調査報告書③ オーナーを探しにいきましょう
モンスターハウスを後にして、
ひとりで聖者の墓所まで空間転移してみた。
まだ日が高いこともあって、墓所には何組かの冒険者パーティーが存在しているようだ。
先日まで大量の行方不明者を出していた場所だ。
捜索クエストや、アンデット化した行方不明者の討伐クエストが出されているのだろう。
もちろん僕は、よそのパーティーから見つからないような場所を選び、
尚且つ、索敵系の魔法に引っかからないようにしている。
ポーさんから借りてきた錫杖。
大切なものだから絶対に無くさないでくれと懇願されている。
もちろんちゃんと返却するつもりなのだが、
この錫杖に込められた魔素と似た魔素が発する場所。
それがモンスターハウスのオーナー、
精霊使いのディック・ボスフェルトさんが眠っている場所となる訳で・・・
正直、行方不明になって60年余り。
生きているとは思っていない。
それは契約関係にあるポーさんも認めている。
では、何故契約は今もって継続されているのか。
(魂になってここに存在していると思うんだけどな)
【マスター、死霊系のモンスターになっているとお考えなのでしょうか】
(ああ、ゾンビなら魂は天に召されているだろう。カラダの喪失感があるのに魂だけって、それしか考えられないぞ)
【魔王事件以来、日中にアンデット系モンスター出現はほぼ無いようです。我々が聖者の墓所を訪れた時でさえ、死霊系のモンスターとは遭遇しておりません。死霊系をお探しでしたら、日没後に捜索に来るべきかと考えますが】
(あたりまえだろう。遭遇しないように日の高いうちに来てるんだから。夜にお化けと会ったらトイレに行けなくなっちゃうじゃないか!)
【・・・確か魔王遭遇以来、たいていは驚かなくなられたのでは】
(うるさい。切るぞスイッチ)
歩きながら1キロ四方を検索。
また歩きながら1キロ四方を検索。
これを延々と続けてみたのだけれど、
それらしき魔素を発見することは出来なかった。
(やっぱり無理があるかぁ。60年って年月は無理があるよなぁ・・・)
【この草原の植生から植物の60年間の堆積を計算すると、約30センチの厚さがあるものと推定します】
それじゃみつかる訳ないよなぁ。
アイツに頼んでみようかな。
ちょっとだけ気が引けるけど・・・
日が暮れかける頃、
アンたちが待っている金獅子亭に帰還する。
今日もビリアンティさんから指導を受けているのだから、
さぞかし腹を空かせている事だろう。
女の子だからその辺は気にしているのか、
自分からは積極的に注文しないので、
僕が食べたいという事で多目の量を注文している。
「ネラちゃん、今夜のおススメはなんだい?」
金獅子亭の看板娘、給仕のネラちゃんはアンと同世代の女の子だ。
午後からはアンたちと一緒に公衆浴場に同行を願った。
けっこういい値段のする入浴料。
でも、一般常識に疎いアン達と同行してもらう事で、
生きる素材として多方面にわたり享受している。
あの年齢に釣り合わない戦闘力の事も見習ってほしいものだ。
ネラちゃんへのバイト料はその入浴料。
彼女のモチベーションもすこぶる上がるらしく、
支配人も休憩時間の同行を快く許してくれるのだった。
「今夜はバビス貝のクラムチャウダーと瑠璃色魚のパイ包み焼きがおすすめだよ」
「それじゃそれを人数分と何か肉料理をもう1品。それとスープとパンをお願いするよ」
「はーい、飲み物は何がいい?」
ボリュームある料理に期待を寄せる娘たち。
当然ながら、飲み物も美味しいものを求めたいはず。
アンとペトラはミード酒のソーダ割りを。
僕とソフィアは葡萄ジュースを注文した。
「あら、ワインじゃなくてよかったの?」
「ああ、これからちょっと行きたいところがあってさ。それより発酵していないジュースを頼むよ」
「またぁ、それを言わない約束でしょ」
僕とソフィアがアルコールを頼まなかった事で、
ペトラが何か言いたそうにしている。
おしゃべりなペトラだけに、
しゃべりたくてもしゃべれないってのは、
相当なストレスを感じている事だろう。
「大した理由はない。これからソフィアに少し仕事を手伝ってもらうだけだ」
「ええええっ!これから私と二人っきりで夜のデートですかぁ♪」
ギロっと睨んだ僕の眼に、
いつものおふざけではないと理解したアンとペトラ。
「デート、デート、ご主人様とデート♪」
これから待ち受ける、旋律の恐怖を知る由もなく、
能天気な吸血鬼がひとりだけはしゃいでいた。
さすがのアンもジェラシーどころではなかったのか、
僕の事を心配そうな目で見つめてくる。
その泣きそうな子犬のような目は止めてくれ。
可愛いから。
ペトラも心配そうな子猫のような目で僕を見つめる。
あっ、コイツはもともと猫だったな。
普段からそういう目か。
でも可愛いから許す。
・・・いつか耳をふっとしてやりたい。
夕食を終えると、
いつも戦場へと変貌する僕たちの部屋。
支配人さんからはもう一部屋用意するとの申し出を受けたが、
お金を受け取って頂けるのなら・・・とこちも打診したところ、
ベンツピルス家の名に懸けて絶対に料金は頂けないと拒絶される。
ありがたいけど、すごく迷惑な話だ。
「まぁ、そんなに遅くなく帰るから。心配しなくていい」
「・・・どうかご無事で」
「空間転移」
早く帰らないと、
心配性のアンはずっと起きているつもりだ。
ペトラは半分くらい寝ている顔だったから絶対に寝てるだろうな。
むしろそれが望ましいのだけれども。
「・・・ここは何処でございますか?」
真っ暗な闇が広がる草原。
行き着きを告げられず同行させられたソフィアには気の毒なのだが・・・
「ここはソフィアと僕が初めて会った場所だ」
「・・・ということは聖者の墓所でございますか!?」
ついたばかりだというのに、
あたり一面から、ボコボコとスケルトン達が這い出して来る。
やはり昼間より遭遇率は格段に上がるってヤツか。
「昇天魔法!」
ペトラが使ってた退魔魔法。
僕の場合、半径100m以上に渡り、
彼女の何十倍物の出力で発動された。
魔法防御をかけているソフィアの顔色が冴えないところを見ると、
吸血鬼であるソフィアにも影響を与えているようだ。
全てのスケルトン達を土に還したところで、
へたり込むソフィアに手を差し伸べた。
「ごめんよソフィア。今のは僕が悪かった。もうあの魔法は使わないから」
「いえ、もう大丈夫です。でも腰が抜けちゃったみたいで・・・ご主人様、抱っこ」
「・・・わざとか?」
「ちがいます。本当に立てないのぉ。抱っこしてください。「お姫様」の方で」
ちっ。
舌打ちするのには理由があった。
お姫様抱っこ。
かつて僕は苦い経験がある。
大学時代に初めて交際した女の子。
僕より少しだけ背が大きかったのだが、
美人で戦闘力も申し分なかった。
これで玄人専門から素人入学の門をくぐれるかと思ったのに、
初めての告白でOKをもらった夕日が映える海辺の砂浜。
「彼氏が出来たら、あ姫様抱っこしてもらうのが夢だったの!」
年頃の女の子が、一度は夢に描くだろうメルヘンチックなデートシーン。
いざ本番と抱きかかえようとしてたのだったが・・・
体重オーバーで無残にも砂浜に撃沈。
帰り道の電車の中で無言のまま破局を迎える羽目になった。
交際期間じつに5時間というスピード記録。
あの日、僕は身をもって経験した知識がある。
体重55キロオーバーの女性。
「お姫様抱っこ」などという妄想は凶器であり狂気である事を悟れ。
まぁ、ソフィアは小さいし、
体重も軽そうだから問題ないか。
「いいよ、お姫様抱っこくらいなら。ほら持ち上げるからカラダに触るぞ」
ひょいと抱きかかえたソフィアのカラダは羽の様に軽かった。
あの悪夢はいったいなんだったのだろう。
するとソフィアが破顔一笑。
伸ばした腕を僕の首に手を回す。
小さいカラダに不釣り合いな戦闘力が、
僕の肩越しにギュウっと押し付けられてくる。
「ご主人様ぁ♪」
キミはこの戦慄の夜に耐えられるか?




