調査報告書② フルボッコは止めましょう
ペトラとビリアンティさんを除く面々から、
袋叩きにあった事は言うまでもない。
特にアンとセダさんの二人からは、
とんでもない量の蹴りをお見舞いされた。
普段無口な人が一度切れると見境が無くなるのはどうしてなのだろう。
「ペトラ、初めてって何言ってんのか分かってるの?」
「はい、私の尻尾をさわってくれた初めての男性です♪」
僕がボコボコにタコ殴りされている隣で、
頬を染めて説明している場合じゃないだろう。
それに、あの夜の事はアンだって承知しているのだ。
いまさら蒸し返してどうなるっていうんだ。
「猫人の乙女は将来を約束した人じゃないと尻尾を触られていけないんです」
その割にはずいぶんと無防備に垂れ下がってたけど。
「・・・責任、とってくださいね♪」
その言葉でさらにアンの蹴りが激しくなった。
ソフィアが面白がって僕の上でジャンプしている。
トリスカイさんは靴の踵で顔を潰しにかかるし。
サルドウスさんは剣を抜いているし。
いったいなにを切ろうというのだ。
「ちょっとぉ、いい加減にしないと出て行ってもらいますからね!」
ネラちゃんの雷によって、
このバカ騒ぎは終息したものだか、
まぁ、ペトラがこのパーティーで一緒に居たいと思ってくれてたのは、
僕としてはほっとしたというか、喜ばしい出来事だった。
「それで準備が済んだらどうするんだ。ぼーっと過ごしてちゃ脳みそが腐っちまうぞ」
「そうですねぇ。剣を注文したんですよ。それが完成するのが10日後なんで、それまで剣の修行でもしてみようかな」
「あてはあるのか。よかったら俺がまた稽古つけてやろうか?」
「本当ですか、それはありがたいです!」
ビリアンティさんが困り顔で呟いた。
「また返り討ちになっても知らないわよ・・・」
さすがのサルドウスさんも答えに詰まっている。
咳ばらいをしながら気恥ずかしそうにしている。
「ばかやろう、スピードでは負けたが、技では俺の方がずっと上だ。柔よく剛を制すというからな」
「剛よまく柔を制すとも言うでしょう。次ケガしても助けてあげないからね」
「それでボーズはどうだ。稽古はお前の剣が出来上がるまで。時間は開門の時間から昼までってところか。もちろんこれは有料だ。俺が個人的に契約する授業だからな。報酬は1回につき金貨1枚」
「ちょっと、それは高すぎるでしょう!」
「いえ、ビリアンティさん。一流の職人は技術を安売りしないって、鍛冶屋のご店主から教わりました」
「ほう、なかなかいいことを言う鍛冶屋じゃないか。それでどこの鍛冶師にたのんだんだ?」
「鍛冶工房レブロンのルポルさんです」
雷帝の剣の4人が顔を見合わせる。
やはりルポルさんって有名人だったのか。
鍛冶師組合の組合長だって言ってたからな。
「炎帝のルボルを知らないのか。あのルポル翁はめったに剣の作製を請け負わないって有名なんだぜ」
「ああ、それは僕も苦労しました。色々条件を出されましたから。もう少しで妖怪大戦争が勃発する危険性があったんですよ。ところで炎帝ってなんです?皆さんも雷帝って名前ですよね」
「・・・100年前、魔族の中から魔王が誕生した。その魔王を倒したのが勇者エリアス。その従者5人が炎帝・雷帝・氷帝・光帝と呼ばれる伝説の戦士なのさ。俺たちの師匠は雷帝イエレミヤーシュ。雷の魔力を極めた魔剣士だった。そして炎帝と呼ばれたのが鍛冶師ルポルとその妻マーサの二人と言われている。俺たちの師匠は5年前亡くなっちまっさたけど、その遺志は受け継いでいると自負しているんだぜ。そして鍛冶師ルポルは生きる伝説と言われている」
やはりあの夫婦。
魔族どころか、魔王も滅ぼす力を持っていたか。
「その鍛冶師から剣を打ってもらえるんだ。やはり剣の修行はしておいたほうがいい」
「はい、よろしくお願いします」
「それじゃ、アンとペトラは私と魔法の訓練をしましょう」
「いいんですか?」
「はい、よろこんで!」
なにやらソフィアが不満そうな顔をしているので、
ソフィアはトリスカイさんとセダさんから、
索敵や後方支援の技術を学ぶことになった。
「それじゃ、場所は養成学校の演習場を借りよう。あそこなら顔が利く」
思いがけず勇者に近い情報を手に入れた事と、
炎帝と呼ばれた二人と、雷帝の遺志を継ぐ冒険者。
なんだか次にするべきことが少しだけ見えてきたような気分になった。
「ところでその勇者っていうのは、ダイドージじゃないんですよね・・・」
「勇者ダイドージは別格だ。あれは俺達では踏み入れない領域の存在。悪いことは言わねえ。その名前は忘れた方がいい・・・」
クリシュナイ伯とエリザベスさんさとたペトラ以外の人に、
勇者ダイドージの名前を初めて口にしてみた。
どんな反応をするのか、
どんな評価を受けているのかが気になった。
でもその答えはなんとも複雑なものだった。
少なくとも絶対的な勇者。
つまり絶対的正義の存在という風には聞こえなかった訳で・・・
とにかくアンやペトラ、
そしてソフィアだって明日から新しい道を歩もうとしている。
僕がくよくよしたってなにも始まらないだろう。
この1000年の間に100年ごと魔王が復活している波がある。
前回の魔王出現から100年が経過している。
聖者の墓所で遭遇した爆乳魔王が言ってたっけ。
4大魔王って存在の事を。
あれが復活した唯一の魔王である保証がない以上、
僕はもっと強くなる必要がある。
そしてもっとこの世界を調べ続ける必要がある。
【マスター、訓練の時はオートパイロットは起動しませんよ】
【当たり前だ。それじゃ訓練にならない。でもオートパイロットに切り替える訓練ってのも必要かもしれないな。疲れて心が折れそうなとき時はお願いするよ、エミリー】
【・・・このクズめ】
相棒が毒舌なのは相変わらずだけど、
最初にはいなかった仲間が出来た。
最初にはいなかった友が出来た。
「そういえば、僕たちミスリルのメダルになったんですよ」
ギルドから貰ったばかりのメダルを、
アン・ペトラ・ソフィアの首に巻いてあげた。
「おっ、それじゃお前たちは俺たちのライバルってことになるな。ところでチーム名はなんて登録したんだ?」
そう、ミスリルホルダーはギルトにチーム名を登録する必要があった。
家名を考える時も散々迷うほど、僕のネーミングセンスは最低だ。
最低ついでに、再度アンの名前にちなんだものを選んでみた。
「グリーンゲイブルズ。チーム・グリーンゲイブルズです」
緑の切り妻屋根の家。
なにもなかった僕たちだけど、
このチームが僕たちの家となりますように。
そして、いつかこの家に、
兄さんを連れ戻すことが出来るように。
僕の調査はまだまだ続いていくのだ。




