調査報告書② 思いはしっかり伝えましょう
この長身イケメン店員が女性だった。
しかも、このずんぐり体形のドワーフであるルポルさんの孫娘。
とても同じ遺伝子を承継しているとは思えない。
【聖鑑定】
氏名:ナターリエ・ブルザーク
レベル:20
性別:女性
年齢:21才
種族:ドワーフ
属性:火★水☆風★土★聖☆闇★
魔法:短文詠唱 【風の精霊。鞴に加護あらん】鞴の加護
ギフト:鑑定 鑑定能力
:鍛冶の王 鍛冶能力
:非表示
:非表示
所属:鍛冶工房レブロン店員 鍛冶師見習い
称号:ルポルの弟子
すぐさま鑑定をしてしまったのだが、
確かに性別は女性である。
上から下までじっくり観察したいところなのだが、
テストを受けている最中だ。
一点集中。
最も大切な部分だけ確認しよう。
・・・よく見れば締め付けられてはいるが立派な戦闘力が隠されているように見える。
【そこかよ、このクズ野郎】
・・・なにもそこまで。
「失礼しました、まだ挨拶していませんでしたね。私はナターリエ・ブルザーク。ルポル師匠は私の曾祖父なんです」
「あっ、僕も名乗っていませんでしたね。ボーズ・ランウォーカーです」
「マーサさんはお元気でしたか?私もお噂は聞いておりましたが、お会いしたことは無かったものですから・・・」
「ナタリー、余計な事は言わんでいい。それより火酒を持ってこい」
はいはいと言葉にはしなくても声が聞こえそうな表情で奥の部屋に戻っていくナタリエさん。
きっとよくある事なのだろうな。
「よし、お前の魔素は良くわかった。というか、こんなふざけた威力の魔素ってヤツを俺は今まで見たことが無い。お前は魔法使いなのか?」
「だから、調査員なんですよ。魔法は勉強して覚えたものじゃないです」
「・・・神の恩恵か」
正確には兄さんから受け継いだものである。
説明を省略しただけで嘘をついてはいないから、
テストのズルってことは勘弁してほしい。
「まぁ、いい。細かい事を聞いたところで次の質問に答えられなきゃ関係がない。いいかボーズ。次の質問に答える事の出来る回数は1回だけ。それに答えられれば合格だ」
「はい、わかりました」
「お前は何故剣が欲しい」
なるほど。
この質問は難問だ。
理由は簡単。絶対的な答えがない質問であるからだ。
会社の上司からよくこれで泣かされてたものなぁ。
「英雄になりたい」「魔族を倒したい」「弱い人を助けたい」
いずれも正解になりえるのだが、
いずれも不正界にもなりえる。
受け取る相手がどう思いどう感じうるのか。
それによって答えの選択は無限に広がってしまう。
とはいえ、いつまでも答えられないのも不正解となるだろう。
与えられた時間はそんなに長くはない。
ここは思いの丈をストレートにぶつけることにするか。
ショートソードを折ってしまった時の話をした。
相手が魔王だったことは言えないのだけれど、
「予想外の強敵と遭遇した」
って説明も間違った内容ではない。
初撃で大切な仲間が傷ついてしまった事。
反撃するもあっさりと剣を折られてしまった事。
なんとか撃退することが出来たけど、
捨て身の作戦がたまたま成功しただけで、
次に同じような敵意あるものと遭遇した場合、
情けないけど勝てる自信はまったくないという事。
そして剣の腕はからっきしだという事・・・
「それでも僕は剣が欲しい。相手に勝つためじゃなく、仲間を守る為の剣がほしいです」
「お前にはそんなにすごい魔法があるじゃないか」
「相手にもよります。その強敵は魔法さえも通用しなかった。倒せたのは一度も使った事のない魔法をぶっつけ本番で成功させたからです。右手の黑い方で・・・」
しばらくの沈黙が続きルボルさんは瞬きもせず僕の眼をじっと見ている。
僕もさんな迫力に圧倒されてはいたけど、じっと相手の眼を見つめ返した。
この人も鑑定能力もちだから、とっくに僕の事を鑑定しているのだろうけど、
なんだか自分の内面すべてを見透かされているように感じてしまう。
ちなみに、ミスリルホルダーでレベル16は無いだろうという事で、
鑑定ではレベル36に見えるよう能力を二重掛けしているのだが・・・
「・・・動機としては甘すぎる。そんな甘い考えをもったヤツから戦闘では屍になっていく」
「そうだとしても意地でも仲間を逃がしてからにしますよ」
「がはははははっ、マーサがここに送り込んできた訳だ。よし作ってやる。お前の剣を」
「本当ですか、ありがとうございます」
「ただし色々とうるさい事も言うぜ。ワシはお客よりちいとワガママなんでの。まず納期までは10日間。ミスリル製の片手剣。このショートソードよりちょっと長くしてやるが、重さは三割軽くなるだろう」
「助かります!」
「それと代金は一切値切らせない。こちらの言い値で買ってもらう。これは剣を買ってもらうのではなく、職人としての腕を買ってもらう事と等しいからだ。お前さんに買えるだけの財はあるかの。前金で5割、残りは引き渡しで」
「おいくらでしょう。払える金額以内であればいいんですけど・・・」
「金貨500枚。分割は一切ダメじゃ」
500枚。
それっていつもの計算式でいくと5000千万円!
持ち合わせは足りるのだけど、
剣1本に豪邸が買えそうな値段かぁ。
マーサさんのボロ宿を立て替えて、
子供たちの環境を良くした方が有効的な使い方じゃないのか。
とはいっても、仲間を守る方も大切だ。
まぁ、換金していない魔石はまだあるし、
聖都で一番の鍛冶職人の腕を買えるのだ。
こんなチャンスは二度とないのかもしれない。
「それじゃ、前金で300枚です。50枚に分けるのは面倒なんでどうかこれで」
ポケットから金貨の入った3つの革袋を出す。
ギルドから受け取った金貨は、
100枚ずつ小分けして空間保管庫に入れていた。
すぐさまローブの内側から取り出したのだが、
まったく膨らみがなかったところから取り出したのは、
流石に不自然だったかと出した後から気がついた。
「よし、払いがいいのは職人冥利に尽きる。ナタリーさっきのアレもってこい」
「はっ、はい師匠。でもアレじゃ・・・」
ルボルさんから睨まれたので、
ナターリエさんが慌てて店の奥へと消えていった。
「よし、それじゃ契約だ。拳を突き出してみろ」
「こっ、こうですか・・・」
もとの世界ではどこかのプロ野球チームの監督がやってた、
グータッチというのと同じだった。
ドワーフの契約のポーズと同じってのが、
なんだか妙に可笑しくなった。
というより、僕を認めてくれたような気がして嬉しかったのかもしれない。
「師匠これを・・・」
ナタリーさんが1振りの剣を持ってきた。
鞘から刀身を抜くと鮮やかなミスリル光輝く美しい片手剣が現れた。
さっきショーケースから出してくれたミスリル剣と似たデザインだが、
この剣はなにか決定的に違う雰囲気をもっている。
魔素探知の感度を剣に集中してみると、
ゆらゆらと緑色に輝く魔素を放っているのが分かった。
「気がついたか。これはいわゆる魔剣というヤツた」
「魔剣・・・ですか?」
「魔剣は使い手の魔素を使用して切れ味を増す。性能が高い剣ほどその機能が高く付与されている」
「・・・すごく綺麗です」
「がはははははっ、魔剣に向かって綺麗と言ったのはお前が初めてだ。ちゃんと魔素の流れが分かってる証拠だ」
綺麗という僕の表現に、ルポルさんは声をあげて笑う。
そして隣では、なぜかナタリーさんが恥ずかしそうにしている。
「その剣は、このナタリーが初めて打った魔剣だ。ワシの剣の足元にも及ばないが、完成までの繋ぎとして使ってくれ。気前よく金を払ってくれた礼にサービスしてやる」
「そんな大切なものを貰えませんよ」
「なに、ワシのショートソードを使ってくれた礼でもある。それと剣の注文とは別にお前に頼みがある」
「・・・なんでしょうか?」
「マーサのところに案内してくれ」
まずい。
最終戦争、いや。
妖怪大戦争が勃発しようとしている。




