調査報告書② 真っ向勝負は止めましょう
背筋が凍り付いた。
こいつは嘘を言ってない。
得体の知れぬ相手への全力の警戒から、
トリスカイさん達の所在を上手く探すことが出来ない。
例え死んでいるとしても、
カラダがあれば上位魔法を使える人に、
蘇生を願えるかもしれない。
そんな魔法があるか否かは知らないのだが・・・
魔法がこり世界に存在している時点で、
僕の常識はこの世界の非常識であり、
非常識な事がこの世界では常識だったりする。
ここはその方程式に当てはまっている事を、
大いに期待したいところだ。
「随分余裕ですね。私への警戒だけではなく、周りへの警戒も怠らないとは」
「・・・僕は慎重派なんだよ」
「左様でしたか、それでは先にご挨拶申し上げると致しましょうか。私の名はゴットフリート・ベルクソンと申します」
「・・・ボーズだ」
「家名を伺ってもよろしいでしょうか」
「家名なんてない。ただのボーズだ」
「本当ですかねぇ。あなたからは家名持ちではない人間どもとは違った匂いがするのですが」
そりゃ人間じゃないからな。
おっと、余計な事を考えると、
コイツに思考を読まれるかもしれない。
【エミリー、日本語だけで話そう。僕との会話は自動翻訳なしだ】
【マスター、了解しました】
【とこでコイツとんとでもないバケモノみたいだけどどう思う】
【相手の能力や素性がわからない以上、戦闘に至ることは避けるべきです】
【でも、トリスカイさんとセダさんはこいつに殺された可能性がある】
【マスター冷静にねがいます。このところ墓所での行方不明者が急増した事と何か関連性が高いと思料いたしますが、できるだけ情報は聞き出すべきかと存じます】
なるほど、全部つながっているいう事か。
ここで全ての魔素を開放して相手にぶち込めば、
負ける気はしないのだけど、味方がいないこの状況では、
気を失った後、スケルトンにボコボコにされるのが目に見えている。
僕か新しいスケルトンになってどうする。
・・・あれ?
僕に骨ってあるのかな。
「僕は調査員だ。聖者の墓所を調べに来た。といっても今回が初めての実地調査だから半分は観光目的なんだけどね」
「調査隊とはまた滑稽な・・・」
「いや、本当だって。えーと、ベルクソンさん・・・でよろしかったですか?僕が嘘をついていないってわかってますよね」
「ええ、真実を言葉にしていますが、なにかを隠してもいらっしゃいます。私としてはそちらがとても興味深いのですがね」
すぐに攻撃を仕掛けてこないところを見ると、
交渉の余地はあるのかもしれない。
「・・・そんな希望は持たれない方がよろしいかと」
「いちいち覗かないでくださいって。ぼくがあんなことやこんな事を考えているってバレちゃうでしょ!」
「あなたも相当お好きですねぇ・・・」
しまった。
僕の性的趣向が筒抜けになっている。
【まったくもってその通りです】
味方であるエミリーからも背後から狙撃される。
「もうそろそろよろしいですかね。私もお暇しなければいけない時間となりましたので」
「その前にひとつだけ。あなたがアンデットが昼間から出てくる状況の元凶ってことでいいのかな」
「はい、その通りです。最後に餞として貴方が疑問に思ってらっしゃる「私について」お教えいたします」
ごくりとつばを飲み込んだ。
コイツとんでもない魔素を練りこんでいやがる。
いままで出会った魔獣や魔族とも別次元のレベルだ。
さきほどから聖鑑定をなんども試みているのだが、
名前の情報以外すべてが非表示となっている。
「吸血鬼はご存知ですか。私はその真祖であります」
吸血鬼と言えば、僕だって知っている、
アンデットの中でも最上位にいる化け物だ。
しかも真祖って吸血されてパンパイアになったのではなく、
生まれながらにしてバンバイアってヤツの事だろう。
なんでそんなのがこの聖者の墓所にいるんだ。
「それではサヨウナラ予言の雛よ。あなたの血肉はすべて我が同胞の糧となります」
視界から消えるのと同時に僕の剣が反応する。
ステッキから現れたしなやか刃。
仕込み杖か。
レイピアを思わせる刺殺用の武器なのだう。
これにはすごく驚いた。
驚いたのはその武器の事ではない。
なぜ僕が反応できているのかという事だ。
サルドウスさんの動きより早かった僕が、
まったくその動きを目で追えなかったのに、
勝手に剣が仕込み杖の一撃を打ち払っている。
何が起こったというのだろう。
【マスター、緊急事態につき自動運転モードに移行します】
その正体はエミリーだった。
兄さんからバージョンアップされて、
毒舌が少し和らいだかに思われたけど、
こんな能力も授けてくれたって訳か。
魔素の力だけのレベル216であるから、
剣の腕はからっきしだ。
ようやく師匠が稽古をつけてくれると思えば、
基礎的なスピードだけで切り倒してしまったのだから、
技とか駆け引きなどの経験が決定的に不足している訳で・・・
それに魔法が通用するかどうかわからない相手に、
余計な魔素は使いたくない。
「・・・ほう、これを防ぎますか。すこしあなたの事を見縊りましたかね」
次は背後からの攻撃だ。
正確にはだった。
僕の意思とは無関係に体が勝手に動いてくれる。
相手の攻撃をかわすだけではなく、
隙をついて反撃も試みていた。
相手の剣はこちらに届かないが、
エミリーのショートソードによる攻撃は、
確実に相手を削り取っていく。
いける。
これなら勝てるかもしれない。
「・・・正式に謝罪いたしましょう。申し訳ない、あなたを過少評価しておりました」
「謝罪する態度じゃないと思うけど」
「そうですねぇ。でもその程度で勝てるとお思いならばそれは間違いだと伝えておきましょう」
「随分ダメージを負っているように見えるぞ」
「おや、そう見えますか。最初に申し上げたつもりでしたか・・・」
ザクっ。
鈍い音とともに、僕の背中が切り裂かれた。
マントと服が大きく裂け、
カラダにも大きな傷が出来たようだが、
物理攻撃防御の能力によって、
見かけほどのダメージは負ってはいない。
僕の黄色い蛍光色の体液もバレてはいないようだ。
吸血鬼が赤い血を持ち合わせてはいないと知ると、
どんだけブチ切れるか想像したくはない。
「思ったより傷が浅かったようですね。でも私をご覧ください」
エミリーが刻んだ相手への攻撃箇所。
着ている服こそ破れているが、
その下にはあるはずの傷がまったくなかった。
「私、アンデットなんですよ。通常の武器では倒せませんよ。ご存じてはありませんでしたか?」
【マスター、十字架とニンニク等お持ちではないでしょうか】
「奇遇だな。僕も今そう思ったところだった」
あとは何だっけ。
銀の銃弾だったかな・・・
もちろんそんなものは準備などしていないのだ。




