調査報告書③ 墓場でデートとシャレ込みましょう
甘い声とともにほっぺにキスをされる。
・・・と思ったら魔素を吸われていた。
そういえば、今夜はまだ魔素を与えていなかったな。
指先以外からでも吸えたのか。
まぁ、魔素は与える契約だから仕方がないけど、
こんな目立つところにキスマークだけは止めてほしい。
アンに見つかったら確実に殺されるだろう。
もちろんソフィアではなく僕の方がだ。
【マスター、お取込み中ですが失礼します】
(ああ、山に行ったらヒルに吸い付かれたようなものだから気にするな)
【退魔魔法を使用すれば、ターゲットも一緒に昇天されるのでは・・・】
(そのことならば大丈夫。今の中にこの錫杖と同じ魔素をもつアンデットはいなかったよ。それに、相当な使い手だよ、このディックさんは。60年経ってもまだ魔素が生きているんだ・・・)
【私には解かりかねる表現ですが、高レベルの精霊使いだったとは理解しました】
(だから厄介なんだよな。彼が帰れなくなった原因が何だったのかって事が)
【対応不可能な異常事態の発生。聖者の墓所である事を考えれば、高位の魔族以上の敵の出現でしょうか】
ぷはぁ。
ソフィアが満足そうに僕のほっぺから口を離してくれた。
戦闘力を押し付けてくれたおかげで、その大きさ・柔らかさは全て記憶・・・もとい、
苦しい体勢から解放してくれたのだが、お姫様だっこはそのままで歩き出した。
「・・・ご主人様?」
ソフィアが不思議そうに僕を見つめるのだけど、
この体勢が続いているのはまんざらでも無い様子だ。
自分から嫌がることはなかった。
なにせ日没後の聖者の墓所は完全も門が締まっている。
他に誰一人もいない静寂な墓場となる。
もちろん灯ひとつない闇の世界だ。
魔素探知の要領で昼間と変わらない速度で歩ける僕が、
ソフィアも抱えたまま移動する方が早いだろう。
不測の事態にもすぐ対応することが出来る。
「やはりデートのお誘いでしたか。察する事が出来ず、ご主人さまに恥をかかせてしまいました。私はいつでも準備が整っております。もちろん心の準備も♪」
「・・・なんの準備だ」
不測の事態に思わずコイツを放り投げるところだった。
「ソフィアを連れてきたのは、ここの地下に埋まっているあるものを探してほしかったんだ。僕の魔素探知をソフィアに流し込むから、ソフィアの土魔法で地中にこの錫杖と同じ反応があるポイントを見つけてくれないかな」
「・・・やってみますが、うまくいくかどうか」
「ソフィアなら大丈夫。トリスカイさんがソフィアには索敵のセンスがあるって褒めてたからね」
「そんなに褒められると照れちゃいます♪」
ソフィアが土魔法で地面にものを隠す時、
地中の状況を魔素で探知していた。
敵の存在は地上や空ばかりじゃない。
「大地葬送」
地面から黒い棺が浮かび上がり、
すぐに地面へと消えていいった。
棺の周辺約100m四方に魔素の探知を確認できた。
深さも100m。なるほど、この魔法の探索範囲は立方体か。
「なぁ、ソフィア。いちいち棺を出さないと探知できないのか?」
「これは探知を目的とした魔法ではありません。そんなこと考えてもみませんでしたが、やってみます・・・」
次の探索ポイントまで歩きながら移動する。
そこの魔法は随分燃費が悪いらしく、
移動の途中で魔素の補充を要求される。
もちろんほっぺに吸い付かれて。
こんなところをサルドウスさんに見られたら、
「新手の御姫様プレイか!」と羨ましがられるだろう。
あの人は本物の変態野郎だからな。
これを10回ほど繰り返すと、
棺を出さなくても、地中の探索が出来るようになった。
もちろん僕の魔素も貸し出してはいるが、
自分の魔素だけでも新しい魔法は使えるだろう。
「偉いぞソフィア。自分で新しい魔法を作ったんだ。そうだ。魔法に名前を付けなくちゃいけないんじゃないか?」
「それでは【ご主人様とデート】はいかかでしょう?」
「・・・却下」
新しい魔法は【地底探査】に決まった。
捜索する事20数ケ所。
かれこれ4時間近くが経過している。
ここまでに倒したスケルトンやレイスの数は、
300を超えたあたりから数える事を止めた。
さすが夜間だけはあって、レイスの出現は非常に多い。
【即死魔法】系の強力な魔法を使用してくるヤツもいたけど、
僕の【絶対魔法防御】のおかげてどこ吹く風だ。
魔法コピーのせいで、どんどん即死魔法系の魔法が使えるようになっていくが、
そんな魔法を使用するこのが無い事を祈りたい。
「ご主人様ぁ。もう私体力の限界ですぅ・・・」
魔素は補充できても、
精神力までは回復させてやることが出来ない。
今夜のところはここまでか。
「ふふっ、宿に帰ったらアン達に、立てなくなるまでご主人様と汗をかいたって自慢してやろうっと♪」
「即死魔法!」
思わず覚えたての魔法を使ってしまったが、
ソフィアに即死魔法系の効果は全くない。
やはりニンニクなのか・・・
でもこちらの世界でニンニクを見た事がない。
生姜に似た物は見たことあるけど、
生姜で代用することは出来ないだろうか。
金獅子亭で、生姜をたくさん使った料理を作ってもらって実験してみよう。
「・・・ご主人様。あれは何?」
ぼんやりと浮かび上がる青白い影。
遠目でも今まで遭遇したことのない死霊の類である事は理解することが出来た。
ソフィアをゆっくりと地面に下ろし僕の影に隠れろと手で指示をする。
魔素探知の感度をあげ、
死霊相手に通用するかわからないけど、
ナタリーさんの魔剣に魔素を纏わせる。
そんな時だった。
「・・・そっ、そんな」
ソフィアの悲痛な声が漏れた。
何事かの異常事態の発生が予見される。
ソフィアは天然ではあるけど、根は凄くまじめだ。
この状況で僕を驚かすような事はしない。
つまり、本気で驚くような事態が発生したという事だ。
「・・・ゴットフリート・ベルクソン様」
ソフィアの元主人。
吸血鬼の真祖であったゴットフリート・ベルクソン。
あいつの死霊体が現れた。




