調査報告書① 期待を外してすみません
「殺してくれ」と兄さんが託した僕への願い。
どのような状況にあるのかは検討もつかないけれど、
そんな事は出来る訳がない。
頭の中を鈍器で殴られるような衝撃を受けたと同時に、
目の前の景色はいつのまにかもとの祠堂へと変わっていた。
丁度足元に光の輪が吸い込まれるところだとすれば、
僕たちが兄さんと会話した時間っていうのは、
ここでの1秒にも満たなかったのかもしれない。
エリザベスさんやクリシュナイ伯。
目の前の誰も大騒ぎしている気配は無かった。
ひとりアンだけは異常なくらい目をパチパチさせている。
思わず両目を開けているぞ。
兄さんの魔法で「偽装」の魔法が掛けられているからなのか、
両目は綺麗な碧眼にみえるので、ちっょとだけ安心した。
でも頼むから今だけは右目を閉じててくれ。
「・・・残念だったわねアル」
「ああ、ハズレたようだ」
なんだか二人が僕の方を見てがっかりしている。
前の世界でも期待を外すことに関しては天才的と言われていたが、
この世界でもそんなにがっかりされるとは夢にも思わなかったぞ。
「ダイドージが作り上げたホムンクルスだっていうのがアルの予想だったの」
「ホムンクルスですか?」
「魔力で作り上げた人工生命体。魔族とも魔神とも違う未知の生き物。理由は分からないが、最近になって起動したとすれば記憶がないというのも辻褄が合う」
魔力ではなく科学的なプリンターで作り上げたものだが、
人工生命体という点では概ね当たっている。
「全属性適合ですごい出力の魔法を使ったって情報だったから、ちょっと楽しみだったんだけどなぁ」
「ダイドージの作り上げた人工生命体だぞ。能力はヤツと同じかそれ以上の潜在能力を秘めていただろう。もっとも魔として作り上げられていたのであれば、覚醒する前に粉々にするところであった」
セーフ。
大道寺研究員の作り上げた人工物はあたりです。
「サテラもご覧なさい、彼の本当のステータス。こんなレアギフトがあったんじゃ、鑑定ギフトも役に立たなかった訳だね」
【聖鑑定】
氏名:ボーズ
レベル:16
性別:男性
年齢:15才
種族:ヒューマン
属性:火★水☆風★土☆聖★闇☆
魔法:取得した魔法の無詠唱
ギフト:偽物報告 アンチ鑑定能力
:限界突破 緊急時魔法効力の最大化
:自動追尾 魔法発動後の自動コントロール
所属:サテラ・ベンツピルスの奴隷
「見た事のないギフトばかりです」
「ふむ。さすがは聖魔の雛。素材としてはなかなかのものだ」
「アルの予想は外れちゃったけど、これでリスクのタネというか雛を餞別できたってだけでも収穫よ。それで他の連絡が来ていない聖騎士たちからの報告はどうなの」
「まだ6名から連絡が来ていない。昨日援軍を送ったところだ」
「あの質問していいですか?」
「なんだね」
「・・・アルって誰ですか?」
エリザベスさんとクリシュナイ伯が互いに顔を見合わせる。
「ふふっ、挨拶が遅くなった。キミがダイドージと少し容姿が似ていたものだから、つい昔の友人に再開しているような気がして興奮してしまった。私はアルバート・クリュシュナイ。かつてエリザベス・キャベンディッシュとともに勇者ダイドージの従者のひとりだったものだ」
「それって1000年前以上昔の話ですよね。皆さんいったいお幾つなんですか」
「1000年は越えているというところで勘弁してほしい。魔力を極めたものはその容姿が実際の年齢とは相容れないものなのさ」
「でもね。カラダは若さを保っていても魂の器は確実に年を取ってしまうの。今の私たちはダイドージをと戦えるような力は残ってないの・・・」
魂の器ってさっき兄さんも言ってたな。
魂の器ってなんなのだろう。
「故に女神クリージュクルニスに啓示を願い、次世代の勇者とその従者を探しているという訳だ」
「それで僕たちをどうしようと」
「魂の器を磨く事だ。その手段とは魔道に落ちなければ何をしても良い。都合が良いことにキミには女神クリージュクルニスに使える聖騎士との隷属契約がある。我々を、さしてサテラに害をなそうとすれば神の神威により貴様の魂は砕け散る」
「・・・アンも同じ条件ですか?」
「基本的には同じだが、従者カルディナの転生者だ。彼女が望めば我々が直属で育て上げる事もよいだろう」
「・・・あっ。ううっ」
アンが何かを言いたそうだが、
やはり言葉がうまく出てこない。
右目は閉じたままにしてあるが、
兄さんが目を治してくれているのは知っている。
心の傷も治してくれていると期待していたのだけれど、
そう都合よくいかないものなのか。
「・・・・ったいです。わっ、わたし、ご主人様と一緒にいたいです!」
喋れた。
アンが喋れた。
寝言では聞いていたけど、
アンが自分の思いを言葉にできた。
・・・兄さん。
「すみませんが突然の事で混乱しています。よろしければ2~3日お時間をいただけませんか?僕たちに何が出来るのかという事を考えてみたいと思っています」
「そうか。それでは滞在できる場所を確保しよう」
「クリシュナイ猊下。よろしければ当家の門前宿に宿泊しておりますので、引き続きの滞在を許可願います」
「サテラのもとならば安心だ。それでは良き答えをっているとしよう」
こうして僕とアン。サテラさんは祠堂を後にするのであった。
短い時間であったのだけれども、あまりにも大きな変化があった為、
誰一人として口を開くことは無かった。
【マスター、アップデート完了しました。ドクター大道寺から多数の情報を得ております】
「・・・ああ、後で宿に付いたら聞くことにするよ」
【お疲れのようですね。それでは後程。ちなみにマスター。おカラダは如何でしょうか?】
「どこも痛いところなんてないぜ。少し腹が減っとているくらいかな」
【現在のシンクロ率ですが、99.9%まで上昇しております。何かしらの変化がおありになると推測されますが】
なるほど。
あのエリザベスさんの美貌。
甲冑ではない制服姿の可憐なサテラさん。
ハイスペックな女性を目の当たりにして、
さっきからこの下半身に漲るエネルギーはなんだろうと疑問だったのだが、
ようやく本来のカチラを取り戻したっていう事なのだろうか。




