調査報告書② 仲間を呼ぶのは反則です
こんな眩しいくらいの朝日を浴びても、
平気な顔をしている吸血鬼である。
僕が知っている吸血鬼の弱点はまったく的外れなのかもしれない。
エミリーの自動操縦で、
なんとかスピードだけは互角に対応できるけど、
技やフェイントなどの駆け引きを織り交ぜられると、
剣の勝負では、こちらが相当分が悪い。
それならば魔法なのだが、
アンデットに有効だと聞いた、
火属性の火球や火弾を試しているが、
まったく発動する気配がない。
他の属性魔法も同じなのだ。
「おや、気がつかれましたか。私には魔法攻撃しか有効ではありませんが、みすみすそれを許してはいないことを」
「魔法を使用不可にする魔法かギフトかな」
「ご明察どおりです。現在、中位魔法以下は発動できませんよ」
しまった。
回復魔法をコピーしたから自己回復できると思ってたけど、
アンの回復魔法も、ビリアンティさんの回復魔法も中位魔法以下だ。
エリザベスさんの使った回復魔法は・・・
中位の中では最上位だがこれも今は使えない。
物理攻撃防御の能力はあっても、
ダメージがゼロではない訳で、
このままでは僕が勝てる見込みは全くない。
「とは言っても貴方は中々頑丈のようだ。このまま戦っては少々厄介なことになりそうです。生け捕りたいと思っていましたが考えを改めます」
吸血鬼が指を鳴らすと5体の新手が出現した。
ずっと魔素探知を発動していたからわかる。
こいつらが突然現れたのではなく。
ずっとこの場にいたのだという事が。
気配を消していたというより、最初からそこにいなかったような遮蔽能力。
僕の空間移転とは全く違う未知の能力だ。
そしてさらに驚いた。
その5体の新手全てが女性であり、
ものすごいボンキュボンな体つきをしている。
年頃は20代半ばと言ったところか。
その上、とても昼間から出歩くような恰好をしていない。
そこまで露出していいんですかと質問しては拙かろうか。
とにかく、こんな格好をしているお姉さん達は、
歌舞伎町でお金を支払って受けたサービス以来の遭遇だった。
「・・・まさかこの女性たちって吸血鬼なのか」
「気に入ってもらえましたか。いずれも真祖である私の妃たちですよ。それと吸血鬼ではなく吸血姫とお呼びください」
「という事は、あんたに血を吸われて吸血姫になったという事か」
「はい、それが我々吸血鬼の存在意義ですから」
・・・あんなボンキュボンな素人姉さん達の血を吸っただと。
・・・あんな巨大な戦闘力の双丘を吸っただと。
【マスター、そこは吸ったと言ってませんが】
【うるさい。ちょっと黙っててくれ】
妃という事は、そーゆー事に決まっている!
あんなことやこんなことを吸血鬼風情が、
まったくもってけしからん。
羨ましすぎるぞまったく。
「さあ、お前たち。そいつの息の根を止めて、【至高の神】の贄と致しましょう」
5体の戦闘力がけしからんお姉さんたちが飛び掛かってくる。
これが元の世界であれば、諸手を挙げて迎え入れるのだが、
相手は5体の吸血姫である。
真祖でなければ助けることは出来ないのか・・・
「この期に及んでまでそのような世迷言を。残念ですが、吸血姫となったものは人間には戻れませんよ。魂の全てがアンデットとなっているのですから。例え殺せたとしても灰の中から復活しますからね」
「・・・それは残念だ」
「ご納得いただけたらそろそろ諦めてください。【至高の神】はお待ちかねです」
このおっぱい・・・もとい、吸血姫たちも、
真祖ほどではないが剣技の腕はハイレベルだ。
敵の数が増えた分だけ、手数が5倍に増えた訳で・・・
少しの油断もままならない。
「ああ、まもなくです。あの苦悶に満ちた表情をご覧ください。絶望が貴方様の慈愛となりますよう。【至高の魔神ダイドージ】様ぁ」
――———魔神ダイドージ?
魔神ってなんだ。
兄さんが僕がここに来るという事をコイツに教えたのか。
確かにこの場所へは兄さんに行けと言われたから来たのだけれど、
まさか僕を殺すために誘き出したのか・・・
いや、そうだとすけば、
僕やエミリーの事を強化することは無いだろう。
そしてアンの眼の事だって。
もし仮に兄さんがコイツに情報をリークしたとなれば、
なにか意図しての事なのだろう。
少なくとも勝てない相手をぶつけてくるような事はしない。
僕が使える魔法は全て試しているけど、発動する気配がない。
魔法が発動するときに感じる魔素の高まりが感じられないのだ。
でも、最初からもってたあの「指からパーン(仮称)」ってのは、
どのレベルの魔法だっただろうな。
ペトラから、魔法は大きく3つに分かれていると聞いた。
上位魔法は上の階層から熾天使・智天使・座天使。
中位魔法は、主天使、力天使、能天使。
下位魔法は、権天使、大天使、天使と魔法学院はこの階位の魔法を勉強するらしい。
9層からなる女神クリージュカルニスに使える天使の御業により発動する。
吸血鬼は何らかの方法で、この天使たちとのつながりを遮断しているのだろう。
あの魔法は、全属性適合者が使える【対消滅】というものだと兄さんが教えてくれた。
エミリーのデータベースにもあった情報だ。
その言葉に聞き覚えがある。
まだ僕が小学生の時、夏休みの宿題を手伝ってもらった時の事だ。
自由研究で星座の観察をしていると、
兄さんが宇宙の不思議を教えてくれた。
この宇宙にはビックバンから始まったと。
物質と反物質が10000個誕生し、
お互いがぶつかった結果10000が消えた。
物質と反物質は全く正反対のエネルギーのだから、
とてつもないエネルギーが生まれたのだとか。
でも、物質が10000個に1個だけ反物質より多くの素粒子を作り出したから、
この世の中は物質でできた世界が出来たのだと。
小さかった僕はそのことをよく理解できなかったけど、
物質と反物質がぶつかるのはとんでもないエネルギーが生まれるんだと、
心に強く刻み込まれたんだ。
その現象こそ【対消滅】
とてつもなく強力な魔法と思い込み、
魔素をコントロールしようとばかり考えていたけど、
あの魔法はそうじゃなかった。
根本的に理屈が違っていた。
「・・・最後に聞きたいことがある。話し合いの余地はないって事だね」
「まだお判りいただけておりませんでしたか」
「残念だ」
魔法を発動するイメージは必要はなかった。
何故ならそれは魔法ではない。
ただ僕のカラダに存在している魔素を放出する。
全属性適合者がありえないというのは、
物質と反物質が同居しているようなものなのだから。
魔素というのは、その仕組みに近い存在なのかもしれない。
よし、魔法を使うのではなく、
魔素を吹き飛ばすイメージだけでやってみるか。
ちょっとしたアレンジは加えるけどね。
左手は5本指。
右手は掌で。
「ゲートオープン。いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
指先と掌から放たれる白く光る咆哮。
ちょっとスビートは遅くなったが、
自動追尾の機能を付与した。
いくら素早い吸血鬼達でもこの咆哮から逃げることは出来ないだろう。
光の帯が吸血鬼たちのカラダを貫く瞬間、
光の帯は球体状に膨れ上がる。
「ぎやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
アンデットの吸血鬼。
例え倒しても灰から復活を遂げると言われけているが、
この対消滅のエネルギーは素粒子さえも分解する。
つまり、なにも残らない。
無に還るのみ。
自動追尾をかろうじて避けた真祖の方も、
このスピードで追尾されては逃げおうせる訳もない。
吸血姫たちが全員白い咆哮に捉えられ消滅を果たす頃、
彼も白の咆哮の餌食となる。
「そんな、ありえない。あなたはいったい何者なのです!」
光の中に消え入る真祖を見つめながら、
最後の質問に答えることにした。
「僕の家名を聞きたがってたな。僕の家名はダイドージだ」
その答えが消えゆくベルクソンに届いたのか。
それは僕にもわからない。




