調査報告書③ 秘密の扉を開けましょう
吸血鬼の真祖、ゴットフリート・ベルクソンは天に召されていった。
まぁ、レイス化したベルクソンには自我が無かったようだから、
復活したとは言えなかったのかもしれない。
「はぁ、ご主人さまぁ♪」
こっちの問題児も昇天してしまった。
ベルクソンと一緒に闇に葬り去るべきだったか・・・
「おい、それよりも真祖の胸のあたりにディックさんと同じ魔素を感じたんだろ?」
「はい、それは間違いありませんが、何故か途中で意識が遠のきまして、どこに行ったのか分からなくなりました・・・」
・・・それはお前が●ったからだろう。
ベルクソンが消え去ったあたりを探してみると、
草むらに何やら金属光のあるものを見つけた。
「これはギルドメダルだ」
拾い上げるとそれは聖都ギルドのメダルであった。
冒険者の階級を示すほかに、不慮の死を遂げた者の、
識別証明の役割を果たす。
パーティーを組んでいる者が、遺体を持ち帰れない場合、
これを遺品として持ち帰るとギルドの登録の際、説明を受けていた。
つまり、ここにメダルがあるって事は、
ディックさんのパーティーは全滅したことを意味している。
生き残りが存在しているのであれば、
このメダルは持ち帰られている訳で・・・
「裏に名前が彫ってある。うーん、汚れているし暗くてよく読めないな・・・」
「ご主人様、私にお任せください」
まだお姫様抱っこ中のソフィアがメダルを貸してくれと懇願する。
これ以上ヘンな事をすれば放り出そうと考えていたけど、
基本的に吸血鬼は夜行性だ。
ソフィアの方が夜目がきく。
それに地中探査はソフィアの独壇場である。
このメダルの鑑定も僕よりソフィアの方が向いているのかもしれない。
「・・・このメダルはオリハルコン製です。ディック・ボスフェルトって書いてあります。あとはID番号ですね」
「やっぱりそうか。なんでこれをベルクソンがもってたんだ?」
「このメダルには残留思念があります。私には解読不可能ですけど・・・」
そういうと僕にメダルを差し出した。
なにか言いたそうだが、
この残留思念というヤツを読み解けという事なのだろうな。
はて、どうやればその思念を解読することが出来るのだろう。
とにかく僕の魔素探知をメダルに集中される。
「・・・おいおい、このメダル。魔素を吸ってないか?」
「ホントだ。私のご飯なのにぃ・・・」
いや、問題はそこじゃないだろう。
ということは、ただのメダルじゃないって事だ。
ギルドから支給されたメダルなのは間違いないだろう。
基本識別証明の役割しかない物に、
偽造したり改造したりする意味が見いだせない。
ディックさんが『精霊使い』ならば、
このメダルにどんな思いを込めるのだろう。
「・・・兄さんと同じなのかもしれない」
「お兄さんですか?」
「いや、なんでもない」
あの日、兄さんと再会した祠堂。
時間を止め、空間を超え、僕にメッセージを届けたのは、
兄さんの思念だった。
最強の勇者と呼ばれたくらいなのだから、
今の僕よりずっとハイレベルな魔法や魔素を操る技術に長けていた事だろう。
ディックさんもギルドランクでは上から2番目のオリハルコンホルダー。
精霊使いってことは、魔素コントロールは達人クラスだったばず。
このメダルに僕の魔素を充填してみればあるいは・・・
「ご主人様、メダルが青白く光ってます」
「ああ、予想が当たったみたいだったな。多分これは手紙の類だ・・・」
目の前に、20代半ばほどの黒髪の男性が現れた。
東洋人ぽい顔立ちで、身長は180センチくらいの細身で長身だ。
「・・・透けてますね」
「これは立体映像か」
しばらくすると、その男の人が語り始めた。
【私の名前はディック・ボスフェルト。冒険者チーム『精霊の羽』のリーダー。このメッセージを受け取ってくれて感謝する・・・】
「ご主人様、喋り始めましたよ!」
「しっ、静かに」
慌ててソフィアが口を両手で塞いだ。
急に閉じた口から飛び出ている八重歯なのかキバなのか。
この状況でもちょっとかわいいと思う。
【おや、キミも異世界からの来訪者なのかい?】
「・・・会話が出来るんですか?」
【まあね。キミから魔素を沢山注入してもらったから少しくらいの間なら】
「来訪者っていうのはなんです?」
【ああ、説明を省いて申し訳ない。私は死ぬ200年ほど前、別世界である『地球』というところから来た異世界人だ。『時空の門』と呼ばれるトンネルを潜ったらこの世界に迷い込んだって訳だ。キミの魂も『時空の門』を超えてきた者の色をしている。ちょっと私とは違う種族のようだけど】
「僕も地球からやってきました。日本の東京からです。もとの世界の西暦は20●●年・・・」
【本当か!?私も東京からやってきたんだ。驚いたなぁ。この世界で来訪者と出会ったのはキミで二人目だ。まぁ、いま私は死んでるみたいだけどね・・・】
「このメダルにはなにか特別な魔法でも・・・」
【そんなに特別じゃないさ。私たちのパーティーはここで異常事態と遭遇した。パーティー全員が倒れていった。これは私の過信が招いた人災だった】
「そんなに強い敵が出現したんでしょうか・・・」
【強いなんてものじゃない。想像を超える化け物だったよ、あれは。死の間際、僕はこのメダルにメッセージを託した。本来であればパーティー全員の家族宛に残したかったんだが、それも叶わないダメなリーダーだって事だ】
「僕にできることがあればおっしゃってください」
【ああ、そう願いたいね。そのつもりで私はこれに思いを込めた。私が死んでから、かなり時間がたってしまったようだね。足りなくなった魔素は大地の精霊から魔素を分けてもらえるようにしていたのだが、先ほどの邪悪なものがこの魔素を狙って取り込んでしまってね。もっとも、魔素だけじゃなく、魔素を吸収できる機能が欲しかったようだが・・・】
「すみません、それは僕が先日倒した吸血鬼の真祖の魂の様です・・・」
【やはりキミも相当な腕前だという事か。『時空の門』を超えたものは、常人とは計り知れない力が備わるらしいからね。この私もそうであったように】
「・・・時空の門。体が通れるようなゲートが存在したって事ですか」
【私が見つけたのは200●年の7月。何かと思って中を除きこんだら、この世界に来ていたと言う事さ。もっとも通ってきた門はすぐに閉じてしまったけどね。何回も通行できるのであれば、とっくの昔に愛しの我が家に帰っているよ】
「・・・気持ちはよくわかります。魔法の世界は元の世界より死が隣り合わせのように思えますから」
【きみは優しいのだな。ところで頼みなんだが、私の屋敷が聖都上層東地区にあるのだが・・・】
「はい、僕はポーさんのクエストを受けてここに来ました」
【では話が早い。頼みごとがあるのだが手持ちの資金がないので渡すことが出来ない。白いハンカチを2枚買ってポーとマリルーに渡してほしい。あの精霊達はまだ元気にしているだろうか】
「もちろん元気ですよ。あっ、マリルーさんは料理が作れないから拗ねてると聞いてましたが」
【そうか。あの子たちはまだ頑張っているのか。ハンカチを渡してくれたらこう告げてほしい『ディック・ボスフェルトの名において契約を解除する』と。これであの子たちを縛るものは何も無くなる。私の書斎にある右の本棚に隠し扉がある。そこに財産譲渡契約書が入っている。それを代価として受け取ってほしい】
「ハンカチは渡します。けど契約の件はポーさん達の希望を聞いてからじゃないと実行できません。すみませんが・・・」
【それはキミに一任する。私の魂が無くなれば契約は消えるのだが、まだそれは叶わないようだ。私の魂はあの恐るべき物に吸収されているのだ・・・】
「その恐ろしい物ってだれなんですか?僕が必ず仕留めますから!」
【ははっ、ありがとう。でももういいんだ。おの子たちをよろしく頼む。それにもう時間が来たようだ】
「魔素ならたっぷり注入出来ます」
【魔法の役割は終えた。私の残滓もここまでだ】
「あなたはいったい誰に・・・」
【・・・勇者ダイドージには気を付けろ】
それが精霊使い、ディック・ボスフェルトさん最後の言葉だった。
彼が出会ったもう一人の来訪者というのは、
兄さんの事だったのだろうか。
この1000年の間、魔神と戦い続けている。
どこまでが真実で、
どこまでが虚構なのだろう。
こうして旋律の夜が明けていくのだった。




