調査報告書② 仕事はしっかり覚えましょう
「吸血鬼の真祖と戦ったあと魔王と戦ったって。しかも勝っちまっただと。与太話もいい加減におし・・・」
仕事を終えたマーサさんに、
石の家の食堂で事の顛末を説明する。
もちろん、アンとペトラも無事にエリザベスさんの治療を受けて、
明日の朝までには意識がもどるって事は真っ先に伝えている。
血の気が引いて横たわる二人を見れば心底心配しているだろう。
こうみえてマーサさんは人一倍心配性なのだ。
ソフィアがおススメしていた、
大陸の西方にあるニルダ地方の赤ワインを空ける。
酸味が強いが深みのある味わい深いワインだ。
これなら肉料理との相性は抜群だろう。
サイコロ状にブツ切りにされたステーキを肴に、
ちょっと遅めの夕食を取った。
「随分珍しいお酒がありますね」
「最近街道で魔物が多く現れててね。聖都行きを断念した商隊が捨て値で置いていったものだよ」
「・・・魔王が出現した事となにか関係がありますかね」
「わからん。出たならブッ飛ばすだけさ」
「マーサさんなら魔王でも倒せるような気がします」
「おだまり・・・」
石の家を手伝ってくれている、
ハンネ、ユーリア、カティナの三人は、
まだ幼い事もあり、夕食前の仕込みが終わったら仕事が終わる。
今頃つかれて夢の世界にいる頃だろう。
温かい食事と柔らかいベット。
そしてマーサさんやこの村の人たちとのふれあいで、
真っすぐそして逞しく育ってほしいものだ。
「どうですか、三人の様子は」
「ふん、まだまだ戦力外さ。鍛えがいがあるってものだよ。ハンネはもう少ししたら夜の給仕を手伝ってもらうつもりさ」
「ちゃんと休みもあげてくださいよ」
「そんなこと分かってるよ。保護者が毎週見に来るって言うんだ。来るたびに痩せ細っちまったらこっちがいい気分する訳がないさ。意地でも飯はいっぱい食べさせてやるよ」
まったくもって素直ではないが、
これもマーサ母さんの懐の深さである。
「ところでソフィアはどうでしたか。だいぶ馴染んでいる様子でしたけど」
「ハンネたちよりは大きいからね。それに愛想もいい。給仕見習いとしては及第点だよ」
「なんならここで働かせましょうか?」
「バカも休み休み言いな。自己紹介で吸血鬼ですと名乗るバカ娘を面倒みきれると思うのかい」
・・・しまった。
こんなに早く社会適合させるつもりが無かったから、
細かいところまでは教えていなかったな。
「とにかくこの娘はあんたの下でしばらく教育するんだな。それにもしもの時があれば、止められるヤツは聖国にも数える程度しかいない。それが吸血鬼という存在だ・・・」
「わかってますよ。でもこの子はなんか違ってますよ。他の吸血鬼すべてを知ってるわけじゃありませんけどね」
「それで、今後はどうするんだい?」
「下層の子供たちの手配は予定通りですよ。行政にも働きかけました。まぁ、すぐ成果はでないと思うけど」
「そうじゃなくて、あんたは何をしたいかって事だ」
兄さんから指示されたのは、
聖者の墓所にいけと言われただけだ。
次はどこに向かえばいいのだろう。
【エミリー、兄さんが残したデータには何かヒントは無いか?】
【地図情報は多数ありますが、行先となるような明確な情報はありません】
【なんとか砂漠って結界の張られた砂漠はどうだ?】
【魔王戦で圧勝できなかった以上、時期早々かと。それより武器の調達と防具の調達。それに魔石の換金による資金確保を優先いたしましょう】
そうだよな。
ショートソードは折れちゃったし。
魔法以外のアイテムの重要性をおろそかにしていたのは事実だ。
いつ何時強い敵が現れるかわからないのだ。
備えるものはきちんと備えよう。
「ところでマーサさん。聖都で武器や防具を買いたいんだけど、どこかいい店しらないですか?」
「上層東地区に『鍛冶工房レブロン』って店がある。そこの爺さんは頑固だが腕はいい。マーサからの紹介だとゲンコツ作ってみせてみな」
「ありがとう。明日にでも早速行ってみるよ」
聖都までは1週間もかかるだろう。
そう言いたげな視線を送られるのだが、
僕の非常識な魔法ってものを皮肉っているのだろうな。
「あとこの魔石だけど、いくらくらいになるかな」
「・・・なんだい、この魔素の塊は!」
さっきコピーしたエリザベスさんの空間保管庫。
ポケットの中でつないだので、
自然と取り出すことが出来る。
マーサさんの反応で、
これもやはりタダモノではないことを知る。
「吸血鬼の真祖を倒したとき、ついでに出現した吸血姫を倒したんです」
「ついでで倒せる相手じゃないよ。こんなの1体でも領内に出れば、国が亡びるかもしれない災害級の魔族さ」
「ソフィアはそういう怖いのじゃないですからね」
「金貨1000枚は下らないだろう・・・」
金貨1枚10万円と考えると、1000枚だと・・・
10憶円!それが5つあるから50憶円!!
【いえマスター、1億円です】
・・・そっ、それでも魔石が5つあるから5憶円になるだろう。
あっ、でもビリアンティさんに1つ渡してしまったけど。
「上等な魔石なら聖域のギルド本部にもっていきな。ヘンな横流しはご法度だから悪用されることは無い。換金率はそっちのほうがいいかも知れないが、他所じゃどんな悪いものに化けるか想像もつかないからね。夢見が悪くなっちまうよ」
「なるほど、金の問題じゃないってところも見極める必要があるんですね」
「ところでさっきから見て見ぬふりをするのも限界だ。なんだその卑猥な格好は!」
食事をとる僕の傍らで、
左手のクスリ指を美味しそうにしゃぶっているソフィア。
「ああ、なんだか今日は沢山魔法と体力を使ったみたいで、なかなか満腹にならないみたいなんですよ」
「そういう問題じゃない」
マーサさんが爆発する前に、
振りほどくようにソフィアから指を抜き取った。
「ああん、ご主人様ぁ、もっと頂戴♪」
「だからそういう事は部屋でやれって言ってるんだ!」
「じゃあご主人様ぁ、早くお部屋に連れて行って。お腹のあたりが熱くて、もう我慢できなくなっちゃう♪」
物理防御が発動され、
何重にも張り巡らされた防御障壁を突き破り下された怒りの鉄槌。
なんでソフィアじゃなくて僕に降り注ぐことになったのだろう。
薄れゆく意識の中、ソフィアの笑顔が歪んで見えた。




