調査報告書② 本部へ報告をいたします
翌朝、ペトラ達と待ち合わせをしていた、
下層の食堂「踊る子豚亭」に出向く。
まだせ店の開店前なのだが、ペトラとシモン、
そして給仕の女の子、確かエマだっけか。
そして知らない女の子が3人が、
ペトラたちよりもずっと小さい。
店に繋がる路地裏で待っていた。
「おはよう。決心はついたようだね」
「はい、仕事が貰えてちゃんとご飯を食べさせていただけるなら、この子たちにとっては天国ですから」
彼女たちへの連絡は、ペトラの友人であった、
エマが使える魔法「伝言送信」によって情報のやり取りをしていた。
ペトラがやけに早くシモンと僕たちの事を見つけることが出来た謎が解けたわけだ。
携帯電話のないこの世界において、この能力というか魔法は便利の良いものである。
ただし、相互通話が出来るような機能ではない。
一方的な情報の通知であり、
電話というよりメールに近い機能である。
しかも送信できる相手が限定されていた。
オリジナルの使い手であるエマは、
魔素に触れた事のあるものへ。
コピーした僕は、着信があったものへの返信のみだ。
まぁ、これも今のうちはという事であり、
精度を高めれば自在に使えそうな気がするのだが。
いつか高レベルの魔法使いに出会ったら、
いろいろと教えを乞うことにしよう。
ただし、エリザベスさんやクリシュナイ伯に、
この魔法が使えるのがバレると、
四六時中報告を求められそうだから、
あのふたりには黙っておこう。
「それじゃいくよ、空間転移」
ペトラとシモンと手を繋ぎ、
「ゲート」のある開拓村近隣の林の中に転移する。
3人での移動は初めてだったけど、
どうやら二人とも無事らしい。
ちゃんと魔法発動中も、二人のカラダの事は、
詳細にチェックしていたので、
モルモットにしたつもりは無かったのだが、
とにかく無事で何よりだ。
そしてまた宿の部屋に移転。
慌てて踊る子豚亭の裏路地に移動。
魔法は一瞬なのだが、ここまで帰りつくまで30分くらいを要する。
やはり、出口の調整方法は勉強しなければいけない。
これを繰り返しペトラとシモン、
そして3人の女の子を村まで案内することが出来た。
エマは間もなく昼の仕込仕事が始まるらしく、
今回の子供たちとの同行は見送ることにしたようだ。
生まれてから一度も下層から出たことが無い事から、
外の世界を見てみたい欲求は強かったようだけに、
機会を見つけて連れ出してあげることにしよう。
下層から出たことが無いのは、
シモンと女の子3人も同じだった。
村を背にすれば、見渡す限り広がる草原、そして地平線。
下層の人ごみに紛れて生きてきた子供たちからすれば、
それだけで大冒険といったところなのだろう。、
自由を得たような高揚感が心の中に広がっている様だった。
マーサさんが待つ石の家に向かったのだが、なにやら外が騒がしい。
遠目にでも20人以上、石の家の前に集まっていた。
あの人数では改装中の食堂じゃ入りきらないだろうな。
まさか、また魔族が襲ってきたんじゃないだろうな。
このタイミングじゃ、子供たちの受け入れなんて出来なくなるし、
子供たちだって不安に思うはずだ。
先ほどからシモンがじっと僕の顔色を伺っている手前、
不安の色を顔に出すわけにはいかない。
「マーサさん、これはいったい・・・」
「ふん、そいつがシモンっていうガキだね」
ガキという言葉に反応するシモンのお尻を、
ペトラが思いっきりツネっている。
いい判断だ。
「あと女の子を3人連れてきたよ。左から、ハンネ、ユーリア、カティナだ」
「・・・思ったより小さいね」
「すぐ大きくなるから。たくましく生きてきたから、力仕事も頑張れるって」
「ふん、ダメだね。こんなんじゃさっぱりだ」
「そんな、昨日は了承してくれたじゃないか」
「こんな人数じゃ足りないって言ってるんだ。ここにいる皆が働いてくれる子供たちを待っていたんだよ。住み込みで食事つきの待遇が最低条件だったけど、養子に迎えてもいいってバカたちを優先的に紹介してやる。とりあえず、私はこの女の子3人を迎えよう。その兄ちゃんの方は鍛冶屋で手に職を覚えるんだね」
「・・・マーサさん」
「あんたこの子たちの保護者かい?」
「はっ、はい。ペトラと言います。魔法学院の学生です」
「ふん、あんたもこのお人好しバカの同類なんだってな。せっかく手に入れたチャンスなんだ。この子たちの為にも棒に振るようなことはするんじゃないよ」
「はい、ありがとうございます」
「聖都から遠いけど、そこのお人好しバカがとんでもない魔法を使いやがる。寂しくなったらいつでも会いに来てやんな。それとボーズ、あと何人聖都から連れてこれる?」
ペトラに視線を投げかけた。
「10~15人くらいはすぐにでも・・・」
「じゃあ気が変わらないうちによろしく頼むよ。さぁ、子供たちは私と一緒に来ておくれ。あんたたちの部屋に案内しようじゃないか」
僕とペトラとアンの元には、
男の子がいいとか、女の子が何人ほしいなどの依頼が殺到した。
若者がいなくなったこのマーサさんがいる開拓村。
聖都から1週間もかかる辺境の村なのだけれども、
聖都の隠された問題のひとつが解決とまではいかなくても、
救いの手を差し伸べる一本のクモの糸となった事は確かなようだった。
アンとペトラ、そして一部残った村人たちが、
石の家の食堂に入っていく。
僕たちが聖都からもってきたお土産、
「ちょっと酸味のあるパン」を振る舞うことになった。
ここで食べる歯が折れそうになるくらい堅い黒パンよりは、
ずっと柔らかくて美味しいはずだ。
アンのポシェットには、
持ち切れなかった予備のパンを妖精の小箱の能力で格納してあるのだが、
決して人前では出し入れするなときつく言ってあるので、
追加で出さざるを得なくなった時、アンの対応はとても不安である。
けれど、そんな様子を見守る事無く、
僕は一人でゲートの前までやってきた。
「・・・どうだいエミリー。ゲートの状態は」
「ゲートの状態は極めて不安定です。大容量のデータ通信は不可能と判断します」
「本部への報告が出来なくなって久しかったけど、近くにいても同じ事だったか」
「マスター、この状態ではこの世界から離脱することは難しいかと」
「それは今更だ。兄さんのこともあるだろう。僕はそう簡単には戻らないつもりだよ。でも本部への義務は果たす主義だ。報告は定期的に続けるよ。定期的にここに戻ってくればいいさ」
「定期的にこの開拓村まで戻るという事ですか」
「便利な魔法を覚えたからね。出口の設定が分からないけど。まぁ、習うより慣れろだよ。家電なんかもマニュアル読んだことないからな」
「技術者の敵ですね」
「おいこら、なにか言ったか。まぁ、子供たちも心配だしペトラも定期的に連れてきてやりたい。報告はそのついでだ」
「報告が主体で、その他がついでだと言ってほしかったです」
「そういうなって。とにかく短い文章でもいいから地球に向けて送信してくれ。それとゲートを安定させるための方法を検討してほしいと棚橋研究員に伝えてくれ」
「送信完了いたしました。これからいかがなさいますか」
「もちろん続けるよ。聖者の墓所に観光・・・もとい、探検だろ?そうだ。ペトラも連れて行こうか。なんかあの子とは長い付き合いになりそうだもんな」
「マスターは巨乳好きと承知しておりましたが、まさかあのような未成熟な少女がお好みだったとは、まさに外道。いや変質者の鏡ですね」
「おい、今何か言ったか?」
「いえ、マスターの意外性を称賛しておりました」
「嘘つけ!」
とにかく子供たちの受け入れ先がこんなにも早く見つかるとは。
明日また仕切り直しだな。
マーサさん達と子供たちの面接は、
いつの間にか、村あげての祝宴となっていたのだった。




