調査報告書② 旅は道連れと行きましょう
門を潜ると、カルスト台地のような、
ところどころ岩が露出している背の低い草原が続いている。
聖堂までは5キロほどの道のりらしが、
途中の丘が邪魔となって聖堂の姿を見ることが出来ない。
同行することになったのは、
ギルドのミスリル冒険者「雷帝の剣」の面々だった。
9つある冒険者ランクの上から3番目。
かなり腕の立つ上級冒険者たちのパーティーだ。
リーダーはイケメンこと剣士のサルドウスさん。
サブリーダーはけしからん戦闘力の魔導士ビリアンティさんだ。
それに無口な長身エルフの弓使いのトリスカイさん。
サテラさんと同じエルフなのだが、
この人はあからさまに耳が尖っている。
僕が思い描くほどには長くはないが、
いかにもエルフという様な雰囲気である。
それにこちらも相当なイケメンであるのが少しムカつく。
そして背が低くて愛嬌のある槍遣いのセダさん。
僕はこの人に親近感を感じてしまうのはなぜだろうか。
待合所では僕たちを見下すような対応だったけど、
経験不足の素人がうかつに近寄らせないための配慮だったという事を、
歩き始めてすぐに理解することが出来た。
この人たちは相当に強い。
そして優しい。
歩きながらも索敵の警戒は怠らない。
僕たちを取り囲むように歩いてくれているが、
それぞれ索敵の能力を有しているらしく、
半径200メートルほどを、
僕の魔素感知のような能力で警戒してくれている。
いつも複数のギフトを使い続けていたからなのか、
今では自然に真実の偽物と魔素探知を、
常時発動できるようになっている。
これならあと1つか2つ、
能力の複合発動が可能なのかもしれない。
でも、調子に乗って失敗するのは僕のお約束のパターンである。
このギフトが、呼吸をするのが当たり前のような感覚になったら、
幅を広げてみようかと思う。
【聖鑑定】
氏名:ユリウス・サルドウス
レベル:39
性別:男性
年齢:22才
種族:ヒューマン
属性:火☆水★風★土★聖☆闇☆
魔法:長文詠唱 大いなる天と地と風の精霊に願う。我が剣に纏いし雷雲の力を解き放たんと。
古の契約に基づき我が刃となれ。我が名はサルドウス。
ギフト:体力強化 身体能力向上
:疾風の如く 処理能力向上
所属:聖都ギルト【ミスリルメダル】
称号:雷帝の弟子
うーん。
やっぱりこの人は強いんだ。
サテラさんよりもずっと高レベルだ。
マーサさんほどじゃないけど、
あの人は化け物だから比較にならないか。
「・・・出たか」
慌てる様子もなくサルドウスさんが呟いた。
草原の岩陰からうごめく人影が現れる。
人影ではあるが人ではない。
僕の魔素探知もそれが人ならざるものである事を認識していた。
「スケルトンだ。この程度ならお嬢ちゃんたちでも倒せるレベルだ。どうだ、初の実戦ってのは?」
ペトラとアンが事前に打ち合わせていた。
最初の敵はペトラが魔法で倒すって事を。
「生と死の理に従い地に帰れ、昇天魔法」
スケルトンが音を立てて崩れさる。
すかさずアンが骨を砕くために走り出す。
頭蓋骨を粉砕しない限り、
スケルトンはまた動き出すらしい。
「スケルトン弱いからいいけど、問題なのはこんな明るい朝っぱらからアンデットが出てくるって事ね」
ビリアンティさんが、
その美しい巨にゅ・・・もとい、
銀髪の髪を揺らしながら、
動かなくなったスケルトンの残骸を見つめる。
なにやら骨を調べているようだったが、
元々の身元が分かるようなものは何一つ身に着けていない。
「・・・そんなに古くない骨ね。ちゃんと索敵してるわよね」
「もちろん、ネズミ一匹もらしちゃいねーよ。今度は肉を纏っているな・・・」
新たな影が出現する。
今度は同時に二体である。
骨だけになったスケルトンとは違い、
見た目は全くの人であるが、
動きがなんだかぎこちない。
これはひょっとすると「ゾンビ」ってヤツなのだろうか。
アメリカの映画やドラマではお馴染みだが、
こんなリアルなモンスターを見ることになるとは思ってもみなかった。
「生と死の理に従い地に帰れ、昇天魔法」
「彼方彷徨う妖精の光、集え我が蒼穹の鏃、妖精の矢」
ペトラに続いてアンも初めて攻撃魔法を使用することが出来た。
実戦経験がないアンにとって、
初めて敵と対峙したのだが、
驚くほど冷静であり、
魔素のコントロールも上手だった。
同世代のペトラの存在と、
経験豊富な同行者の存在ってのが、
プラスに作用したのは間違いない。
冒険者チーム「雷帝の剣」には感謝しなければならない。
「おお、嬢ちゃんたち初めての実践でそれだけ使えれば上等だぜ」
「ホント、あなたたちは才能があるわ。それに肝も据わっている」
初めての実践で怖い思いをしているのだろうけど、
ペトラとアンが恥ずかしそうに頬を染めて照れている。
僕もアンと初めて出会った時、
夢中でリザードマンを殺したけれど、
思い返したときに急に心臓を誰かに握りしめられるような苦しみを覚えた。
今に思えばそれが恐怖であり、
命あるものの死と向き合う瞬間だった。
あの時、サテラさんに助けられたのだけれども、
アンには僕とペトラがいる。
ペトラには僕とアンがいる。
これから同じように恐怖と向き合う事になった時、
助けてくれる仲間がいるという事は、
なんとも頼もしくありがたい事なのだろう。
それに経験豊富な先輩たちも同行してくれている。
「なんだぁ、女の子ばかり働かせやがって。そっちのリーダーは何もしないってのか?」
「ボーズくん、火属性の魔法持ってない?このリビングデット火葬にしないとまた動いちゃうかもしれないから」
動かなくなったゾンビの屍を調べていたビリアンティさん。
どうやらこの遺体身分が分かるような所持品を探していたらしい。
残念ながら冒険者のメダルも騎士のメダルも、
身元が分かるようなものは何も身に着けていなかったのだが、
死んでから2~3日の新しい亡骸である事は判明した。
「それじゃ、僕もこの魔法は初めてですから上手くいくか分かりませんけど」
この一か月、魔素のコントロールは練習してきた。
ひとりでギルドの依頼をこなしていた時、
僕のコピーではない唯一のオリジナル魔法、
「指からバーン(仮称)」
練り上げた魔素を指先から放出する白い光の咆哮。
僕のカラダにある魔素すべてを放出すると気絶するので、
放出する魔素量を、指の関節に例えて調整することが出来た。
例えば、一番速度の速い人差し指の第一関節分の魔素放出。
車一台分くらいは余裕で貫通されるほどの威力がある。
兄さんがアップデートしてくれた情報によると、
全属性適合者が使える魔素の対消滅という現象であり、
他の魔法とは根本的に仕組みが違うものなのだとか。
詳しいことはよくわからないが・・・
でも今回指示されたのは火属性の魔法である。
ここはマーサさん直伝。
といっても竈のタネ火として使用していた一番威力の弱いアレを、
指の第一関節分の魔素量で使用してみよう。
いや、関節1/2分にしておくか。
「それじゃいきますよ。火球!」
放たれた火の玉が屍に命中したその瞬間。
草原に直径100mの小さな恒星の如く猛煙の炎の球体が出現し、、
僕たちのパーティーがいた地面までの全てを円形に焼き尽くすのであった。




