調査報告書② 武器を買いに行きましょう
「それじゃ、今晩金獅子亭で会おう!」
金貨400枚を手にしたサルドウスさんがご機嫌にギルドを後にした。
僕も1100枚って見た事のないお金に戸惑っているのだけれど・・・
しばらくは金獅子亭に腰を据えようかと思ってたけど、
このお金があれば早めに貸家を考えたほうがいいのかもしれない。
料金を払うからもう一部屋貸してくれって言っても、
あの支配人さんは頑固そうだからお金を受け取らない可能性が高い。
昔はきっとマーサさんと同じく腕利きの冒険者であったのかもしれない。
魔素をコントロールすることが慣れてきた今になって、
支配人さんのすごみが分かるようになってきた。
共にベンツピルス家の従者であることに変わりはないが、
世話になりっぱなしという事はなんとも肩身が狭いというものなのだ。
下手すれば家を買う事もできるのかもしれないけど、
あまり目立つような行動は調査員にとって都合がよろしくない。
それに今の生活は、宿で寝泊まりれしているから、
掃除や炊事の負担がない恩恵を受けている事も事実である。
奴隷生活が長かったアンは掃除は出来るだろが、
飯を作ることは期待できない。
むしろ独身生活が長い僕の方が料理スキルはありそうだ。
ペトラもスラム生活が長いと言ってたから、
掃除や洗濯は出来たとしても、
料理に期待することは出来ないだろう。
ソフィアについては論外だ。
まぁ、秘密をしっかり守って切れる人がいれば、
家事を任せられるメイドを雇うことは出来る財産が出来たのだけど。
魔王を倒すことのできるアバター調査員。
魔眼をもつ元奴隷少女。
スリの片棒を担いでいた魔法学院の生徒。
主人を乗り換えた吸血少女。
この怪しげなパーティーの秘密を守る口止め料ってのは、
莫大な金額が必要となる事だろう。
「とりあえず、新しい剣でも買ってから考えるかぁ・・・」
上層東地区にある『鍛冶工房レブロン』は、
公設ギルドから5分ほど歩いた商店街にあった。
商店街と言っても、大通りに面した建物の一階は、
大抵が店舗となっている一角といったところであり、
下層の屋台が並んだ喧騒の市場とは全く違う、
洗練されたお店が立ち並んでいる。
まぁ、高級ブランド店が並んでいるといったところなのだろうか。
下層の鍛冶屋街にある露店から買えば格安だろうし、
蚤の市に出回る怪しげな獲物にも時折しんでもない目玉商品が出ると聞いたけど、
マーサさんがすすめるお店なのだ。
外れることは無いだろう。
なにしろ武器を持っていない丸裸状態であり、
今はなによりも良い武器を手に入れるという確実性がほしいところだ。
「はい、いらっしゃいませ」
店の中には20代初めくらいの若い男性従業員がひとり。
長身で金髪のイケメン。
爽やかな営業スマイルがキラキラしている。
イケメン系ということで、僕と同じ香りがするのだが、
なんだかコイツにはムカついてしまう。
きっと同族嫌悪ってこんな感情なのだろうな。
【マスター、ただのジェラシーだと推測いたします】
【はい、少し黙ろうか・・・】
店の中は、ガラスケースに入った刀剣などが飾られている。
商品の陳列というより、ちょっとした美術館に来てしまったかのようだった。
下層の職人街にある木樽に突っ込まれた目方幾らのナマクラとは、
まったく別次元の出来栄えだ。
「どのような武器をお探しでしょうか」
「えーと、まず軽い事ですかね。腕力ないんで。それでいて頑丈なもの」
「それではミスリル銀を使用した剣がおススメですね。多少値段が張るのですが・・・」
「それは構いません。できれば手に取ってみたいんですけど」
ガラスケースを開けて、
ミスリルで鍛え上げられた細身の片手剣を取り出してくれた。
なんでイケメンってのは、
こんな動作ひとつで背景がキラキラ補正されるのだろうな。
折れたショートソードより刀身が少しだけ長かったけど、
もった感触では鋼のショートソードよりずっと軽い。
爆乳魔王と戦った時、
刀身に魔素を纏わせて補強したのだけれど、
全くと言っていいほど役にたたなかった。
急場しのぎで実行した試みなのだから、
失敗は当然だったとしても、
魔素を纏う事の相性ってのがあるんだと学ぶことが出来た。
このミスリルの刀身に、少し練り上げた魔素で覆ってみるのだが・・・
切れ味や耐久力そして魔力ともになんらかの変化というものを感じることは出来なかった。
「・・・ほう。ガキの癖にやるじゃねぇか」
イケメン店員の後ろから、
しゃがれた声が聞こえた。
よく見ると、背の低いずんぐりとした体形のじいちゃんがいた。
奥の部屋から武器を持ってきたらしい。
「おじいちゃん、注文の品出来上がったんだね」
イケメン店員はこのずんぐりとした体形の人の孫という事か。
【聖鑑定】
氏名:ルボル・ブルザーク
レベル:42
性別:男性
年齢:151才
種族:ドワーフ
属性:火★水☆風☆土★聖☆闇★
魔法:短文詠唱 【灼熱の太陽より出でし対流】熱分離
:長文詠唱 非表示
ギフト:鑑定 鑑定能力
:鍛冶の王 鍛冶能力
:能力向上
:非表示
所属:鍛冶師組合マイスター 鍛冶工房レブロン店主
称号:炎帝 鍛冶王
・・・うわぁ。
この人がマーサさんの知り合いか。
マーサさんに引けを取らないステータスだな。
それに「炎帝」って称号はマーサさんのものと一緒だ。
「あの、ご店主でしょうか。実はある人からご主人を紹介されまして・・・」
「ほう。俺を紹介するとは自殺願望のあるヤツだな。面倒を持ち込む客はたたき出すのがワシの流儀だ」
・・・どんな流儀なんだよ。
たしか拳を握って上に突き出せばいいんだっけかな。
「マーサさんが御主人によろしくって」
得意げに握った拳を上下させてみた。
「・・・あのババぁ。生きていたのか」
「はい、そりゃもう元気ですよ。魔族相手にひとりで奮闘するくらいですから」
「それであのババぁは今どこにいやがるんだ」
「ここから歩いて1週間ほどの小さな開拓村で安宿の女将をしてます。僕もずいぶんお世話になりました」
「ほう、それじゃお前はあのババぁの身内ってことになるのか?」
「・・・身内と言われても血のつながりはありませんけど、知り合いの小さい子供たちの里親をしてくれたりしてますから、家族ぐるみの付き合いってところでしょうかね」
ちょっと親密度を強調してみせた。
なにせ鍛冶師組合のマイスターだ。
この国でもトップクラスの鍛冶師なんだろう。
そんな人に近づけるなんて事はめったにないチャンスな訳で、
縁故を頼った特別なサービスを期待しちゃうからね。
「それじゃ、気の毒な事だったな」
「いやぁ、マーサさん手加減知らないですからいっぱいゲンコツもらいました」
「いやそうじゃない。その村までワシを案内しろ。そしてあのババぁと一緒にお前もぶっ殺してやる!」
「・・・はい?」
・・・マーサさん。
話が違うよ。




