調査報告書② 聖者の墓所に出かけましょう
やっとの思いで聖者の墓所に出発できる。
ペトラたちの件は全くの予想外ではあったけれど、
子供たちの居場所とマーサさんの村の事情が合致した事は幸いだった。
僕たちにしても、聖者の墓所までスラム街の案内人が出来たって事は、
聖都を反対周りに進むことが無くなった分ありがたかった。
ペトラにしても、子供たちに会いに行くには、
僕の魔法の力によるところが大きい訳であり、
当面の間、僕たちと行動を共にしたいのだろう。
まぁ、学生さんなのだ。
今回は論文の課題作成で同行を許すのだが、
学生は学業が優先である。
これからは村に出かける日を決めて、
どこかで待ち合わせるようにしよう。
「おはうございます、ボーズさん。アンさん!」
白いローブに身を包んだペトラが待っていたのは、
下層の食堂「山の猿」の店先である。
隣には、ここで給仕をしているペトラの親友エマが見送りに来ていた。
彼女も子供たちの門出を見送りたかったのだが、
仕事を放り出すわけにもいかず泣く泣く動向を断念していた。
彼女が休みをもらった時、
マーサさんの村まで連れて行ってやろうと思う。
エマが言葉にはしていないけど、
連れて行った女の子のうち一人が、
彼女の実の妹だったはずだ。
顔立ちもそうだが、発する魔素が同じであった。
もしかしたらその事実を知らないのかもしれないので、
エマがその事を教えてくれるまでは黙っておくつもりだった。
まぁ、そんな所まで分かるようになってきたところを見ると、
僕の魔素コントロールも順調に成長しているという事なのだろう。
エマが準備してくれたお弁当を携え、
僕たちはスラム街を時計回りに、
聖者の墓所がある場所を目指し出発した。
「ペトラは聖者の墓所に行ったことはあるのか?」
「いえ、そこまで遠くに行ったことが無いんですけど近くまではあります。聖者の墓所に行くには途中に検問所もあますから」
「城壁の中なのにさらに城壁で囲っているのか?」
「学校の授業では、昔いた大穴を塞ぐために、大きな聖堂を建てているって学びました」
聖堂か。
もしかして現在でも大穴から魔物が出現し続けていて、
その聖堂が結界の役目を果たしているのかもしれない。
でも完全に大穴から出てくる魔素を封じ込めることが出来ないので、
漏れ出した魔素がアンデットのような魔物を作り上げているのかもしれない。
「ペトラ、学校ではその穴から何が出てきたって教わるの?」
「厄災です。ありとあらゆる魔獣に魔物、そしておびただしい数の魔族。そしてその厄災を退けたのが勇者様です」
「勇者ダイドージ?」
「いえ、勇者様は複数いらっしゃいます。勇者ダイドージ様のご活躍はもう少し後の時代です」
「勇者って他にもいたんだ」
「勇者アレクセイ、勇者ヨナーシュ、勇者マチェイ、勇者ブラジェイ、勇者ルカス。5人の勇者様が大穴から出てきた厄災と戦われました。最初の戦いは10年の長きにわたり続き、最後に現れた厄災【魔王ヴィルヘルミュス】を倒すことで穴が塞がれたと伝えられています」
「それで勇者達はどうなったの」
「わかりません。ただ大穴を塞ぐ聖堂を取り囲むように、勇者様の墓標が立つと聞いています。もう1000年以上前の伝説ですから、戦いでお亡くなりになったのか、その後にお亡くなりになったのか。天に帰られてもなお勇者様たちは私たちをお守りになっていらっしゃるのです」
なるほど、
真実はどうか分からないけど、
こういった英雄譚は子供ならだれでもあこがれるのだろうな。
ちょっと遠慮がちだったペトラがこんなにも目を輝かせて力説するとは。
アンにも大いに刺激になってくれるといいのだが。
半日かけてスラム街を抜けると、
ウォールバルカを抜けた時と同じように、
広大な畑が延々と続いていた。
ここでは芋類や豆類、そして葉物野菜や果実などが栽培されていた。
下層や上層の人々の胃袋を満たす一大生産拠点といったところなのだろう。
畑の中に隠れて農家の集落も見受けられる。
これまでの開拓村の造りとは違って、
随分立派な建物や作業小屋が立ち並んでいる。
おそらく農奴とは違う専業農家がやっている農園なのだろうな。
畑へ水を運ぶ運河沿いの河川敷で、
ちょっと遅めの昼食をとることにした。
エマが作ってくれたランチは、
分厚いチーズと燻製にしたハムが挟んである、
サンドウィッチだった。
酸味のあるパンとは違ったパンの種類であり、
公衆浴場にある公設のパン屋以外の販売店があるのか、
この調査から戻ったら是非ともエマに聞いてみたい。
こちらのパンの方が僕の口にはあっている。
水筒の水はアンのポシェットに格納しているので、
重い水を運ぶ負担は全くない。
あらためて思うのだが、アンの妖精の小箱は便利な能力だ。
秘密であるが、プリンターもこの小箱に入れてある。
当然ながらポシェットの間口では入りきらないのだけれども、
色々実験していくうちに、プリンター程度の大きさまでは問題が解消するってことが判明した。
まぁ、宿に置きっぱなしだと、盗難や火災なんか心配なのだ。
材料が補充されたら、いろいろプリントしたいものがある。
ゲートが安定してきたら、
地球から大量に資材を送ってほしいものだ。
「ボーズさん、まだすっごく遠くですけど、壁が見えてきたの分かりますか?」
「ウォールタリンとウォールカルラが繋がっているみたいだ」
「聖者の墓所はその南北で縦ラインの壁が繋がっている唯一の場所なんです」
「へぇ。そうなんだ。でもあの場所までいくとなればとても今日中は無理っばいよな」
「はい、門の開閉は日没までですから、今日は手前の集落にある宿に泊まることになりますね」
こなに歩いたのは、サテラさんと聖都に向けてやってきた日以来だけど、
レベルが上がったせいか、まったく疲れる気配がない。
むしろアンやペトラが無理をしていないかどうか気になったのだが、
根本的に僕とは鍛え方が違うらしい。
本体の僕だったら、
足が痛いとか豆が出来たとか。
大騒ぎしているはずだと我ながら恥ずかしくなる。
この集落にある宿屋はたった1軒だけだった。
まぁ、歴史のある遺跡なのだろうけど、
今もってアンデットが出てるような危険地帯である。
そんなに観光客でにぎわいを見せる場所じゃないのだろうな。
宿に隣接している厩舎は、軍用馬ばかり繋がっている。
予約システムのないこちらの世界。
空いている事を願いたいが・・・
「2部屋あいてますか?」
「あいにくだけど1部屋しか空きがないんだよ。それにベットは2つの部屋だ。それでよければ1人銅貨5枚だよ。食事はここで食べてくれれば飲み物を1杯サービスするよ」
僕はこのところ毎日のようにアンと一緒に寝ていたからいいのだけれど、
年頃の女の子であるペトラは僕と一緒じゃ嫌だろう。
「それじゃ1部屋お願いします。この子たち2人で利用しますが、食事は3人食堂で頂きます」
僕は厩舎か宿の軒先で野宿する事にしよう。
「ボッ、ボーズさん。私は部屋がご一緒でも構いません。アンさんと一緒のベットで寝ますから・・・」
「いいんだよ、僕はどんかんだからいつでもどこでも寝れるって言うのが特技なんだよ」
「別に遠慮してるわけじゃありません。私もつい最近まではスラムのバラックで大人数と雑魚寝しかしたことありませんから!」
ペトラがあまりにも必死に声を出すものだから、
食堂で食事をとっている人たちも好奇の眼で僕たちを注目し始めた。
ここはひとまず了承するしかないか・・・
「ペトラさん心配はりません。ご主人様はいつも私と同じベットで寝ています。私が今夜もご主人様とベットを共にしますので、どうぞご安心してお休みください」
口数の少ないアン。
ここで突然ペトラに物申したのだが、
僕たちがすでに大人の関係である事を匂わせた。
おい、今のは絶対にペトラに誤解されたぞ。




