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3Dプリンターで異世界調査はじめました!  作者: しゅーる君
調査報告書①
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調査報告書① アンと夕飯を食べましょう

夕飯はこっちの世界に来て一番美味しいと思える食事だった。

黒角鹿のゴロゴロとした角切り肉の赤ワイン煮は、

元の世界で食べた牛頬肉の赤ワイン煮に勝るとも劣らない仕上がりだ。

黒角鹿ってどういう生き物なのかはよくわからないけど、

鹿に近い生き物なのだろう。

美味しく頂けるものの素性は、

家畜だろうが魔獣だろうが拘りがなくなってきている気がする。


ここの料理が口に合う理由の一つが香辛料である。

農村部では塩味主体の味付けであるのに対し、

聖都の料理は胡椒や生姜、ニンニクのような食材の旨味を引き立たせ味付けがなされている。

赤ワイン煮にしても、タイムやローレルのような香りが旨味に深みを加えるのだ。

サテラさんには申し訳ないけど、メイン料理はお替りをしよう。

ビールやエールを頼めるようだが、この煮込み料理に合うのはワインなのだろう。

これまでは生ぬるいエールしかなかったので、

ビール系の飲み物はさほどそそられなかったのだが、

聖都のビールはちゃんと冷えていた。

魔石による生活家電のおかげなのだろうか。


「アンもなにか飲んでみるか?」


料理がまりにも旨いものだから、

僕と同じく2皿目のワイン煮込と格闘しているアンにも飲み物を勧めてみた。

この店もそうだが、こちらの世界でメニューは見たことが無い。

大抵はその日仕入れたおすすめ料理というのが定番なのだが、

安定的に品ぞろえのあるドリンクでさえもメニューというものがない。

ブルブルと手を振りながら、水でいいという様なゼスチャーをするのだけれど、

ここまでの長旅の慰労もある。


それに、人畜無害な僕と一緒だとしても、

この後、男と女が同じ部屋で一晩過ごすことになる訳で・・・

腹いっぱい飯を食べたら、

アルコールの力を借りて、朝までぐっすり眠るしかないでしょう。

14才のアンは未成年なのだろうが、あと1か月すれば成人するらしい。

この2~3日で劇的に環境の変化が起こったアンならば、

1ヵ月程度の成長が早まっているので問題がないはず・・・

って強く自分に言い聞かせる。


「すいません、アルコール度数の少ない女性でも飲めそうな酒って何があるかな?」


パタパタと給仕に忙しい小間使いの女の子を捕まえる。

黒髪おさげで、年齢はアンと同じくらいといったところか。


「ええっと、蜂蜜酒のミードなんかどう?」


「へぇ、蜂蜜酒かぁ。それってアルコール度は高いのかい?」


「ワインと同じくらいよ。なんなら炭酸水で割っても美味しいんだけど」


「じゃあミードの炭酸割りをふたつ」


「はーい、お客さん氷はどうする。別料金になるんだけど」


「折角だから氷も頼むよ」


冷やすことは出来ても、

氷って言うのは高級品なんだろう。

僕はワインのお代りでもいいんだけれど、

氷を使った飲み物など、

アンが飲んだことなどないだろうから、

同じものを一緒に頼むことで、

彼女が飲みやすいように配慮したつもりだったのだが・・・


「・・・・!!」


おそるおそるミード酒ソーダの入った木製のカップに口を付けるアン。

初めて炭酸飲料を飲んだ時の子供のリアクションそのものだったが、

味については随分と気に入ったらしい。

ごくごくとのど越しを楽しむように飲み上げた。

ミード酒ソーダがなくなったカップの氷を名残惜しそうにしているので、

給仕の女の子に同じもののお代わりを注文した。

チップの銅貨を手渡すと満面の笑みでカップを片手に厨房に走っていく。


2杯目のミード酒ソーダは、最初よりちょっとだけアルコール度数が高い気がした。

給仕の子がサービスしてくれたのだろう。

もっとも、ワインと同程度の酒をソーダと氷で割っているのだから、

驚くようなきつい酒ではない。

舌に馴染んだ分、最初の一杯より芳醇なミード酒の良さが口の中いっぱいに広がった。


食事を終えると、広場の蚤の市で買ってきた、

ロンティーのような寝巻に着替える。

酒の力を借りたとはいえ、アンを不安にさせるわけにはいかない。

とにかく僕が先に寝てしまえさえすれば、

一緒の部屋でもアンが不安で眠れないなんてことは無いだろう。

寝付けなくてもアルコールを入れているのは、

アンもその力を借りて寝てくれればそれでいいと思ったからなのだ。


サテラさんの奢りでなければ、

別々の部屋を頼んでいたのだけれど、

生憎今夜は部屋はいっぱいの様子であり、

わがままを言える状況にはなかったのだ。

エミリーからも嫌味や教育的指導などの御小言もなく、

横になるとすぐに僕は夢の世界に旅立っていくのだった。


「・・・さん」


何かの音で目が覚めた。

外はまだ暗闇に包まれている。

日の出までまだ2~3時間はあるような時間帯であろうか。

隣で寝ているアンのベットに目を向けると、

彼女のベットは空であった。

そしてなにやら違和感を感じている薄い布団の中に、

いなくなっているはずのアンがしっかりいるではないか。


まてまて。

僕は彼女を夜這いしてはいないはずだ。

何度も言うが、幼女趣味(ロリコン)の趣向は持ち合わせてはいない。

どちらかといえば年上好みのおっぱい星人なのである。


ということは、

彼女自ら僕のベットに潜り込んだ問う事なのだろうか。

しまった、寝入る為のアルコールが思考判断のエラーに繋がったか。

寝ぼけたにせよ、ちょっとこれは困った状況にある。

彼女を抱え込むように寝ていた僕の理体勢からは、

彼女の成長途中にある胸が丸見えになっている。

幸いこの暗闇では輪郭が分かる程度の視界しかないので、

ガン見しても差支えがない・・・もとい、

見て見ぬふりをするのには都合が良かった。


クルクルと癖のある赤毛の隙間から、

閉じた彼女の左目が見えたのだが、

幾筋もの濡れた後が月明かりに反射するのが見えた。


「・・・おかあさん。なんで・・・」


窓からの月明かりで暗闇にも目が効くようになってきた。

普段しゃべらない、いやしゃべれないアンが、

夢の世界でははっきりと自分の思いを言葉に出来ている。

心の傷の深さを察すれば、すぐに起きろとベットから追い出すことなどできなかった。

涙を指で拭ったあと彼女の髪を優しく撫で、ゆっくり眠れるように願う。

彼女の顔が良く見えよう、右目にかかる髪の毛を分けいったとき、

僕は一瞬言葉を失った。



・・・右目が潰れている。



上下の瞼には酷い火傷による傷跡があった。

どのような理由でこんな酷い傷を負ったのかし分からない。

けれどこれから先、アンにこのような傷を刻み付ける事は絶対にない。

自信はないが、やらなくてはいけない事だ。



「時折マスターを尊敬します」



珍しくエミリーが褒めてくれた。



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