな綺麗で大きなベットに美少女と二人きり。
間違いを犯すなというほうが無理っぽい話だ。
その際、ぼくの戦闘力に対するこだわりは微塵も無くなっているに違いない。
行き着く先は天国、そう天国でしょう♪
【マスター、サテラ様との隷属契約をお忘れなく。行き着く先は地獄となりますよ】
取り乱しました。
「アンお嬢様、当屋敷では婚姻関係に無い男女の同衾はご法度でございます」
うつむいて固まってしまうアン。
自分の部屋をもつなんて考えた事もなかったのかもしれない。
彼女の生い立ちを考えれば無理のない話である訳で・・・
ポーさんにそれとなく視線を投げかけてみる。
「左様でしたら、ご主人さまのお隣のお部屋は如何でございましょう。壁一枚離れておりますが、一番近くにご主人さまがいらっしゃいますよ」
「アン、ここはみんなと同じで部屋を決めてくれ」
「・・・わかりました。その部屋をお借りいたします」
部屋にはそれぞれクローゼットや机、それにベットが備え付けられている。
金獅子亭より厚みがあり、適度に反発してくるマットレスは、
ぐっすりと眠るには丁度良いだろう。
なんでもこのフロアは、かつてディックさん達の仲間が居住していたらしく、
トイレも水洗だし、洗面台も複数ある。
共同生活するには間取りも設備も理想的だった。
まぁ、ウォシュレットがあれば尚良かったんだけどね。
「4階の屋根裏は、私たち従者の居住区です。私とマリルー、そして作業用のゴーレムたちが住んでます」
「ゴーレムって石でできた動く人形みたいなのですか?」
「はい、当家にはお使い用のミスリル製人型ゴーレムと建築・力仕事用のストーンゴーレムが数体。それに屋根には警備用にガーゴイルが2体控えております。ですからご安心してお寛ぎくださいませ」
やっぱり本物のモンスターハウスだった訳だ。
従者とはいえど、対等な立場で仮契約しているのだ。
当然ながら、彼女たちの生活区域には立ち入らないようにしよう。
一番怪しいソフィアにはきつく言っておかないとな。
「ご主人様ぁ、屋根裏にヘンな人形があるんですぅ!」
・・・遅かったか。
ここはこの屋敷で生活する上で、
最低限のルールを作ることが必要だ。
さっきのソフィアのフライングは、
最初に徹底しなかった僕が悪いと言える。
ということで、
冒険者チーム『グリーンゲイブルズ』最初のミーティングが開催された。
僕たちのチームは戦闘を目的としたチームではない。
だからこれから始める調査行動において、
戦闘を伴う場合の基本方針は「命を大事に」
強い敵とは戦わないってことだ。
まして魔王出没中なんてところには絶対にいかない。
そしてチームで一番大切な事。
それは「仲間を大切に」である。
夜な夜な僕と誰が一緒の部屋になるかなんて争いは無駄だ。
これからはちゃんと個室が与えられたのだ。
プライベートはしっかり守る。
これもまた大切な事である。
それに誰かが困ったらみんなで助ける。
みんなはひとりの為に。
ひとりはみんなの為に。
それがチームワークなのだ。
もうひとつ大切なことが、
「富の分配」だ。
調査をすれば過去の遺物や、
魔獣や魔族を討伐すれば、報酬や名誉が与えられる。
ドロップするアイテムもあるだろう。
これについては、一度チームで受け取った後、
それぞれに給料を払うって事で制度化した。
以前、アンから奴隷に給料はいらないって言われたことがある。
ソフィアだって僕と隷属契約している訳だから、
僕の所有物ってことになるのかもしれないが、
それはあくまで契約上の都合だ。
メンバーは対等でなければいけない。
まぁ、チーム資産の決裁権限は僕にあるんだけどね。
チームの共有財産とすることで、僕も無駄遣いは出来なくなる。
つまり抑止力ってところだ。
「それと夜中騒ぐんじゃないぞ。ペトラは学校の勉強もしなくちゃいけないんだ。特にソフィア、お前は夜行性だから個室で夜通し起きていたら魔法で眠らせに行くからな」
「そんなぁ。でもお腹がいっぱいなら夜でもぐっする眠れますよ♪」
部屋にひとりだとベットに座り壁に向かって体育座りしている可能性がある。
怪しいので時折パトロールしに行くか・・・
「さぁさぁ、みなさん。そろそろお食事にしましょう。今夜はマリルーが腕によりをかけて歓迎のお料理を作りましたよ。お嬢様方には大きなケーキもご準備しております」
「やったー!わたしケーキなんて食べた事ないです!」
「ケーキって何?ご飯より美味しいものなの?」
「・・・お腹、減りました」
三者三様の反応だけど、
皆が食事を楽しみにしていた事は間違いない。
特別に今夜は高級ワインでも開けるとするか。
こんなモンスターハウス1日目の夜であった。




