調査報告書③ ゴミはきちんと片付けましょう
「・・・てな事があったんですよ」
「近くにそのような物件があったんですね。そういえば聞いたことがあったかもしれません」
せっかく鍛冶工房レブロンの近くまでやってきたのだ。
ルポルさんに顔を出してみようかと立ち寄ってみたが、
残念ながらルポルさんは不在であった。
店にはナターリエさんともう一人の若い男性の店員さんがいた。
なんでもルポルさんは僕の剣の製作中とのことであり、
しばらくは下層鍛冶屋街にある自社工房に籠っているのだとか。
「普段は私とこの弟弟子のトニーのどちらかが店を手伝ってるんですけど、今回は二人ともじゃまだから出ていけって追い出されちゃいましたよ」
「すみません、なんだか責任感じちゃいますね・・・」
笑いながらそんなことはないと否定するナターリエさん。
彼女の事は、超絶なイケメンかと同族嫌悪を感じていた。
なにゆえ超絶美女のナターリエさんを見間違ってしまったかといえば、
凛々しいスーツの着こなしによるものだ。
おもわず見とれるほどのイケメンぶりだった。
今日のナターリエさんは、
ジャケットを脱いでいた事もあり、
女性だと認識できる戦闘力を確認できた。
とはいえ、スリーピースのベストを着用していたので、
そのポテンシャルの全ては未だ未知数なのであるが・・・
【同族嫌悪の意味は、同じ種類や系統のものを嫌悪すること認識しておりましたが、具体的にどのような・・・】
【ナビシステム・オフ】
ぶちっ。
「そういえば、同じ貸家の事かどうかわかりませんが、家を借りたいと尋ねる人が老婆の魔法使いに追い返されるって話を聞いたことあります。同じ貸家の事でしょうかね」
「いや、僕が会ってきたのは、随分小さい人でしたけど、茶色の髪の毛をサイドテールに結っててカワイイ系の女の子でしたよ」
「そうでしたか。それでは同じ貸家ではないのでしょうね・・・」
世の中には借り手の決まらない物件ってのが色々あるものだな。
まぁ、オーナー側からしたら、契約者を選びたいという気持ちはわからくもない。
僕の会社で借上社宅に住んでいた先輩が、
転勤で引っ越す事となり、それ手伝いに行った時の話だ。
2LDKの部屋の1つが封印されていた。
その部屋はいいんだと言われ、
その他の荷物を業者のトラックに搬入したのだけれど、
最後まで封印されたその部屋は開くことが無かった。
やがて業者のトラックが引っ越し先へと向かう。
それを追いかけるように自家用車にエンジンをかける先輩。
最後に僕に封筒を差し出すので、お礼のビール券ん商品券なのかと思って喜んで受け取った。
先輩の車を見送ったあと、封筒の中身を確認すると、
アパートのカギが入っていた。
そして一枚のメモが・・・
【大道寺へ。すまんが部屋の中にある荷物処分してくれ。一応現金を同封する。不足が出たら餞別だと思って出してね】
いやな予感とともに、
封印されていた部屋のドアを開け放つと、
天井までゴミ袋がうずたかく積まれていた。
ゴミ収集用の袋ではなく、スーパーのレジ袋に、
その日買って飲食したゴミをひとまとめにして積み上げられた、
独身男の悲しき現実。
とてつもない異臭が僕の鼻を苦しめる。
「・・・1000円札3枚でどうすればいいんだよ」
結局ゴミ回収業者を呼んで撤去費用が10万円。
畳が完全に腐っていた事と、
壁と柱も腐食していた事から、
原状回復に120万円。
もちろん先輩に請求書は回したけど、
あんな賃借人と巡り合った大家さんにとってはまさに悲劇だ。
ちなみにそのアパート、
ゴキブリが多く出没するアパートと評判だったが、
先輩の部屋がグランド・ゼロだったそうだ。
「ところでナターリエさん」
「ボーズさん。ナタリーと呼んでください。ルポルじいちゃんから聞いてますよ。マーサおばあちゃんと再会を果たせたのはボーズさんのおかげだって」
「僕は何もしてませんよ。ちょっとだけ移動するのを手伝っただけです。それより、ナターリエ・・・、ナタリーさんの造られたこの剣、すごく使いやすいです」
はにかむ様な笑顔を見せるナタリーさん。
かぁ。
こういう所は超絶美女というか、
まだあどけなさが残る美少女だぁ。
サテラさんも美人だけど、
ナタリーさんも負けていない。
ナタリーさんの方が少し背が高くて色黒か。
色黒と言っても、健康的な日焼けしているスポーツマンタイプってことなんだけどね。
鍛冶工房の炉の熱でも日焼けってしちゃうのだろうか。
日焼けしていない肌を是非とも比べてみたいものだ。
具体的にはあんなところやこんなところを・・・♪
あれ。
突っ込みがないな。
そういえばさっきナビシステムをオフにしていた。
つっこまれないとなんだか悲しい気分になる。
僕ってやっぱりドMなのだろうか。
とりあえず、ナビシステム・オン。
ぽちっ。
「ボーズさん、ちっょとお願いがあるんですが・・・」
「僕でお役に立つことであれば」
何?何?何?何?
超ぉ、緊張する。
平静を装って入るが、心の中は半狂乱だ。
少し潤んだ目でお願いされるってのはあれか、やっぱりあれだよな。
このあとお暇ですか?と聞かれたら、
「明日の朝までナタリーさんとの予約でいっぱいです」と答えよう。
心に決めた女性はいないの?と聞かれたら、
「今ナタリーさんに決めました」と答えよう。
【サイテー】
【ナビシステム・オフ】
ぶちっ。
「その、私の剣をとってくださいませんか?」
「・・・剣ですか」
ナタリーさんが拵えた剣を握って切っ先を天に仰ぐ。
「魔素を込めてください」
「こうでしょうか・・・」
剣に魔素を纏わせるように練り上げる。
すると剣の中心部から切っ先まで、
緑色に輝く一筋の魔素の模様が浮かび上がった。
「すごい、工房では誰もそこまでこの剣に魔素をまとわすことなんて出来なかった」
「そうなんですか。僕は剣の腕はからっきしですけど、魔素コントロールには自信があるんですよ」
「・・・でも、これで私の腕がまだまだ未熟だと分かりました」
魔素を静めて剣を鞘に戻す。
実戦で使ったことは無いけど、
この剣なら、爆乳魔王戦で使っていれば、
ぽっきり折れるような事態にはならなかったはずだ。
「じいちゃんの・・・ルポル師匠の剣は、その剣の何十倍も魔素を輝かせることが出来ます・・・」
「そんなにすごいんですか、ルポルさんの剣って」
「ええ、師匠はボーズさんほどの魔素を纏わせることは出来ませんが、今の剣に魔素を纏わせたときは半分くらいの威力でした。その師匠が作った剣で師匠の魔素を纏わせたとき、私の剣の10倍以上の威力となります。ボーズさんが師匠の剣を手に取るなら、どのくらいの威力になるのか、私も想像することが出来ません・・・」
さすが鍛冶師マイスター。
とんでもない剣を作り上げようとしているのだろうか。
「・・・僕は人を殺すような武器はいらないんですよ。仲間を守るための剣が欲しいって。そうルポルさんにお願いしています。だからそんなおどろおどろしい剣は出来上がってこないと思いますよ」
「ボーズさん・・・」
「それにおどろおどろしいのは、さっきのモンスターハウスって呼ばれているボスフェルト邸の貸家で十分ですよ」
「そうだ、あの貸家はそのボスフェルト邸のことだわ!」
「すると老婆の魔法使いにコテンパンにやられるって話と一緒なんですか!?」
モンスターハウスには、まだまだ秘密があるらしい。




