調査報告書② 魔法は正しく使いましょう
動かぬ遺骸を火葬するのに、
僕たちがいた100m程の草原を、
クレーターが出来るまで焼き尽くしてしまった。
当然僕たちも無事ですむはずがない・・・のだが、
気がつけば緑色の魔法陣が浮かぶ魔法障壁に守られていた。
アンもペトラもこの魔法障壁に包まれていたし、
雷帝の剣の4人にも同じことが起きている。
「貴様は馬鹿か!」
炎と魔法障壁が消え、
一瞬の静寂が訪れたのち、
僕の頭にサルドウスさんの拳骨がさく裂した。
またも物理攻撃防御の効果もなく、
サルドウスさんの拳が脳天にめり込んだ。
さすがレベル39は伊達じゃない。
まぁ、遺骸を火葬するのに、
送り人ごと燃やし尽くそうとした訳だ。
怒られても反論の余地は無い。
「だから初めてだから上手くいくか分からないって言ったじゃないですか・・・」
「うるさい。初めてのヤツがあんな火力の魔法なんて使える訳なかろうが!」
彼の怒りはいちいちごもっともだ。
「ふふっ」
その様子を見ていたビリアンティさんが、
トリスカイさん、セダさんと顔を見合わせ、
思わず吹き出している。
「ホントすごい魔法だったわ。しかも防御魔法を私たち全員にって。あれが無ければ私たちもあの遺体と一緒に消炭になってたところね」
「・・・すみません。何をやらかしたのか実のところよくわからないんです」
「だから可笑しいのよ。でもクリシュナイ様が貴方たちを直属で召し抱えたくなる気持ちもよくわかったわ。キミにはすごい才能があるけど、まだ魔法を実践で使っちゃいけないようね。魔法は女の子に任せて、いまのところは剣で女の子たちを守りなさいな」
「・・・そうします」
アンとペトラも自分の事のように恐縮している。
とてつもなく情けなくなる。
良かれと思って試してみたが、
とんでもない失敗をやらかしてしまったものだ。
クリシュナイ伯の顔に泥を塗る訳にもいかず、
簡単にではあるが、これまでの経緯を説明する事になった。
僕とアンは運よくクリシュナイ伯の目に留まることが出来きたが、
すでに15才に達しており、
魔法学院に通うには遅すぎた事。
魔法や剣技は自己流であり、
ちゃんとした指導者について学んだ経験が無い事。
ここにきたのも、この国の歴史を学ぶ事と、武者修行である事。
ペトラは魔法学院の学生であり、
ここまでの道案内と論文を書くための実地訓練に来ている事などだ。
もちろん兄さんの足跡をたどっているというのは話せる内容じゃない。
「なるほどねぇ。それほどの天賦の才がありながら世間の目に触れなかったというのは悲劇だな」
「皆さんはどうやって剣や魔法を学ばれたんですか?」
「俺達も自慢できるような良家の生まれじゃない。だから冒険者やってる訳だ。いつか英雄と呼ばれるような男になりたいってさ。つまり成り上りたいわけよ」
愛嬌のある顔をゆらしながら、
セダさんが真面目な口調で教えてくれた。
「チャンスを掴むには学びの場が必要であります。王侯貴族のような血筋や人脈がないものは、死に物狂いでそれを手に入れなくてはいけません。我々4人は聖都ギルドの養成学校で学びました」
「すごい、養成学校は特別な才能を認められた人しか合格できないんですよね」
ペトラが羨望のまなざしで雷帝の剣の面々を見つめる。
魔法学院も狭き門だと聞いているが、養成学校というのは、
それ以上に学べるチャンスが誰にでも与えられる場所ではないのだろうな。
「ところで、今は誰の下で指導を受けてるんだ?」
「誰かに指導を受けてはいないんです。まったくの我流で」
「はぁ?クリシュナイ伯の直属だろう。学校に行ってなくても剣技や魔法は誰かに指導受けているだろう。上司は誰なんだよ」
「上司というか、サテラ・ベンツピルス様の配下です」
「ベンツピルス?氷刃剣のベンツピルス家か!?」
「サテラさんをご存じなんですか」
「いや、ベンツピルスという家名を知っいるだけだ。聖都に暮らすものとしては、その家名を知らないなんてヤツはいねぇ。かつての勇者に仕えた五大従者のひとりの系譜であり、司教枢機卿の家柄だからな」
「わっ、わたし授業で習ったことあります」
ペトラが興奮気味にベンツピルス家からどれだけの英雄が生まれたのか、
そしてベンツピルス家のエルフの血脈について説明してくれた。
初代のベンツピルス氏は、エルフの魔剣士だったらしい。
この1000年の間にも、
100年間隔で訪れる厄災と呼ばれる魔王軍に、
勇敢に立ち向かう英雄を幾人も輩出している名家なのだとか。
サテラさんがベンツピルス家の現当主なのか否かまでは分からなかったが、
従者である僕が知らない事の方が不自然である為、
そこのところは詳しく聞き出すことが出来なかった。
「それでお前とそのお嬢ちゃんは、ベンツピルス家からの指導も受けず、この聖者の墓所にやってきたという事か?」
「そっ、そういう事になります」
雷帝の剣の四人は、
時を同じくして大きなため息をつくのであった。
言葉にしても目が語るその想う事は、
自殺行為も甚だしいっていう呆れたものなのだろう。
「トリスカイ、悪いが俺の分の索敵も頼む。おいボーズ、お前その剣を抜いてみろ」
僕が背負っているのは片手剣のショートソード。
ショートと言ってもロングソードほど長くは無い剣というだけで、
ナイフのように短くは無い。
刃渡りは50センチ以上あるし、
柄の部分を含めると80センチ近くにはなる。
剣を使った実践なんてほとんどない。
マーサさんの開拓村でひたすら猫狩りをしていた時も、
武器を使って狩りをするというより、
僕自身を餌とした素手で捕まえていたのだ。
腕にはまったく覚えがない。
「構えてみろ。そして俺を殺すつもりでかかってこい」
みかねたサルドウスさんが、
ここで稽古をつけてくれるらしい。
明るいうちからアンデットが出現するこの場所は、
決して安全ではないという事は理解できた。
彼らの目的は僕たちとは関係ないところにあり、
本来僕たちを構っている暇など微塵もないのだろう。
それを稽古をつけてくれるというりは、
まだ門からさほど遠くないこの場所で、
僕たちが帰りたくなるように誘導する為の親心なのだろう。
いざとなれば空間転移や、
攻撃系の魔法を使用する事は可能なのだが、
彼らのそんな優しさが胸にぎゅっと込み上げてくる。
ここは指導をうけるべきなのだろうな。
「それじゃお言葉に甘えます」
「・・・いつでもいいぜ僕ちゃん」
剣を抜いたサルドウスさんから、
尋常じゃない殺気とともに魔素の高まりを感じだ。
そのすごさにアンもペトラも口を手で覆っている。
油断すると腹の奥からなにかが噴き出てしまいそうになる。
この人は強い。
本物だ。
剣の腕の実力差は相当あるのだろう。
舐めてかかれば殺される。
「それっ!」
乾坤一擲。
そのプレッシャーに耐えられなくなった僕が、
掛け声とともに剣を抜きはらった。
噴き出す生暖かい液体。
これは僕の血液・・・というか体液か。
まずい僕のカラダは、
赤い血潮ではなく黄色の蛍光色の潤滑液が流れているんだ。
これを見たら違った意味で大騒ぎされてしまう。
僕がアバターだという事もバレてしまう。
迂闊に稽古なんてうけた事は早計だった訳で・・・
腹を手で押さえ・・・あれ。切られてない。
腕を手で押さえ・・・あれ。切られてない。
頭を手で押さえ・・・あれ。切られていない。
どこを切られたのかと不思議に後ろを振り向くと、
水芸のように血潮を噴き出しているサルドウスさんがそこにいるのであった。




