調査報告書① 食事はしっかり食べましょう
荷馬車は時速10キロに満たないスピードである。
聖都までは3日ほどかかる距離らしいが、
荷台はサスペンションもなく、
とにかくお尻が痛すぎる。
藁を布で巻いただけの簡素なクッションでは、
この痛みを和らげることはできない。
1時間走っては30分程度の休憩を挟んでいる為、
なかなか先には進んでくれない。
聖都まで続く街道は、魔獣除けの聖碑が一定間隔で並んでいる為、
どのくらいの距離を移動しているのかが良くわかった。
聖碑ひとりの間隔は50メートルほどだが、
1キロ毎大きな聖碑が立っている。
もっともこちらの世界では、
キロやメートルの単位ではないようなのだが、
自動翻訳機能が働いている為、
サテラさんの言う距離などは全てキロやメートルに変換されて聞こえている。
1キロなんてきっちりとしてた数字ではなく、
小数点が付くような数字で言われるから、
慣れるまではちょっと戸惑ってしまった。
そんな表情を見逃さなかったのか、
僕は数字が苦手なのだろうと思われている。
これでも商社に勤務していたのだ。
数字は結構得意なだけにシッョクである。
エミリーが再起動できたら、
翻訳機能のオンオフができるのか聞いてみたい。
街道の道中には、それぞれの領主が経営する農園が点在している。
「石の家」がある最初の開拓村と同じように、
教会を中心とした作りで、
村の周りを麦畑や野菜畑が取り囲んでいる。
畑の周りには、魔獣除けの聖碑のような結界柱が巡らされており、
僕の田舎でよくみかけたイノシシ除けの電気柵みたいな感じだ。
夜は魔獣の活動が活発になる為、
日が落ちる前に近くの農村で宿を探した。
幸い宿には2つの部屋を取ることが出来た。
2人部屋であるのだが、主人と奴隷なのだから、
奴隷である僕とアンが同じ部屋にとまろうとすると、
またもサテラさんから最大限の軽蔑なまなざしで、
「ボーズくんはあっち」と部屋を追い出されてしまった。
なんども言うけれど、
僕に幼女趣味趣向は一切ない。
サテラさんだって、年だけ考えれば守備範囲外なのだ。
戦闘力に関して言えば、
「けしからん」とだけ非常に高く評価している。
とにかくサテラさんが、
奴隷に対して露骨な偏見や差別を表に出さなかった事は、
アンにとってありがたいことなのだろう。
まぁ。とにかく腹が減った。
昼の休憩で食べたゲンコツゼンベイ並みに固いパン一切れでは、
してもじゃないが空腹を満たすことなどできなかった。
どうせこの村の食事も、塩味の豆スープくらいなのだろうが、
柔らかくて暖かいって事が、
食事の価値を高めるってのは、
こちらの世界での大きな発見の一つである。
「お客さん、今夜のおススメはイノシシのグリルだよ!」
給仕の女の子が注文を取りに来てくれた。
アンと同じくらいの年齢のようだが、
戦闘力では天と地ほどの違いがある。
まぁ、奴隷の栄養摂取なんて良い訳がなかっただろうから、
せめて僕と一緒の間は、美味しいものを腹いっぱい食べさせてあげたい。
安宿の食堂で肉料理というのは珍しかった。
安上がりな内臓系の煮込み料理はよく見かけたけど、
懐事情が悪かった僕には、
それでも手を出すことは出来なかったけれど。
「じゃあそれを3つ。それとスープとパンと何かもう一品付けてほしいな」
「はーい、ちょっと値ははるけど、その分味は保証付きだよ♪」
「それは楽しみだ。それとなにか飲み物が欲しいな。アルコールじゃないおすすめを3つ頼めるかな」
「それじゃすぐに持ってくるね♪」
成人である僕とサテラさんは、アルコールを飲んでも言いのだろうが、
帯剣したままのサテラさんを見る限り、
「石の家」での油断ってやつを気にしているに違いない。
そういう僕も役に立つのかは分からないが、
ショートソードを腰につけている。
敵と戦うよりも、イノシシ肉を切ることに使ったほうが役に立つような気がするけれど。
サテラさんの希望を聞くことなく注文したのだけれど、
選択できるほどのメニューがある訳でもなく、
主にそのような雑用を押し付けるわけにはいかない。
期間限定とはいえ、僕はサテラさんの奴隷なのだ。
もう一人の奴隷であるアンはといえば、
注文の数が「3つ」であると聞き及び、
「奴隷の私にはもったいない」みたいなパタパタとしたゼスチャーを見せるのだが、
相変わらず言葉にすることが出来ないようで真っ赤な顔をして慌てている。
サテラさんと水浴びでもしたのか、
汚れた髪の毛が綺麗になっており、
ウェーブのある赤い髪の毛が左側だけピン止めされていた。
常に隠されていたアンの目を初めて見たのだが、
碧色の瞳だったのか。
目が見えたところで顔のイメージが良くわかった。
磨けば光る原石といった感じであり、
サテラさんほどではないにしても、
将来が楽しみな顔立ちをしている。
せめてあと10年後に会いたかった。
「さあ、アン。沢山食べて頂戴ね。気にすることは無いのよ、全部ボーズくんの奢りなんだから」
「サテラさんも途中で魔獣何匹か狩ってたでしょ!」
といいたいところなのだが、
無理を言ってアンを奴隷にしてもらった手前、
返す言葉が見当たらない。
後で聞いたのだが、隷属契約している奴隷は、
ご主人に害を及ぼすような反逆行為を行った場合、
神との契約不履行したという事で、
死に至る魔法が発動するらしい。
だからサテラさんはそんなに付き合いの深くない僕と一緒でも、
平気な顔で旅をすることが出来るのだろうな。
早く真の信頼を勝ち取らなければ・・・
と言っても、期間限定の主従関係。
聖都で僕の魔法の鑑定が終わったら、
そこでハイさようならなんだろうな。
「お待たせぇ。イノシシ肉のグリルだよぉ♪」
大皿に盛られたイノシシ肉料理。
香草と何種類かの野菜とともに、
圧倒的な存在感で僕たちのテーブルに運ばれてきた。
肉の焼ける香ばしい匂いが食欲を刺激する。
肉にはグレービーソースのようなものを纏っており、
これまでの塩味一辺倒の料理とは別次元の華やかさがある。
「これは美味しそうね」
サテラさんの期待にもこたえられる見栄えのようだ。
きっとアンも喜んでくれるだろう。
「さあアンも自分の皿に取って・・・」
奴隷では食べられないだろう食材。
彼女にこそ遠慮なく食べてもらいたかったのだが、
料理を進めてみて僕は気か付いた。
料理を凝視して固まりついているアン。
「・・・アン?」
アン、出てきた料理に驚愕して失神していた。




