調査報告書② リスタートと参りましょう
結局争う三人に、
ソフィアからコピーした精神麻痺の魔法を使って強制的に眠らせた。
この魔法を見たのは解除した時だけなのだが、
基本的に使用するときと同じ要領のようで、
いとも簡単に眠らせることが出来た。
連続して床で眠るのはさすがに辛かったが、
怪我人もいる中で、僕だけ下層の宿まで転移する訳にはいかなかった。
朝起きるとサルドウスさん達が、
何事もなかったかのように元気な姿を見せてくれた。
スケールメイルを壊したことを謝罪すると、
仲間を助けてくれたことの感謝だと、
バンバンと僕のカラダをたたきまわしてくれた。
そのおかげで全身がビリビリと痛い。
物理攻撃防御のスキルがあるんだけど、
敵意のない攻撃には無力な能力のようだ。
下層までの空間移転を申し出たが、
聖者の墓所に入城申請をして帰還しなかった冒険者は死亡扱いになるらしい。
移転先は昨日の戦闘地点とし、そこから歩いて聖都のギルドに帰るの事だ。
吸血鬼の出現と、それを倒したのが僕たちだという事を報告するのだとか。
僕もギルドに登録しているから、
ブロンズメダルから一気にミスリル、
下手をすればオリハルコンメダルまで昇進する快挙なんだとか。
オリハルコンメダルと言えば、
ギルドのランクでは上から2番目なのである。
報告はなんとか容赦願えないかと抵抗してみたのだが、
俺達もプロだからそれは出来ないときっぱり断られる。
「いいじゃないか、ランクが上がれば情報も沢山入る。報酬だってブロンズの何十倍も跳ね上がるぞ」
「でも、なるべく目立ちたくないんですよ・・・」
「ああ、クリシュナイ伯の直属だもんな。守秘義務があるだろうが、察するに諜報部門のポープなんだろう、お前達は」
・・・いえ、ただの奴隷です。
「まあ、その腕があれば俺たちの護衛もいらないだろう」
「本当にお世話になりました」
「ふふっ、お世話になったの私たちのほうよ」
そう言って、ビリアンティさんが僕を引き寄せハグしてくれた。
柔らかな双丘が僕の顔に当たるのだが、
思わず時間停止の魔法を発動する所だった。
離れ際に彼女の左手にそっと魔石を1つ手渡した。
まだ披露していなかったけど、吸血姫を倒したときの魔石だ。
受け取ることは出来ないと聞いていたけど、
サルドウスさんのスケールメイル代くらいにはなるだろう。
そんな思いを察してくれたのか、
魔石を静かに受け取ってくれたのは、
彼女なりの優しさなのだろう。
「それじゃまたなボーズ」
「サルドウスさんもお元気で」
「なんだ水臭いな。俺の事はユリウスって呼んでくれ。用があれば上層の聖国ギルドにきな」
「はい、ありがとうございます」
1日だけのパーティーだったけど、
いい人たちだったな。
アンとペトラも同じ想いだろう・・・って、
サルドウスさんのパーティーが城門に向かうと同時に、
アンとペトラが岩陰に向けて走り出した。
「あららら、これだから人間は困ったものですね」
どうやら酷い二日酔いらしい。
さすがに今朝はアンも朝食を準備してくれなかった。
パンとチーズを挟んだンドウィッチくらい食べたかったけど。
「ソフィアは酒は大丈夫なのか」
「私は吸血鬼です。ワインに血を混ぜて飲むのは当然のこと。あの程度まったく問題ありません」
「・・・実際のところは?」
「真祖様は私をいつまでたっても子ども扱いで、ワインは一切飲ませてくれませんでした。ワインとは、かのように美味しい飲み物だったのですね!」
魔素探知ってウソとか敵意を持つ気配もわかるんだよね。
たぶんそれがソフィアの魂が吸血鬼になり切れなかった原因だったのかもしれない。
どうにかしてソフィアを人間に戻す方法はないものなのか。
またひとつ課題が生まれてしまった。
「・・・そっ、それでご主人様はこれから何を」
「ああ、聖者の墓所の調査を再開する。今日の目的は聖堂にたどり着く事だ」
「まだあんな遠くに・・・」
目測では2キロ程度なのだが、
二日酔いでヘロヘロのアンとペトラには絶望的な距離に見えるらしい。
「つらいなら一度宿までもどろうか?ここをマークしておけば、ソフィアと二人で聖堂の調査に行ってくるから」
「そうそう、アンとペトラはお留守番してていいから。ご主人様と二人きりで調査してきますから♪」
「・・・二人きりで?いいえ、心配ご無用です。たった今治りましたから!」
「わっ、私もレポートの為です。ついて行きます!」
「・・・わかったよ。無理しなくていいから一緒に行こう」
アンもペトラも結構頑固なのだ。
でも酔った勢いとはいえ、
あんなに自己主張できるアンの姿には成長の跡が見られる。
農奴頭のところから身請けした時は、
自分の考えを人に伝える事でさえ戸惑っている様子だったのに、
喜びや悲しみ、感動や憤怒といったいろんな感情を表に出せるようになった。
なにより嬉しいのは、ご飯を楽しそうに食べてくれることだ。
美味しいものを「美味しい」と言える亊が嬉しくてたまらない。
そんな感情が溢れてくる。
栄養をたくさん取ったせいで、
腰のあたりに色っぽさが出てきたように見えるが、
戦闘力が相変わらずなのが残念と言えば残念だ。
この成長は金獅子亭のネラちゃんや、
ペトラたち同年代の女の子と生活を共にしたことも大きかった。
一緒に食事をしたり、一緒にお風呂に入ったり。
こうやって旅に出て、みんなで一緒の部屋で寝るって事も勉強だった。
学校には通わせてあげられなかったけど、
ビリアンティさん達との出会いも、
学校の授業では経験できない貴重な財産となっている。
このまま縛られることなく成長を続けてくれれば、
僕の元を離れる時は、そう遠くない将来となる事だろう。
「・・・どうしましたご主人様。私の顔に何かついてますか?」
「いや、アンがなんだか急に成長したなって思ってたんだ」
「急にそんな事言われると、はっ、恥ずかしいです・・・」
「ごめんごめん、つい口に出してしまったけど本当の事だよ」
「・・・ありがとうございます、ご主人様」
ペトラがなにか言いたそうにしているが、
さすがにこの場で口を挟む様なことは無かった。
ソフィアはどうでいいといった表情だった。
なにはともあれ、そろそろ聖者の墓所の聖堂につきそうだから、
ちょっと警戒しておこうか。
昨日の吸血鬼のような異常事態が・・・
赤い閃光が僕の頬をかすめていった。
魔素探知には一切感知されていない。
閃光だけではなく、敵の存在自体がどこにも感知されていない。
そしてその閃光は追尾するように方向を変え、
僕のもとへと戻ってくる。
初激は絶邸魔法防御の魔法障壁にあたって軌道を変えたが、
確実に僕の頭を狙ってきた。
しかも自動追尾ってなんだよ。
こんなの吸血鬼の真祖の時もお目にかかれなかったぞ。
反射的に追尾する閃光に身構えた瞬間それは起こった。
二の矢である赤い閃光がアンの胸を貫いた。
そして三の矢がペトラの腹部を貫いた。
「時間停止!」
とっさに時間を停止したが、
時間停止中は他の魔法が発動できない。
腹部を貫かれたペトラも重症だが、
アンは心臓近くをやられている。
まずい、これは致命傷なんじゃないか?
とりあえずふたりを抱え岩陰に隠れ時間を戻す。
感覚的なものなのだが、時間停止は長くて10秒。
しかもこれは魔素消費が激しく、
戦闘を控えた今は最低限の使用としたい。
回復魔法を優先すべきはアンの方から。
時間停止中に最大限練りこんだ魔素を込めて発動する。
それからペトラにも同量の魔素の回復呪文をかける。
2人とも傷口は塞げたのだが、
出血が激しかった事もあり、
意識が戻る気配がない。
「ソフィアいるか?」
「はっ、はい。ご主人様!」
「土魔法でアンとペトラを隠してくれ。それからお前もそこに隠れていろ!」
「・・・でもご主人様は」
「約束を忘れたか!」
「はっ、はい。そうでした」
アンとペトラが黒い棺に納められ、
静かに地面へと消えていった。
ソフィアとともに魔素探知から反応も消えている。
【エミリー、悪いけど自動運転頼めるかい】
【はいマスター、自動運転起動しました】
【僕は魔素探知の感度をあげて敵をみつけだす】
【前方より発光確認。3発きます】
聖堂の屋根からの狙撃か。
ちょっと待ってろ。
アンとペトラになんてことしやがるんだ!
閃光を掻い潜り聖堂の屋根めがけて走り出した。




