調査報告書② 行方不明者を探しましょう
得体の知れない吸血鬼の真祖。
半分以上観光気分でやってきた僕にとって、
その出会いというのはとてつもない衝撃だった。
灰さえ残らないベルクソンの最後ってのは、
なんだかとても哀れに思えた。
彼も兄さんの犠牲者の一人だったのだろうか。
小さくなっていく光の中から、
真っ赤に輝く魔石が零れ落ちた。
この大きさは魔石というより魔核だろうか。
そういえば、マーサさんの村を襲った魔族の時も、
この魔核は対消滅でも消えなかった。
吸血鬼の魔核だけに、血を思わせる深紅の石だ。
少し背筋が寒くなる。
【聖鑑定】
氏名:ゴットフリート・ベルクソン
レベル:73
性別:男性
年齢:499才
種族:吸血鬼・真祖
属性:火☆水☆風★土★聖☆闇★
魔法:短文詠唱 非表示 即死魔法
:長文魔法 非表示 精神支配
:長文魔法 非表示 眷属創造
ギフト:探査妨害
:肉体再生
:存在隠蔽
:太陽光耐性
称号:吸血鬼王
:魔人
対消滅の反応が最大化して、
吸血鬼の存在が消え去る瞬間。
ようやく鑑定した情報が入ってきた。
レベル73っていままで出会った人の中では最強だったな。
・・・人じゃなかったけど。
おそらくクリシュナイ伯やエリザベスさんよりレベルは高そうだ。
けれど、この吸血鬼より高いレベルの僕が苦戦する相手なのだ。
戦闘において、レベル差というのは、
強さや勝率とイコールではないのかもしれない。
今の僕がクリシュナイ伯と勝負しても、
勝てる気はまったくしないのだから。
油断は大敵だという事を肝に銘じておくことにしよう。
トリスカイさんとセダさんを探す為、
索敵範囲を広げようとしたその時、
微弱な反応があることに気がついた。
残念ながら探していた二人ではないようだが、
そいつは近くの岩場に隠れている。
「・・・なにしてるんだい?」
岩場の影に素早く移動すると、
そこにはうずくまっている女の子がいた。
傍らになぜか黑いレースの日傘が落ちている。
「ひっ、殺さないで!」
見た目は小学校の高学年くらいの女の子だが、
なんでこんな危険な場所にいるのだろう。
しかも「殺さないで」っていうのはペトラに続いてなのだが、
僕のどこが怖そうに見えるのだろう。
それに戦闘中も魔素探知を発動していたのだから、
この岩場の陰に隠れていたって見過ごすわけはない。
今しがたこの草むらに現われた。
そんな感じの反応だった。
すっかりおびえている様子の女の子に、
何を話しかけても「助けて」とか、
「ひぃぃぃぃ」などの悲鳴に近い答えしか返らない。
【聖鑑定】
氏名:ソフィア・アンドルリーク
レベル:21
性別:女性
年齢:88才
種族:吸血鬼(見習い)
属性:火☆水☆風★土★聖☆闇★
魔法:短文詠唱 非表示 大地葬送
短文詠唱 非表示 精神麻痺
長文詠唱 非表示 天地振動
ギフト:肉体再生
:非表示
称号:吸血鬼(見習い)
・・・なるほど。
アイツの仲間だったのか。
でも真祖ではないのだから、
この娘も吸血鬼の真祖の被害者って事だよな。
88才って、田舎のばあちゃんと同じ年だけど、
見た目は完ぺきな小学生である。
まぁ、女性に年齢の事をとやかく言うのは失礼にあたるし、
ここは見た目通りの対応でいいだろう。
「それでソフィア。殺さないし危害も加えないから落ち着いてくれないかな」
「なんで私の名前を・・・」
「僕の名前はボーズだ」
「・・・ダイドージだと」
聞いてたのか。
それが怖がってた理由のひとつなのだろうな。
「あれはウソ。あいつを驚かせようとしただけさ」
「・・・本当ですか?」
「ああ、本当だ。女神クリージュカルニスに誓って」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
しまった。
彼女はアンデットだったな。
迂闊に神様の名前を口にしてしまった。
この子なら十字架やニンニクなんかも効果ありそうだな。
「ごめんごめん、驚かすつもりはなかったんだけどつい・・・」
「・・・いえ、信仰心は理解できます。私もかつては人間でしたから」
起き上がれるようにそっと彼女に手を差しのべる。
その手を取って立ち上がるソフィア。
握られた手には、彼女の重さをまったく感じられれない。
ただ軽いというより、存在を感じないといった表現の方がそれに近いだろう。
ゴスロリ系の黒い衣装に黒いレースの日傘。
立ちあがっても身長はアンより頭ひとつ小さい気がする。
プラチナブロンドの巻き髪のショートボブ。
顔立ちは北欧系で10年後が楽しみなほどの美少女である。
それでいて戦闘力はというと、
アンやペトラより成長しているような・・・
いや、見かけは小学生だが、
実年齢は、田舎のばあちゃんと一緒である。
10年後なんて98才だ。
冷静になれ、冷静に。
「僕はトリスカイさんとセダさんっていう男性2人を探しているんだけど心当たりないかな」
「・・・おそらくその男性と思われる方をお預かりしてます」
手を地面に差し出すと、
黒い棺のようなものが2つ下から浮かび上がってきた。
ゆっくりと開いていく棺の中には、
トルスカイさんとセダさんが眠っていた。
「まさか死んでるのか?」
魔素探知でカラダは確認できたが、
生きている波動は感知していない。
「いえ、魔法による麻痺状態です。肉体の劣化を防ぐために時間経過が遅延する魔法もかけてありますから探知系魔法では死んでいるように見えるはずです」
魔法を解除すると、
2人のカラダは草むらに放り出される。
どうやらソフィアも僕と戦う事を考えてはいないようだった。
僕も相当魔素を消費しているのだから、
もう一戦となるとうんざりだった訳で。
とにかく二人をビリアンティさんがいる宿まで運ばなければならない。
空間移転1回分くらいはなんとかなるだろう。
「それじゃ僕は帰るね。キミも気を付けて帰るんだよ」
「待ってください、私どこに帰ればいいんですか?」
「だってキミはどこに住んでたのさ」
「・・・わかりません。訳が分からずご主人様に連れてこられたので。深い森の中にある屋敷でしたが」
僕がこまった顔をすると、
畳みかけるようにソフィアが訴える。
「それにご主人様がいなくなると私、死んじゃうんです・・・」
アンデットでも死ぬことがあるのかと聞きたくなったが、
実際、彼女の主人は塵ひとつなく消滅している。
本当の意味での死を迎えているのだった。
主人である吸血鬼の真祖とつながりが無ければ死ぬというのも、
なんだかとても可哀そうになるし、
つい責任を感じてしまう。
「でもキミを助ける方法は分からないぞ」
「隷属の契約をしてくれればいいんです。真祖でない吸血鬼は主人から愛を与えられないと生きていけませんから」
・・・つまり愛人契約を結べという事なのか。
吸血鬼の真祖と戦うより真剣な申し出を受ける。




