調査報告書② 詳しい理由を聞き出しましょう
「魔法学院の3回生でペトラと申します・・・」
バツが悪そうに店にやってきたのは、
さっきの猫人の女の子だ。
大き目の真っ赤なダウンハットをかぶっている為、
特徴的な栗色の髪の毛と可愛い猫耳は見えない。
アンと同じくらいの背格好であり、
まだまだ戦闘力は発展途上というところか。
彼女の魔素はずっとマークしていた。
シモンとこの店に入ったあたりから、
こちらの方向に近づいてくるのは分かっていた。
彼女に高度な感知能力があるとは思えないのだが、
店に入った瞬間、給仕の女の子と目で会話しているのを見てピント来た。
給仕の子とペトラと名乗る女の子は同じ年頃に思われる。
シモンを連れてこの店にやってきたことを、
給仕の子がなんらかの方法でペトラに伝えたとすれば合点がいく。
まぁ、飯を食わせてたあと、
シモンを連れてこちらから出向くつもりだったので、
手間が省けという事なのだが。
「追加で同じもの頼めるかな。あと飲み物もね」
「いえ、お腹は減っていませんから!」
ペトラが来てもかじりついたパンを両手に抱え離さないシモンをよそに、
慌てた様子で食事の提供を遠慮するのだが、カラダはとても正直だった。
「ぐぅ」と鳴ったお腹の虫。この店に来てにおいだけ嗅いで帰るという事は、
レベル1で魔王に戦いを挑むことより無謀な事なのかもしれない。
「姉ちゃん、大丈夫だよ。憲兵に突き出すならとっくにそうしてるはずさ。俺たちに飯を食わせるなんて変わったヤツだけど捕まえてとっちめようって事じゃないみたいだ」
シモンから褒められたのか貶されたのか、
よくわからないフォローのおかげで、
ペトラもおどおどしながらも、
僕たちのテーブルに腰を下ろす事になった。
一応ペトラにも聖鑑定をかけてみたいが、
あの光の輪っかが目立ちすぎる。
あれって本物の偽物で、
見えないようにすることは出来るだろうか。
【聖鑑定】
氏名:ペトラ
レベル:-
性別:女性
年齢:14才
種族:猫人
属性:火☆水☆風★土★聖☆闇★
魔法:-
ギフト:鑑定
:真贋鑑定
:非表示
所属:聖都魔法学院の学生
称号:-
ぶっつけ本番だったが、
光の輪を消すことは出来た。
けれど、アンの視線は、
その輪があるだろう位置を目で追っていたところをみると、
ここにいる全員にその軌跡を消し去っているという訳にはいかないようだ。
さすがにギフト能力の多重発動はまだ無理があるのかな。
鑑定を終えると、なるほどとうなずける結果が出た。
彼女の名前も魔法学院の学生だという事もすべて真実という訳か。
これならどうしてこんな事をしているのか聞き出すことが出来そうだ。
ついさっき、ペトラは僕の魔力で、
かなり怖い思いをしたはずだ。
その恐怖を超えてここにきているという事は、
シモンを助け出すって事なのだろう。
とにかく話を聞く前に、
お腹を満たしてあげることにしよう。
追加注文の品が運ばれてきた。
飲み物をペトラの前に差し出す給仕の女の子も、
なにやら挙動がおかしなことになっている。
やはりペトラとどこかで繋がっていたのだろうな。
この状況が理解できないようであり、
料理を運ぶ指先が小刻みに震えている。
その様子を見ているペトラもペトラで、
給仕の子は自分たちとは関係がないと言わんばかり、
さらに挙動がおかしなことになってきた。
これではもう見ていられない。
お腹を落ち着かせるより、
気持ちを落ち着かせる方が先だったな。
シモンよりちょっとだけ大人である分、
食べ物だけでは釣られてくれないという事か。
「あのさ、別に憲兵に突き出したり取って食おうって事はしないから、ちょっと落ち着いてくれないかな」
「・・・本当に通報はしないでいただけるんでしょうか」
「そんなつもりは最初からないよ。まぁ、黒幕が大人だったら、子供の意思を無視してこき使っていなかったかとっちめる予定だったけどさ」
パンと格闘していたシモンが短い黒髪を逆立てて声を上げた。
「やっぱり俺たちをとっちめる気だったんだな!」
立ち上がったところに、手を離したパンを、
無理やり口に押し込んで少し黙れと席に座らせる。
「だから責めるつもりはない。けれど、なんであんなことをしているのか。それだけ教えてくれないかな」
魔法学院の学生であれば、
ギフトや魔法を使っての犯罪行為が発覚すれば、
退学どころの騒ぎでは済まなくなるだろう。
それに、魔法学院は選ばれたエリートが通う学校だと、
サテラさんが言ってた気がする。
魔法剣士学科を首席で卒業したと自慢話を聞かされた時だ。
僕なんか三流大学の補欠入学だったのに。
彼女が指示役でシモンが実行犯。
シモンの周りにも取り囲むように数人の子供たちの気配がしていた事を考えれば、
見張り役や壁役など役割分担された複数名によるチームが存在しているのだろう。
でも何故その指示役が魔法学院の学生であるかが謎である。
「この子たちは孤児なんです。私もそこのエマ、給仕の子もみんな両親がいません」
「親御さんがいないって事かい?」
「私たちは職人街で働く奴隷の子なんです。両親が奴隷であれば、授かった子は生まれながらに奴隷となります。奴隷になったらそこから抜け出すのは並大抵の事じゃ出来ません・・・」
「でもペトラは奴隷じゃない」
「ええ、私は奴隷の所有者である主人が知らぬ間に捨てられた子供なんです。奴隷として生き続けるより、死ぬかもしれないけど奴隷以外で生き延びる可能性を託された捨て子です」
この話は僕にとって衝撃的だった。
孤児たちは生きるために犯罪集団の一員として生き延びるものもあれば、
同じ境遇の子供たちが、年長者を中心としたコミュニティーを形成し、
犯罪行為ギリギリ、もしくは捕まらないような犯罪行為を繰り返し、
生きていかなければならないのだという。
どこかの外国のスラムで、
下水道の空間を住まいとしていた子供たちの写真を見た事がある。
その時も大きな衝撃を受けたものだが、
リアルな話の衝撃は事実を遥かに上回る。
「私もこんな事を続けるのは嫌なんですけど、続けないとこの子たちが生きていくことが出来ません。孤児は市民権がありません。聖都の行政府も私たちを助ける事はないんです・・・」
アンもかつての自分の境遇を思い返したのか、
涙と鼻水で溺れそうになっている。
「つまり、安心して働いてご飯が食べられる環境があればいいんだな」
「簡単におっしゃいますが、そんな都合の良い場所なんてどこにもありません。私はたまたまギフトを持っていたので魔法学院の学生になることが出来ましたが、この子たちを養えるだけの収入が無いものですから、つい・・・」
「それでキミたちのコミュニティーに子供は何人いるの?」
「シモンの他に6才から10才までの子が3人です。けれど、下層にはもっと大勢の同じような境遇の子がいます」
こういった悩みの相談を受けるとは思わなかったけど、
やっぱり奴隷制度というのは、
こういった社会の闇を生み出してる。
きっと兄さんも同じ思いをしたのかもしれない。
・・・あの人に頼んでみるか。
気が乗らないが、
ちょっとあの人の顔が思い浮かぶのだった。




