調査報告書② ご飯はちゃんと与えましょう
【聖鑑定】
氏名:ソフィア・アンドルリーフ
レベル:12
性別:女性
年齢:12才
種族:吸血鬼
属性:火☆水☆風★土★聖☆闇★
魔法:短文詠唱 非表示 大地葬送
短文詠唱 非表示 精神麻痺
長文詠唱 非表示 天地振動
ギフト:肉体再生
:非表示
称号:吸血鬼(見習い)
てな具合にちょっと内容を修正した。
修正したのはレベルが21→12と、
年齢が88才→12才の2つだけだ。
種族が吸血鬼というのはかなり迷ったけど、
真祖にさらわれたばかりの犠牲者という設定でごまかそう。
レベルと年齢は偽っているが、
その事以外、真実であるのは間違いない。
むしろ種族を偽ってバレたときを考えたほうが厄介だ。
アンの魔眼は真実を見破りそうだ。
意識のないトリスカイさんとセダさん。
彼らの手を握りしゃがみ込むと空間移転の体制に入る。
ソフィアに留守番を命じようかと思ったけれど、
先ほどちょっと目を離した隙に起こった出来事を考えると、
この場にひとり残すのは忍びない。
「ソフィア、どこでもいいから僕のカラダを触ってくれないか。ここから外まで移動するから」
「先ほど突然ご主人様がいなくなったりあらわれたりした能力ですか?」
「それも知ってたか。なら話は早い。あの城壁の外まで転移する。手が空いてないからはやく」
「はっ、はい」
そう言うと、何故か僕の後ろに回り、
背中からおんぶの格好で首に手をかける。
別にその体制でなくても僕のカラダに触れるだけでいいのだが、
まぁ、隷属契約しているので、
うしろから首をガブっという事は無いだろう。
それに未熟ながらも戦闘力が背中に密着して心地よい。
少し揺らしてその大きさを確かめてみるのも一興。
まてよ、むしろソフィア三時からに「動いてみろ」と命じてみようか・・・
【このスケベ野郎。死ねばいいのに】
おっと、コンプライアンスが作動したか。
「空間移転《トランスポート」
宿の裏に設けたマーク地点に転移すると、
そこにはアンとペトラが待っていた。
なかなか戻らない僕の事を、
心配して待っていてくれたのだろう。
「ご主人様!」
「すまないが、詳しい話はあとだ。トリスカイさんとセダさんを部屋に運んでほしい。ペトラ、悪いけど宿の人を何人か呼んできてくれないかな」
「ご主人様、その子は・・・」
「お初にお目にかかります。私はソフィア・アンドルリーフと申します」
おんぶされたままのソフィアが、
背中越しで挨拶をする。
まぁ、礼儀作法は人間と同じく、
教育を受けているようで安心した。
「おい、挨拶はそのくらいにしてそろそろ降りてくれないかな」
「すっ、すみません。ご主人様の香しい匂いに、ついうっとりしてしまいました♪」
「・・・えっ、いまご主人様と!?」
バチバチとスパークする音が聞こえる。
さっそく始まったアンとソフィアの睨み合い。
仲間は大切にしろという制約はどこにいったのだろう。
「早くしないか!」
「「・・・はっ、はい」」
トリスカイさんとセダさんを部屋に運ぶと、
ビリアンティさんが慌てて二人に回復魔法を施した。
ソフィアの話によると、麻痺魔法は解除しているので、
明日の朝までには目を覚ますだろうとの見立てだった。
そして、事の顛末を順を追って説明することにした。
トリスカイさんとセダさんを迎えに戻ると、
2人の姿は見えず、吸血鬼の真祖が出現した事。
交渉は決裂し戦闘となった事。
吸血姫が加勢に来た事。
なんとか魔法で吸血鬼達を撃退出来た事。
隠れていたソフィアを発見した事。
ソフィアがトリスカイさんたちを開放することを手伝ってくれた事。
そしてソフィアは吸血鬼である事・・・
「でも、ソフィアは被害者なんですよ。まだ吸血鬼になったばかりで見習いなんです」
「・・・気持ちは分かるけど、吸血鬼は人の世界じゃ共生なんて出来ないわよ」
ビリアンティさんが困り顔だ。
真祖に吸血鬼にされたものは、
徐々に人間性を失っていくものらしい。
ステータスは12才であり、見た目もそのとおりのソフィアなのだが、
すでに80年近く吸血鬼となっている。
人間性を失うとすれば、とっくに無くなっていてもおかしくない時間の経過だろう。
他の吸血姫たちが、全員ボンキュボンの凄まじい戦闘力だったことを考えれば、
ソフィアは真祖にとってイレギュラーな存在だったのかもしれない。
寵愛を受けない代償が人格の維持だったという事なのだろうか。
「ソフィアが人に危害を加えることは出来ません。その証明に僕と隷属契約を結びました」
「アンデットと隷属契約だなんて。それであなた大丈夫なの?」
「・・・何かまずかったですか?」
「アンデットは契約主の魔素を継続して吸い続けているのよ。普通の人間なら5分と持たず干からびてしまうはずだけど」
【エミリー、僕の魔素量はどうなってる】
【はいマスター、若干の減少はみられますが、マスターの自然回復力以下の数値ですので絶対量には懸念ありません】
「・・・なんとも無いようですね」
「転移の魔法といい、吸血鬼を一人で退治しちゃったことといい、あなた普通じゃないわよ」
「経験は浅いんですけど、クリシュナイ伯の直属ですから・・・」
虎の威を借るってのはこういう事を言うのだろうな。
こまった時のクリシュナイ伯頼みだ。
「それとこれを・・・」
吸血鬼の真祖を倒したときに手に入れた魔核を差し出す。
血を思わせる深紅の宝玉に一同が目を奪われる中、
ソフィアだけが視線を逸らす。
ちょっと配慮に欠けたのかもしれない。
吸血姫から回収した魔石にしては巨大な石もあるのだけれれど、
これ以上ソフィアの前に晒すのは気の毒だ。
「・・・本当にひとりで倒しちゃったのね」
「チームで遭遇した相手ですから、これを換金して分けたいと思うんですが」
ビリアンティさんが不思議そうな顔をする。
「ドロップしたものは倒した人のものになるのよ。私たちにその資格はないわ」
「でも、皆さんの教えが無ければ倒せる相手じゃなかったですし、サルドウスさんにも迷惑かけちゃいましたから」
「気にしなくてもいいのよ。それにミスリルの冒険者がブロンズの冒険者から施しを受けたなんて知れると失業しなくちゃいけないもの」
「・・・ビリアンティさん。それじゃせめて今晩の食事は僕からご馳走させてください」
「ふふっ、それじゃその申し出だけは甘えちゃおうかな。よーし、今夜は飲みたい気分になったわぁ!」
ケガ人と病人がいるでしょう。
なんて言葉は野暮な事なのだろうな。
サルドウスさんには、新しいスケールメイルをプレゼントして詫びる事とにしよう。
今までの甲冑は僕が豪快にぶった切っている訳で。
食堂ではテーブルいっぱいの料理が並んでいる。
金に糸目は付けないからと注文したのはビリアンティさんだ。
魔核は遠慮していたけれど、
実のところ惜しい事をしたと思ってるんじゃないのだろうか。
まぁ、請求されれば払うつもりではあるんだけど。
本音と建て前というのはどちらの世界でも難しいものだ。
「それじゃ、ボーズくんの活躍とソフィアちゃんの歓迎にかんぱーい!」
自ら音頭を取るビリアンティさん。
乾杯と同時に木樽のジョッキを一気に飲み干すと、
「ぷはー」という心の叫びが飛び出している。
このエリアは聖都の食糧庫と呼ばれている名の通り、
色とりどりの野菜と肉料理が並んでいる。
とくにこの鳥の丸焼きは、
ナイフを入れると肉汁があふれ出し、
口の中は旨味と甘みと肉汁で大洪水となる。
アンとペトラには葡萄ジュースを。
もちろん未成年に見えるソフィアにも同じものを与えていたのだが・・・
「・・・ご主人様、お約束覚えてますか」
「もちろん、ご飯を食べさせる事だろ。なにか食べたいものがあるのか?」
コクリとうなずくソフィア。
テーブルいっぱいに並べられた料理の中にソフィアが求める食材は無いらしい。
「じゃあ、何が食べたいんだ。注文できるものならなんでも頼んでいいよ」
「それじゃ、ひとさし指を真っすぐ伸ばしてください」
「こうか?」
はむっ。
突然ソフィアが僕の指にしゃぶりついた。
血を吸わないとも約束していたので安心していたのだが、
幼女が指をちゅぱちゃぱと舐めまくる姿に、
その場にいた全員が凍り付いた。
俺だって驚いたしこんな約束は承知していない。
確かに血を吸っている訳ではないようだが、
僕の黄色い蛍光色の体液を飲んでいたなら、
アンデットでも命の保証は無かっただろう。
凍り付く事30秒。
ソフィアが指から口を離し、
「ぷはー」という心の叫びが飛び出した。
「ごちそうさまでしたぁ。これから毎日お願いしますね、ご主人様♪」
幼女に公然と指をしゃぶられる。
はっきり言ってドン引きだったが、
なにか大切なものを奪われた。
そんな喪失感でいっぱいになるのであった。




