調査報告書② 下層の食堂を調査しましょう
姉さんと会わせてやると言ったものの、
その確証は絶対的なものではなかった。
とりあえずこの場をとりつくろうには時間が必要だ。
大通りに面した食堂を見つけたので、
捕まえた男の子を連れて店に入ってみる。
まだ昼前であるからなのか、
客足はまばらであるが<
こちらとしては都合が良い。
大通りが見える席を確保すると、
男の子は踏ん反り返るように椅子に腰かけ、
威圧するように腕組みをする。
まぁ、交渉の時に腕組みをするのは威圧だけではなく、
平静を装ったり自分の感情を相手に悟らせないための自己防衛手段だ。
営業の先輩からは、腕組みしながら交渉するのは、
自分の腹の内を晒してしまう悪手であると教わった。
「まぁ、そんなに緊張するな。腹が減ってはなんとやら。僕も何か食べるからキミも一緒にどうだい?」
「ふん、敵に情けは受けねぇ!」
力強くそう叫んだものの、
食堂の匂いに食欲が刺激されたのか、
お腹の虫が「ぐぅ」っと鳴った。
それを指摘するほど無粋ではないので、
子供でも食べられそうなものを適当に見繕ってくれと、
給仕の女の子に頼んでみる。
どうも文字ばかりのメニューというのは、
何が出てくるのかが未だに良くわからない。
それがこの世界の楽しみでもあるんだけどね。
「おまたせしました。ブランボラークとヴェプショヴィーです。今日の一押しですよ」
すり下ろしたジャガイモの様なものと、
といた小麦粉をチーズをまぶして焼き上げたもの、
そしてカツレツの様な揚げ物が、
山盛りとなったメイン料理が運ばれてきた。
こちらの食事は基本的に大皿料理であり、
神様と人、皆がと取り分けて喜びを分かち合うという文化である。
パンは少し酸味のあるハードタイプ、
ナイフが刺さった状態でドカッとテープに置かれる。
揚げ物ならばビールが欲しいところなのだが、
まだ明るいうちから飲んじゃうと、
旅立ちの初日が台無しになる。
スリの子を食堂に連れ込んでいる時点で、
にんとなく台無し感が漂っているが、
僕が欲しい答えってヤツは、
間もなく目の前に現れるだろう。
飲み物は、葡萄ジュースを炭酸水で割ったものに氷を入れる。
この店でも氷代は別料金である。
この子に食べろと言ったところで反発されるだけだろうから、
「食べないんなら無くなっちゃうぞ」って対抗心を掻き立てる。
案の定、すごい勢いで料理を食べる。
というより飲み込んでいく。
その様子をアンが嬉しそうにしているので、
少なくともアンから軽蔑されるような行動はとっていないのだろうと、
今更ながらにほっとしてしまうのだった。
ジャガイモのお好み焼きのようなものは、
チーズの強い塩分がアクセントとなっており、
いかにも労働者が食べるランチって感じがする。
この芋がジャガイモなのかは不明であるが、
さほど癖もなく、この芋でフライドポテトを作ったら、
さぞかしうまい事だろう。
カツレツの方は、ちょっと堅めの筋張った肉なのだが、
油と旨味が噛めば噛む度溢れだしてくる為、
酸味のあるパンとの相性が抜群である。
サービスのピクルスの様な野菜の漬物も、
しつこい油を洗い流すようで、
すぐさま次のカツレツにかじりつきたくなる。
なんともワイルドな職人街のパワーグルメである。
この1ヵ月の間、僕は毎日のように、
ある訓練をしていた。
それは複数会得したギフトの能力を、
一日中発動させ続けるという事だった。
たとえば、「真実の偽物」で偽装した僕のステータス。
鑑定持ちの能力を持つ人の他に、
魔法による聖鑑定のような分析が、
いつ何時掛けられるか分からない。
24時間ずっとこの能力を持続できるのかは重要なカギとなる。
今後もクリシュナイ伯やエリザベスさん、
そしてサテラさん達と連絡を取り合うのであれば、
高レベルな魔力探知能力を有する人たちと遭遇する可能性は高い訳で。
僕もアンにも知られたくない事情と能力があるって事は、
このギフトを四六時中無意識でも使いこなせるようになりたい。
そう思って訓練しているのだった。
ようやくここに至って僕だけではなく、
アンのステータスもこの能力で常時偽装が出来るようになっているが、
まだ油断するとすぐに解除となってしまう。
「偽物報告」とのコンボが完成すれば、
レベルの高い探知能力者対策は万全だと思われるのだが、
その域まで達するには、まだまだ修行は続けなくちゃいけないだろう。
そしてもう一つ大切だと思われる能力。
「魔力探知 」という索敵能力だ。
これは発動すればエミリーが監視できるので、
最優先で発動しておきたい能力だった。
さっきの猫人の女の子の時も、
エミリーは正確に相手の位置を把握できていた。
もうちょっと魔素のコントロールがうまくいけば、
建物の形状や悪意のある人の気配なんかも探ることが出来そうだが、
別の能力を発動中、そこまで繊細な分析など出来る訳がなかった。
けれど、さっきの猫人の子と遭遇した時、
彼女の魔素をマークしておいた。
一度目の前で出会った人の気配だけを索敵し続けるなんて事は、
「真実の偽物」を発動していたとしても造作もない事なのだ。
もう少しでやってくるな。
そのまえにレベル1っていうのは止めておくか。
【鑑定】
氏名:ボーズ
レベル:16
性別:男性
年齢:15才
種族:ヒューマン
属性:火★水☆風☆土☆聖☆闇☆
「これでよし。おい坊主、腹いっぱいになったか?」
「・・・坊主じゃない。俺はシモンって名前がある」
「そうか、それじゃシモン。約束通りキミの姉さんに合わせてやる」
「ほっ、本当か!?嘘じゃないだろうな」
「僕は怪しいかもしれないけど、嘘つきじゃない」
「本当に本当だろうな」
「本当に本当だ」
「本当に本当に本当だろうな!」
「本当に・・・ああ、もういいや。ねぇそこのキミ、こそこそ見てないで入っておいでよ」
僕の索敵能力は、窓のすぐ下まで来ている、
猫人の女の子をずっとマークしていたのだった。




