調査報告書② 秘密はしっかり守りましょう
エリザベスさんが祠堂にいる事は分かっていた。
聖者の墓所からは移動するなら相当な距離があが、
直線ならば、東に見える岩山を越えればそう遠くはない。
距離もそうだが、一度空間移転のマークを作った地点は、
特に索敵感度が跳ね上がる。
突然あらわれた時、多くの人がいて驚かせたり、
敵の真っただ中だったりすれば都合が悪いからありがたい。
その詳しい理由はよくわからないのだが、
そういうものだと思う他ないだろう。
【空間移転】
「エリザベスさん、ボーズです!」
祠堂の中では、エリザベスさんが祭壇に祈りを捧げているところだった。
「・・・まっていたわ。さあ、二人を診せて頂戴」
全てを見透かしていたかのようなエリザベスさんの言葉だ。
いや、「ような」ではなく、僕の行動は全て筒抜けだったのかもしれない。
それが1000年との時を生きる大賢者と呼ばれるものの、
計り知れない力なのだろう。
僕やアンの使う低位の回復呪文とは違い、
エリザベスさんは別次元の呪文を唱えた。
回復というより、再生能力に近い感じがする。
見た目の傷は塞がれていたが、
失った血液と心の傷までも回復されてくれるような、
そんな慈愛に満ちた魔法だった。
たぶんこの魔法はコピーしても使えないかもな。
魔法リストをチェックすると、
【回復魔法:非表示】と追加されている。
使用するにはレベルだけじゃなくいろいろと学ぶべきことが多い様だ。
「・・・もう大丈夫、安心して」
アンの頬に薄紅色の精気が甦る。
ペトラの傷も内臓へのダメージが残っているようだったので、
エリザベスさんが回復魔法をかけてくれた。
よかった。
これで二人は助かったのか。
そんな安堵に気が抜けたのか、
その場で崩れ落ちるように腰をつく。
「想定外の事態になったわね・・・」
「ええ、やはり視ておられましたか。本当に酷い目にあいましたよ。生きて帰ってこられたことが奇跡です」
「あの白い閃光弾はお兄さんから教わったの?」
「あれは最初から使えた魔法です。空間移転は教えてもらったというか、真似させてもらったんですけどね・・・」
冷静さを失うと、斯くも簡単に誘導尋問に引っかかってしまうのだろうか。
「兄さんから教わった」という質問を流せなかったということは、
僕がダイドージの弟だとバレたという事だ。
しかも、その確信をもってカマをかけた質問だったに違いない。
「・・・いつから気がついてましたか?」
「ふふっ、初めからよ」
掌の上で踊ってた訳か・・・
「クリシュナイ伯もご存じなんですか」
「いいえ、アルがそれを知れば貴方に害をなすことになったでしょう。心配しないで、今は聖都にアルは不在だし、この祠堂から魔力によって情報が漏れることは無い。ここはそういう神聖な場所なの」
「この古びた農村の小屋みたいなのがそんなに大切な場所なんですか」
「1000年と少し前、この場所に【時の門】が現れたの。それを通ってやってきたのがダイドージ。あなたのお兄さんよ」
「やっぱり兄さんは生身のカラダで通り抜けれる門を見つけてたんだ!」
「血を分けた兄弟なのね。姿形は全然似ていないけど、その表情や仕草、魂の波動はダイドージとそっくりだわ」
旧友との再会を懐かしむように、語り始めたエリザベスさん。
僕が知らなかった兄さんのこの世界での物語を知ることになった。
【時の門】から現れた兄さんは、当初より超人的な能力を持っていたらしい。
生身で【時の門】を通る際の副産物だと言ってたとか。
そして当初はこちらの世界と元の世界を行き来していたのだとか。
ある日、聖者の墓所と呼ばれる場所にできた大穴から、
とてつもない数の魔族の群れが噴き出してきた。
人類は種族を超えて団結し、
この厄災に立ち向かった。
多くの犠牲者を出しながら、
5人の戦士と魔導士が自らを結界の礎とし、
大穴を魔素の蓋で塞ぐごとが出来た。
すでにこの世界に溢れた魔族の群れを殲滅したのが、
ダイドージを中心とした後の帝国と呼ばれる魔法騎士団だった。
「私とクリシュナイは騎士団所属の魔導士と魔法剣士だったの。ダイドージは皇帝の食客として騎士団と行動を共にしたわ。騎士団にはサテラの先祖であるエルフの聖弓レネー・ベンツピルスやアンの魂のもとになってた大魔導士カルディナ・ノヴォトナーなんかもいたわ」
「サテラさんのご先祖様ってエルフなんですね」
「ええ、種族は男系から受け継がれるからものなの。だからあの子見た目はヒューマンだけど種族はエルフなのよ」
「奴隷制度はありますけど、人間と亜人の関係が悪くなさそうで、いい世界だなって思います」
「1000年前の聖魔の戦いで人類が一致団結したからこの世界が出来たの。それまでは種族間の争いが絶えなかったし、混血なんてありえない世界だった」
「戦争によって文明が成長するっていうのは、僕がいた世界でも同じでしたよ。同じくらい悲惨な結果を残して階段をひとつづつ登ってきたって歴史が教えてくれてます」
「一度だけキミの世界に行ったことがあるよ」
「ホントですか!?」
「ダイドージと一緒に1日だけだけどね」
「・・・もしかしてデートですか?」
「ふふっ、もう1000年昔の話、忘れちゃったわ」
「どうでしたか僕のいた世界は」
「驚いたよ。あんな世界がこの世に存在するなんて思わなかったもんなぁ。今でもダイドージと一緒に食べたチョコレート掛けのポップコーンの味が忘れなれないわ」
・・・忘れていないじゃないですか。
そういって、手を伸ばした先に現れた空間の穴から、
あの夢の国でよくみかける蜂蜜ツボを抱えた、
クマのポップコーンケースが取り出された。
アンの妖精の小箱と同じ魔法なのだろう。
「もしかしてエリザベスさん、兄さんと・・・」
「肯定はしないけど、否定もしないってことでどう?」
「そんなぁ。もしかして義理の姉さんかもしれないのに」
「ははっ、それは考えてなかったなぁ。でももうそれは絶対にありえない物語」
「兄さんは今どうなっているんですか。クリシュナイ伯は今も戦っていると言ってましたが」
「大穴から出てきた魔族の群れは、四大魔王に付き従う正規軍だった。この世界の五つの大陸のすべて都市を焼き払い、おびただしい犠牲者の数を出したわ。人類の人口は1/5まで減少し滅亡の危機さえ覚悟することになったの。するとある日ダイドージに恐ろしい変化が始まったわ。この世界に来てからの彼の能力は尋常じゃなかったれけど、それ以上にすごい力を手に入れた。四大魔王はその時のダイドージ覚醒した力によって滅びたわ・・・」
「それじゃ、勇者ダイドージが世界を救ったというのは本当だったんですね」
「ええ、その時使った魔法がキミの放った白い閃光弾に似ている」
「全属性適合者が使える対消滅っていうエネルギー砲です」
左手の掌で、白い閃光の球体を作る。
そして右手の掌には黒い球体。
「そしてこれが魔王が使った魔法。兄さんから教わったと言ってました」
「ここから視てたけどそれはいったいなんなの」
「特異点という脱出不可能な次元の境界線です」
「そう、ダイドージが・・・」
目を伏せながら悲しそうな光を宿す。
「それで、なんでキミのステータスが聖鑑定と違っているのか詳しく教えてくれるかな」
うっ。
またバレた。
早く離脱しないと丸裸にされてしまう。
いやまて、それはそれで興味深い。




