調査報告書① ダイドージという勇者
勇者ダイドージ?
それって僕の名前の事なのだろうか。
でも2000年前の勇者のことなのだろうから、
僕とイコールのはずは無い。
例え同じだとしても、
【魔道に落ちた勇者】
というのはどういう事だろう。
確かにサテラさんのけしからんサイズの戦闘力に、
ぐぐっと魔道に落ちそうになったことは認めるが。
それに雛ってどういう事だろう。
僕の事なら一介の調査員であり、
このカラダはプリンターで作り上げた人工物。
とても勇者とか魔法使いといった潜在能力は持ち合わせていない。
足の臭さは魔王級だと言われた事はあったが。
「・・・合格というのは?」
混乱する頭の中で、僕の口が勝手に開いた。
他にも聞きたいことはあるのだけれど、
その質問も最も解決したいひとつであった。
「あえて言うならば人間性ね。キミは全属性適合しているって聞いたわ。そんな魔素の法則を無視した存在はこの世界の記録にある限り、勇者ダイドージ以外存在しない。キミが何者であるか以前に、聖なのか魔であるのか。それを判断できるのは聖都でもこの祠堂【真実の住処】しかないの。ここでは真実のみが許される聖域なのだから」
神の御業か魔法の力で嘘が見破られるような場所という意味か。
まぁ、人工物だという事以外偽っているものは何も無い。
「僕が安全な人間だとなぜ判断できるのですか?」
「あなたがここにきてから、常に考えていたことはアン。彼女の身の上の心配と、サテラに迷惑を掛けられないという、人を思いやる心そのもの。今すぐ魔道に落ちるなどの懸念は微塵もないわ」
「・・・まったくリズは甘い。この者は無詠唱で高出力の魔法を使った事、忘れているわけではあるまいな」
「忘れてないけど予想は付いているわ。今からそれを確認するの」
エリザベスさんは白銀の錫杖を弧を描くように揺らす。
【聖鑑定】
頭上に天使の輪のようなものが浮かび上がる。
ゆっくりと僕の体に光の輪が降りてくるのが分かった。
エリザベスさんの予想が何かは分からないが、
絶対にその答えは間違っていますように!
光の輪が僕の足元に吸い込まれる。
強い輝きに目が眩み目を開けていることが出来ない。
いつもは感じられない目の奥の刺すような痛み。
ゆっくり瞼を開けてみるのだが、まだ目が眩んでいる為なのか、
眼を開けてもあたりはなんだか薄暗いままである。
何度も瞬きをするが、一向に目の前が明るくなることは無かった。
「・・・やあ、まってたよ」
不意に耳元近くで人の声がした。
誰だろう。エリザベスさんでもクリシュナイ伯でもサテラさんでもない。
男の声なのだから、アンである事もあり得ない。
そしてその声には聞き覚えがあった。
絶対に忘れる事の出来ないその声色。
「・・・兄さん!!」
死んだと言われていた僕の兄の声だった。
おもわずそう叫んだのだが、
もしかして死んだ人の声が聞こえるという事は、
僕もその世界に来てしまったという事なのだろうか。
確かにあたりは暗い。暗すぎる。
もしここが死後の世界だとすれば、
近くに川が流れていて、
河原に石が積まれていたりするのだろうか。
しまった。渡し船のお金を持っていないんだった。
アンに渡したお金が今になって悔やまれる。
ってそういう問題じゃないだろう。
「兄さんなのか。いったいどういう状況なんだよ!」
「いや、ごめんごめん。今ちゃんと説明するから」
指を鳴らした瞬間、小さな光の球体が現れる。
ビー玉サイズの小さなものだ。
それがはじけて中から凝縮されたすべてのものが噴き出すように、
目の前に果てしなく広がる草原の海が広がった。
その小高い丘の上に僕は一人で立っているではないか。
いや、後ろに人の気配を感じ。
「兄さん!」
捕まえるように両手で肩を掴み引き寄せた。
「・・・アン?」
兄さんではなくアンがそこには立っていたのだが、
彼女も状況がまったく理解できていないのだが、
急に僕から肩を掴まれ顔を近づけられたものだから、
別の意味で驚いている様子だった。
「おいおい、女の子には優しくしなくちゃダメだっていつも言ってただろう」
アンの後ろに兄さんがいた。
死んだはずの兄さんが何故この世界に存在しているかなんて理由はどうでもよかった。
僕がこの世界に旅立った理由は、兄さんの無念を晴らしたい。
ただそれひとつだった訳で・・・
「・・・ん?キミはカルディナなのか」
兄さんがアンをじっと見つめる。
「いや、カルディナの魂が分霊された新しい器だ。キミの名前はアンって言うんだ。アンはこの世界で唯一無二のアンだから何事にも縛られず生きていくんだぜ」
「・・・兄さん。何言ってるのか全然わからないから、もっとよくわかるように教えてくれよ」
「うーん、そうしたいのは山々なんだけど俺にも都合があるんだって。まずは時間が足りない。この姿でここに居られるのは精々4~5分だろう。それにクリシュナイとエリザベスから俺の事を話されてはマズいんだ。掻い摘んで説明するとだな。本部から俺が死んだって説明を受けているのであればそれは間違いだって事だ」
間違いなのは分かったけれど、
どうも兄さんに違和感を感じずにはいられなかった。
元の世界で僕は25才、兄さんは35才。10才離れた兄弟だった。
ところが目の前にいる兄さんは、声や仕草は兄さんそのものなのだが、
年齢はどうみても20才程度にしか見えない。
僕が小学生時代、憧れを抱いた兄の姿そのものだった。
エリザベスさんといい、クリシュナイ伯といい、
何故皆こんなに若く見えるのだろうか。
「おおっ、その仮説は正しいぞ。この世界では魔力を極めると肉体が活性化し若返るからな。こう見えて俺はもうそろそろ2000年と35才になる」
兄さんも僕の頭の中の事を覗き見ることが出来るらしい。
だったら僕がどのくらい怒っているかが分かるってもんだ。
「ふざけんな。なんで2000年前に兄さんがこの世界に存在できるんですか」
「2000年前のこの世界に生身のままやってこれる。そういうゲートを見つけたからだよ」
「勇者ダイドージって言うのは?」
「・・・俺の事だ」
兄の名前は【大道寺翔】と言う。




