調査報告書① 聖都に向けて出発します
「それじゃ、いってきます」
次の日の朝、僕はサテラさんとともに、
聖都と呼ばれているこの国の中枢都市に出向く事になった。
今回の開拓村への魔族襲撃の報告と、
僕の属性を再鑑定する為だった。
この国の中枢都市の調査ってのは、
僕の目的の大きな目標のひとつだった。
僕の属性の再鑑定というのがリスクになるのだけれど、
聖騎士であるサテラさんが同行してくれるというのは、
思いがけないチャンスである。
リスクを負ってもこの幸運を逃す手はない。
それに、こんな綺麗な女性と旅が出来るなんて、
間違いが起こったら、否定せずに間違いを犯そう。
どちらかちといえば、聖都の調査より、
サテラさん個人の調査を優先したい。
「ふん、もう帰ってこなくてもいいよ!」
それにしても、マーサさんらしい激励だったな。
なんだかんだといって、
食料がたっぷり入ったカバンをひとつ僕に差し出してくれた。
聖都の調査が一段落したら、
お土産を買ってお礼に来なくちゃいけない。
「ボーズ、ほんとうにありがとうよ」
「石の家」には、多くの村人・・・といっても、年寄りばかりなのだが、
僕の事を見送りに来てくれた。
魔族の襲撃の際、ほとんどの村人は教会に避難をしていたので、
僕が魔法で魔族を撃退したって事はすぐ皆に知れ渡ることとなった。
家屋の被害は相当なものであり、
怪我をした人も数多くいたのだけれど、
奇跡的に死者はひとりもいなかった。
魔族の襲撃と同時に、
手練れのふたりが迎撃してくれたことが、
人々の避難につながったのだろう。
あの時以来、エミリーが再起動していない。
魔法を使った影響なのだろうか。
草原で魔法を使った時も、
しばらくの間エミリーは再起動できなかった。
緊急離脱と言ってたから、もしかして僕を残して元の世界のサーバーに帰ったのかもしれない。
地球からモニタリングできる範囲は、
ゲートから1キロ圏内である。
エミリーが居ない今、
そのエリア外に単独で出かけるってのは心配だけど、
まぁ、そのうち何とかなるだろうな。
「おかげでもうすこし生き永らえそうじゃ」
「おお、なんじゃったか、あんたのその魔法。一発で魔族を仕留めるなんざ、大魔導士様なみの芸当じゃわい」
褒められるなんて事は、
元の世界ではほとんど記憶にない。
耳の奥がこそばゆくなる。
だいだい、命を懸けて戦う事自体、
日本では考えられない事だった。
とにかくなんとか
となければという思いしか甦ってこない。
僕が魔法を発動して、
魔族2体をやっつけたというのは、
本当の事なのだろうか。
魔法を使った後は、
すぐに気絶してまったく記憶が残っていない。
「魔族を退治してくれた礼に、あんたが吹っ飛ばした俺の家の事はなかったことにしてやるぞ!」
・・・心が痛い。
「皆さん、それじゃまた」
村の結界口まで見送ってくれた後も、
僕達の姿が見えなくなるまで手を振り続ける村の人たち。
ありがたいのだけれど、気恥ずかしさもあり、
自ずと早足になってしまう。
魔族の襲撃でサテラさんは甲冑と馬を失った。
真夜中の襲撃だったので、剣しか持ち出せなかったのだろうけど、
瓦礫の中から見つけ出した甲冑は、
見た目はさほどつぶれてはいない。
けれど魔法付与の効果が無くなっているらしく、
ただの重い金属の塊になっているのだとか。
それでも聖騎士に貸与されている備品らしく、
聖都まで持ち帰えらなければと、
甲冑を背負子に乗せている。
僕もプリンターをそのままにしておくわけにもいかず、
唯一の家財道具という事で、
やはり背負子に乗せて出発だ。
聖都までは徒歩だと1ヵ月近くかかるらしい。
馬がほしいところなのだが、
開拓村には農耕用の老馬が数頭いるだけで、
とても乗馬用に耐えられるものではなかった。
ここから何日か歩いた先に、
ダインの砦という聖騎士団の駐屯地があるのだが、
そこで馬を借りる事にした。
上手くいけば、10日ほどで聖都に到着する見込みである。
「サテラさん、司祭さんが餞別にってくらた袋の中に、金貨が5枚も入っているんですよ。これって貰いすぎなんじゃないですかね」
開拓村の暮らしぶりは、
お世辞にも豊かなものではなかった。
粗末な家の作りに、粗末な衣類。
典型的な田舎の農村だった。
食べているものは穀物や野菜など豊富ではあったが、
香辛料などの調味料は一切なかった。
料理の味付けは、基本塩だけの味である。
マーサさんの話しでは、
開拓村のほとんどが「農奴」と呼ばれる領主の小作人だった。
つまり、村に縛られのウサギ用に従事している奴隷である。
若い人ま多くは、領主が営む事業の人工として徴用されているらしい。
農村だけあって、食べるという一点では、
日々の生活に不自由はない様だけど、
生活に余裕が出来るほどの蓄えがあるようには見えなかった。
「それは気持ちなんだから、貰ってていいんじゃないかな・・・」
・・・かわいい。
最初見た時から、なんて綺麗な人だとは思っていたけど、
となりに並んで歩き始めて、あらためて思い知らされる。
なんてハイスペックな女性なんだろう。
壊れた甲冑を脱いでいる今だからわかる。
柔らかな女性特有の曲線を描く肢体。
出るところは出て、
締まるところはキュッと締まる。
それでいてあんなはにかむ様な笑顔を持ち合われているのだ。
そうか、これが天使。
いや女神様か。
そういえば、
洗礼の時に話しかけられたのは、
女神様だったのだろうか。
司祭さんの話じゃ、女神様との契約ではあるが、
直接女神さまが降臨する事は無いらしい。
ごく稀に女神様を見たという人がいるらしいが、
いずれも稀少なギフトを授かっているのだとか。
まぁ、僕の場合はノーギフトだったけれどね。
顔は良く見えなかったけれど、
あの深く刻まれた双丘の谷間。
まったくもってけしからん。
、
その女神様に勝るとも劣らないポテンシャルを秘めた美女が隣を歩いている。
出会った最初の頃の、
荒々しい雰囲気はまったく感じられない。
あれも魔法による効果だったのだろうか。
とにかくこんなに可愛い女性とふたりきりってのは、
元の世界ではお金を出してレンタルする『レンタル彼女』や、
ぼったくられた新宿のキャバクラくらいしか記憶にない。
それがどうだ。
異世界ではあるが、リアルガチ。
追加料金など気にしなくても、
何日間も一緒に旅をするのだ。
そうだ、この金貨1枚、いや3枚くらい、
指名料として胸の谷間におひねり入れちゃおうかな♪
「魔核、ふたつともあげちゃったじゃない。それで十分村の人たちには恩返しできてると思うな」
「魔核って、あのグロい赤と黒のマダラの水晶玉みたいのですか?」
「もしかして魔核って知らなかった?」
「・・・魔石なら知ってましたが」
魔核とは、魔族が持っている魔素の結晶体らしい。
魔獣の魔石とは違い、魔素の量と質が段違いらしく、
赤と黒の魔核は、火力系の魔法具、
例えば大型の動力源や鉄鋼炉の熱源として貴重な資源となるらしい。
魔石や魔核は、最後に仕留めた人の所有になるのがこの世界のルールらしい。
富の分配は、ルールを厳格化していないと、
あらたな争いの火種になりかねない。
「あの魔核は、聖都なら捨て値でもひとつ金貨1000枚になると思うの。ふたつあったから金貨2000枚はくだらなかったはずなんだけど・・・」
「・・・金貨2000枚」
確か金貨1枚で10万円の価値があるってエミリーが言ってたな。
宝くじ1等2憶円が当たったのに、
それが判明したのは有効期限切れた後でした。
それって、こんな気持ちなのだろうな。




