調査報告書② 使えるものは何でも使いましょう
「・・・正直あんたに勝てる気がしねぇ」
「ご納得いただけましたか。それでは我らが主のもとまでご案内いたします」
「だから勝つことはやめる事にする・・・」
「まだ、なにかご不満がおありでしょうか?」
左手の指5本全てに魔素を充填。
連続して50発を打ち込むべく練り上げる。
もちろん自動追尾を付与している。
【マスター、同じ攻撃では先ほどの黒い球体に吸収されてしまいます。現在魔素残量50%です】
さらに魔素を研ぎ澄ます。
(なあ、エミリー。あの黒い球体って何だと思う)
【データ不足で解析不能です】
(ひとつヒントがあったじゃないか。この魔法もあの魔法も「物理」だって)
【敵、動きます。自動運転継続。対消滅弾はいつでも発射可能で待機します】
物質と反物質が対消滅すると発生する膨大なエネルギー。
あの日兄さんが教えてくれた、
まだ人類が到達しえない宇宙の法則。
そして僕が使える唯一のオリジナル魔法だ。
兄さんは僕にもうひとつの人類が到達することのできないものを教えてくれた。
それが【特異点】
ブラックホールと言ったほうが馴染みがあるのかもしれない。
ブラックホールとは「黒い穴」ではない。
それは光さえ脱出することのできない重力の黙示録。
だから人はその真の姿を目撃することは出来ないし、
内部がどのような法則の元成り立っているのか、
観測する術がない、神のみが知る絶対領域。
黒く見えるその球体は、光の世界との境界線。
いわゆる【事象の地平線】なのである。
「それでは無理やりで恐縮ですが、ご案内すると致しましょう」
先ほどとは段違いのスピードで攻撃を開始された。
かわすことで精いっぱいだが、
攻撃を食らえば物理攻撃防御の能力が発揮されても、
とても無事では済まないような威力を感じる。
僕の左手に集約している魔素に警戒しているのか、
右からの攻撃が来ることは予想することが出来た。
(よし、今だ!)
対消滅弾50発を連続で放つ。
今度は爆発というより貫通する能力を高めた特別性だ。
でも、今回の対消滅弾は、
さっきのとは貫通力が別物だとすぐにバレだろう。
それほどに相手は僕の魔法を理解している。
あいつの右手に魔素の高まりを感じるから、
漆黒の球体を発動させてすべてを吸い込むのは間違いない。
だが、それでいい。
【時間停止】
一瞬にして聖なる墓所は色のない世界へと変わる。
爆乳魔王までの距離は約50メートル。
追尾を警戒してか後方に飛んでいるが問題ない。
そこまでの移動は2秒あれば十分だ。
彼女の背後に忍び寄り、
僕は右手を彼女に向けて掲げる。
まもなく時間が動き出すが、
僕が真っ先にすることは、
真実の偽物を解除すること。
伸ばした右手に魔王の背中が吸い付いた。
時間停止の空間を移動して、
右手を伸ばし待ち構えていた。
ただそれだけのことである。
もちろん、背中に手が触れる前に、
何重にも張り巡らせた、
分厚い魔法障壁とぶつかっているが、
僕の右手の先にある【特異点】は触れるものすべてを飲み込んでくれる。
こいつからは、
兄さんの情報をもっと知りたいところではあったのだが、
今優先すべきことはアンとペトラを助ける事。
今はそれ以上考える必要はない。
僕が放った対消滅弾すべてとともに、
魔王エレオノーレ・ハルヴァートは、
僕が発動した漆黒の球体の中に飲み込まれていった。
「あんたの爆乳・・・もとい、魔法は一度見せてもらったからな」
【マスター、お見事です。今のはどういう魔法でしょう】
「ブラックホールの一部だけ召喚しているのかなぁ。対消滅とは全く違う系統だったよ」
【魔王エレオノーレ・ハルヴァートは倒されたと判断します】
「いや、ブラックホールの中はどうなってんのか誰もわかんないからな。必ず死んでるって証明できない以上、封印ってところなのかな。まぁ、魔王相手にひとりで戦った・・・いや、エミリーとふたりで戦った事を考えれば上出来だよ」
魔素の残量も残りわずかだった。
兄さんからのヒントが無ければ、
勝機なんてこれっぽっちも無かっただろう。
僕を招く魔神ダイドージ。
アドバイスをくれる勇者ダイドージ。
どちらが本当の兄さんなのだろうか・・・
「あっ、出でこいソフィア!」
慌ててアンとペトラを匿ってくれたソフィアを呼び出した。
すると地面から黒い棺が3つ浮かび上がってくる。
隠れてもらった場所からは1キロ以上離れているけど、
地面の中を移動できるらしい。
なかなかレアで便利なスキルなのかもしれないが、
知らない人が見たらとてつもなくシュールな光景だ。
「ごっ、ご主人様、お怪我は・・・」
「ああ、大丈夫だ。なんとか撃退できた」
「前のご主人様も怖かったですけど、あの狙撃の悪魔はもっともっと怖かったです・・・」
僕の感知能力を最大にしてもよく解明できなかった魔王の事を、
よくソフィアは吸血鬼の真祖より強いと分かったよな。
もしかして僕の感知方法と違った角度で相手を認識しているのだろうか。
「アンとペトラの容体は?」
「はい、ペトラは混乱しないよう眠らせています。でもアンの方は傷は塞がってますけど、出血が多かったので意識がない状態です」
(エミリー、アンのバイタルチェック頼む)
【はいマスター、血圧が低下中、出血性ショックの症状が看られます】
「ソフィア、ここらか今すぐ離脱する。付いて来いと言いたいところだけど、行先は、聖都中心部の聖域。それも大聖堂の中にある祠堂だ」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
アンデットには地獄のような場所だよな。
まぁ、しょうがないか。
「ついてこれないなら留守番だ」
「でも、こんな怖い場所は嫌です。それにご飯も食べなくちゃ・・・」
「ちゃんと宿につれていくから。それに夜までは戻ってくる。おとなしく待ってられるか?」
「・・・はい」
「よし、いい子だ」
ソフィアの頭をポンポンと撫でてやる。
まんざらではない笑顔に少しだけ安堵する。
「よし、俺につかまれ」
【空間転移】
「マーサさん、いるか!」
「・・・突然現れてどういうこった」
意識がなく横たわるアンとペトラを見て顔色を曇られる。
そして、ひと目見たソフィアに最大限の警戒を怠らないところは、
さすが元一流の冒険者といったところか。
「マーサさん時間がない。今からエリザベスさんのところに二人を連れていく。この子、ソフィアっていうんだけど、夜まで戻ってくるから預かっててほしい」
「・・・ふざけた真似をすれば殺すけどいいのかい」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
見た目子供なのだから、その殺気は止めてほしい。
まぁ、今のでソフィアもマーサさんの怖さはよく理解できただろう。
もしかして、爆乳魔王もマーサさんなら一人で勝てたのかもしれない。
「隷属契約してるし、その子は命がけでアンとペトラを守ってくれた。それに・・・」
「ふん、時間がないんだろ。早くお行き」
「ありがとう、恩に着る!」
【空間転移】
「・・・あんた名前は」
「ソっ、ソフィア・アンドルリーフと申します」
「それでボーズとはどこで知り合ったんだい」
「えーと、聖者の墓所で魔人ゴットフリート・ベルクソン様と戦われたときにお会いしました。あっ、ベルクソン様は私の前のご主人様なんですけど吸血鬼なんです。それも真祖なんですよぉ。でも、ボーズ様が前のご主人様を倒されたので、すごく困ってたところを、優しいボーズ様に乗り換えちゃいました♪」
【鑑定】
氏名:ソフィア・アンドルリーフ
レベル:12
性別:女性
年齢:12才
種族:ヒューマン
属性:火☆水☆風★土★聖☆闇★
「・・・その話、私以外の人間には口が裂けても話すんじゃないよ」
「はっ、はい。なにかお気に障られましたでしょうか・・・」
「・・・はぁ。ボーズの苦労が手に取るようにわかるよ」
多分ステータスの偽造はバレてただろうな。




