調査報告書② 雇用契約はしっかり結びましょう
「隷属契約って本気なのか。何を言ってるのかよくわからないが」
元は人間であるというソフィア。
囚われの吸血鬼という立場から、
ようやく自由の身となれたのだ。
その主人からもらう愛というのがなんだかわからないけど、
何度も言うが僕は幼女趣味ではない。
どうしても奴隷にするのであれば、
まったくもってけしからん戦闘力を揺らしていた、
ダイナマイトな吸血姫たちの方を選んでいただろう。
もとい、すでにアンという奴隷がいる訳で。
契約上は僕もアンもサテラさんの奴隷であるが、
アンの忠誠は間違いなく僕に向けられている。
だからこそ新しい奴隷など、
勝手に契約する事は出来ない。
「ご主人様を殺してくれたことは深く感謝します。あの呪縛から逃れるには不死王と呼ばれたご主人様を滅ぼすほか無かったのですから」
「・・・なんでアイツが死んだと分かるんだい?」
「鎖です。真祖の吸血鬼に囚われたものは魂に鎖の呪いが掛けられます。少しでも主人に対して反旗を翻そうとすれば、その身は蝿となり生き続けねばなりません。その鎖が今は無くなりました!」
うーん。蝿かぁ。
本能的に子供が好きそうなアレにとまっちゃうんだろうな。
それに殺虫剤で苦しんでもアンデットは死なないとくる。
蝿タタキで潰されても平面になって生き続ける。
考えただけでもこの世の地獄である。
「それで、主人からどんな愛を受け取るって訳?」
分からないふりをして一応聞いてみる。
こんな子供に、あんなことやこんなことをしていたのなら、
なんとかしてアイツを復活させて、
この世の地獄を堪能させたあと、、
もう一度盛大に吹っ飛ばしてやる。
「・・・ご飯です」
「ご飯?まさか血を吸いたいなんてことなのか」
「いえ、血ではありません」
なんだ。
食うための保証をしろという事か。
年をとっても頭の思考は小学生と言ったところなのだろうな。
みたところ吸血姫たちと違って、
禍々しい魔素は一切持ちあわせてはいない。
街中ですれ違っても、
この子が吸血鬼だという事に気がつく人はいないだろう。
日傘を持っているところから察するに、
太陽光の下で出歩く能力はもっているものの、
その能力をフルに発揮することは出来ないのだろう。
まぁ、見た目も中身もまだお子様って事なのだろうな。
「よし、キミのご飯は当面の間世話してやる」
「本当に!?」
「ただし色々条件があるが守ることは出来るか」
「出来る事は絶対に守ります」
「まず、他人を傷つけない事。これは絶対だ。破ったら問答無用で消し去るからな」
「はい、絶対に人を傷つけません!」
右手を胸の前にあげ宣誓のポーズをとる。
なかなか素直でいい子じゃないか。
魔素の流れからして嘘をついてはいないようだ。
「それと、僕には仲間がいる。仲間を大切にすること」
「はい、仲間を大切にします・・・が、大切にするってどういう事でしょうか?」
「そうきたか。そうだな、相手を思いやる気持ちが大切かな。それと裏切らない事。たとえば辛いことがあったらそれを仲間の数で分け合えばいい。嬉しいことがあれば仲間の数だけ喜べばいい。信頼できる仲間がいるから人は成長できるって、これは兄さんからの受売りだ」
「わかりました。仲間を大切にします。絶対に裏切りません」
「最後にもうひとつ。僕の命令は絶対だ」
「はい、どのような呪いも受け入れます」
そう言うと思った。
彼女の実年齢からすれば、
80年近くあの吸血鬼の呪いととも過ごしてきたのだ。
鎖が解き放たれてもその恐怖はなかなか癒えないだろう。
そんなつもりで僕は命じたわけではない。
「呪いはかけないよ。とはいっても隷属契約を結べば、主人への反逆行為は出来ないけどね。命令は絶対というのは、例えば僕たちの目の前に強大な敵が現れた時、僕が「逃げろ」と命じた時、躊躇なく逃げる事を実行してほしいという意味だ」
「・・・ご主人様をおいてそのようなことは出来ません」
「実は、僕もある人との隷属契約を結んでいるから良くわかる。同じ立場ならそういう思いをするからね。でもそれは主人の願いなんだ。どのような状況でも主人の命令は実行してほしい。もちろんヘンな事は命令しないし、そんな事をしたら僕がアンから殺されるからね」
「・・・アン様というのは、まさか」
「僕と同じ、ある人の奴隷だ。このところちょっと焼きもちを焼く傾向にあるからキミの事をどう説明するのか頭が痛いところなんだけどさ」
「・・・奴隷ですか」
「ある人とキミは関係が無いから隷属の二重契約は求めないぞ。キミがちゃんとひとりでご飯が食べられるようになったら僕との隷属契約はいつでも無条件で解除する。この条件でどうだい?」
「はい、よろしくお願いします。ご主人様!」
本来ならば、サテラさんやアンに相談するべきなのだろう。
同行してもらったペトラや雷帝の剣の人たちも同じだ。
でも相談すれば返ってくる答えは目に見えている。
アンの時もそうだったけど、
自分の心に嘘はつきたくない。
事の顛末をどこまで説明するべきかも困りものだが、
今やるべきはこの契約であることだけは理解することが出来た。
「隷属契約」
以前僕にサテラさんが使った魔法だ。
アンデットにも効果があるのか分からなかったが、
契約が成立した瞬間、なにかが繋がった感覚が生まれた。
契約上は第一号の奴隷であるが、
僕にとってはアンにつづいての奴隷である。
でも仲間となったからには、
そんな関係なんてどうでもいい話なのだ。
例えソフィアが吸血鬼であったとしても。
・・・とりあえずステータスは少しいじっておこうかな。
こうして僕の初めての奴隷、
吸血鬼のソフィアが仲間となった。




