調査報告書② 身の上話を聞きましょう
今夜はマーサさんの宿に泊まる。
朝になったら、ハンネ、ユーリア、カティナの三人に会っておこう。
きっとペトラも心配している事だろうから、
三人が元気にしていたと伝える事がなによりの励みになるだろうな。
鍛冶屋にもよってシモンの様子も見ていくか。
あいつ根性あるから、ペトラに心配かけたくないって、
必死になって頑張っているらしい。
アンも無事に目が覚めていればいいんだけど・・・
「ご主人さまぁ、早くぅ♪」
薄い絹のような布地のベビードールに、
紐パンツ姿で僕をベットに招こうとするソフィア。
目的は僕の魔素を吸い足りないのか、
それともそれ以外の目的があるのか。
いずれにしても、そんなきわどいナイトウェアを、
いったいどこから持ち込んだというのだろうか。
マーサさんの私物を借りたとすれば、
今すぐあのババぁの息の根を止めてやる必要がある。
「ああ、荷物はココにしまってるんです」
そう言うと、床から黒い長方形の行李鞄のようなものが浮かび上がった。
鞄の中には、数多くの服やアクセサリーが詰め込まれている。
アンとペトラを匿った時と同じ魔法なのだろうか。
地面からだけじゃなくて、宿の二階からも呼び出せるところを見ると、
理屈はエリザベスさんからコピーした空間保管庫と同じなのかもしれない。
「うふっ、可愛いでしょ。これはご主人様に殺された吸血姫のお姉さまに貰ったんですよぉ♪」
そうだった。
ソフィアの生活すべてを奪ったのは僕である訳で・・・
吸血鬼に囚われた可哀そうな子というのは、
僕から見た一方的な感情であり、
ソフィアにとってどうだったのかって事を、
確かめてはいなかった。
「・・・ソフィア。僕はお前のご主人様や仲間たちを殺してしまった。恨んでいるか?」
急に改まった態度にソフィアが背をただした。
ツンと主張している戦闘力がアンとペトラの哀愁を誘うが、
今はそんな場合じゃないだろう。
【まったくもってその通りです】
【ちょっと黙っててくれ】
「いえ、ご主人様。ボーズ様には大変感謝しております。恨みなど微塵もありません」
「いいたくなければ話さなくてもいいけど、どうして吸血鬼になったのか、理由を聞かせてくれないか」
少しの沈黙の後、
ソフィアが何故吸血鬼の真祖たちと行動を共にしていたのかを、
語りながらも記憶の底を探り出すように、
ソフィア・アンドルリーフの物語を教えてくれた。
ソフィアという名は、吸血鬼の真祖がそう呼んでいたから名乗っているのであり、
どこの国のどんな家庭に生まれたかという記憶は殆ど残っていないらしい。
自分が吸血鬼であるという事は自覚しているのだが、
血を吸いたい衝動とか、吸血した人間を眷属にする、
または吸血鬼にするといった能力も持ち合わせていなかった。
僕たちが思い描く、古典的な吸血鬼のイメージとは程遠いものだった。
ただし「ごはん」と称する魔素の摂取は生きる糧であり、
摂取量が少なかったり、まったく摂取できない状態が続くと、
永い眠りについて環境の変化をまっているらしい。
ソフィアも真祖から年に一度の遠征と呼ばれる人狩りの際は、
眠りから覚まされていたのだが、
その他に与えられた使命はなく、
覚醒時に与えられたエネルギーが尽きれば、
次の年まで黒い棺で眠っている。
そんな生活が何十年も続いていたのだという。
「という事は、遠征の時に便利な能力をソフィアがもっているって事なのかな?」
「たぶんこれの事だと思うの」
水平に伸ばした手を下から上に滑らかに振り上げる。
すると、ベットが1メートルほど宙に浮き始めた。
「・・・おいおい、これはどんな魔法なんだ?」
「ベットの下をよくご覧くださいませ」
ベットの下には半透明な薄いマットレス状の物体がある。
この浮かび上がった透明な板の上にベットが乗っているという事か。
浮かんでいるベットを指で軽く押してみると、
ベットは抵抗なく押し出された方向に進んでいく。
「浮遊荷台。1枚で1000キロくらい荷物を乗せて移動できます」
「なるほど便利な魔法だ。これじゃ真祖がソフィアを特別視する訳だな・・」
褒められるとすぐ誇らしげな顔をするのだが、
今はまったく異なる顔色をしている。
悪い事を聞いてしまったか・・・
「真祖様は、この能力があるからソフィアを迎えに行ったっんだって・・・」
攫われた理由のひとつがこれということなのだろうか。
「私は小さい時から病気がちで、一歩も外に出歩けない子供だって聞きました。私はしはよく覚えていないんですけど。病気が悪化して死を迎えるばかりだった私に、真祖様は病気を治してやる対価として忠誠をつくせと選択を迫りました。私は死に対する恐怖から逃げて吸血鬼となったみたいです・・・」
「血を吸われたのか?」
「いえ、ご主人様と同じく隷属契約のような契約魔法で吸血鬼になりました。けれど吸血姫のお姉さまたちと違って、私はこんな子供だったから、夜のご奉仕に呼ばれた事なくって・・・」
「もしもしソフィアさん。夜のご奉仕って具体的にどんなものなのか知ってて申されてますか?」
「ベットで一緒に入って、寝る瞬間までずっとおしゃべりする事なんじゃないんですか?」
「そっ、そうだ。その通り。寝るまでずっとおしゃべりすることだな、はははははっ」
「そのあと、●●●●を優しくされて●●●●に●●●をしちゃうんだってお姉さまからは聞いてるんですけど、何言ってるのか分かんなくて・・・」
・・・僕をからかっているのだろうか。
「ということで、二日目の夜にしてようやく邪魔者がいなくなりました。不束者ではございますが、末永くかわいがってくださいね。ご主人様ぁ♪」
「・・・ちなみにだ。記憶のある限り人間だった時の年齢は幾つだった?」
「えーと、16才です」
アンとペトラより年上じゃないか。
とにかく二人きりで寝るには危険が高すぎると判断し、
ソフィアをベットの上にす巻きにして眠りについたのであった。




