調査報告書① ギフト
この世界に来て食べるものと言えば、
『石の家』の食堂で食べる食事の他、
魔石と魔獣の肉を換金する際によろず屋で買う、
なんだかよくわからない果実くらいである。
リンゴのような食感だが、甘さの欠片もない超すっぱい味なのだが、
いまの季節、携帯できるような食べ物はこのくらいしか見つけることが出来なかった。
店に並ぶのは野菜が中心なのだが、白菜と大根、ホウレンソウなど、
元の世界とよく似た野菜が多くみられた。
けれど、調理する道具も術もない僕にとって、
まだまだ未知の領域なんだけれど・・・
甲冑を脱いだサテラさんには驚かされる事ばかりだった。
堂々と裏庭に現れたことも驚きだったが、
あの伸縮性があろうはずのない甲冑の中に、
あんなに強烈な「戦闘力」を隠し持っているとは・・・
あの美貌であのプロポーション。
なんで聖騎士なんてやっているのだろうか?
マーサさんと夕飯をともにしたのだけれど、
暗がりで目に焼き付いた双丘が頭の中から離れない。
まともに目を合わせることが出来なかった。
「聖騎士様に出すような品じゃないが、暖かいうちに食べておくれ」
「そんな、戦地で暖かいものなど食べられません。ありがたく頂戴します」
しばしの沈黙があり、
ふと見上げれば、ふたりとも手を握りしめてなにやらつぶやいている。
そうか、ここは宗教国家なんだものな。
食事の前のお祈りってやつは当然なのかもしれない。
いままで料理が来ると、すぐにがっつく僕の行為は、
下品なイヌ並みの行為だったろうな。
仮にも洗礼を受けたものとして、ここは郷に入りては郷に従う事にしよう。
「女神・・・なんだっけ。あっ、クリーズカルニスの加護により、今日も糧にあずかれたこと感謝申し上げます・・・」
こんなんでいいのだろうか。
【どういたしまして♪】
・・・ん。
いま誰か何か言ったか??
この食堂には僕の他、マーサさんとサテラさんしかいない訳で・・・
この世界に来て、たいぶ疲れがたまってきたようだ。
寝言は寝てからだけにしておかないとな。
「それで、クルシェナイの爺さんは元気なのかい?」
「はい、まだまだ若いものには負けないとお元気でご活躍されてます」
「どうだか、聖騎士と言えどこんなご時世なのに部下を単独行動させるなんて、耄碌したとしか思えないがね」
苦笑いを浮かべているところを見れば。
当たらずとも遠からずってころなのだろうな。
しかし、このシチューの肉。
いつも食べていると同じなのだが、
いったい何の肉なんだろう。
鶏肉というよりは豚肉に近いけれど、
独特のけもの臭も口の中に残る。
だいぶ慣れてきたのだけれど、
慣れてくれば癖になる甘みを感じる。
それにこちらのニンジンがなんとも甘くて旨いじゃないか。
芋はじゃがいもと里芋の中間くらいのねっとりとした食感だが、
煮込まれたおかげで表面が溶けているのか、
旨味を吸い込んでおりなんともいえない。
「しかし、よくこのボーズが怪しくないとわかったものだ」
「・・・鑑定のスキルがあります」
「へぇ、あんたもかい。実はわたしも鑑定もちなんだよ。記憶を無くしたってウソを言って脱走してくる奴隷や犯罪者が多いからねぇ。その点でこのボーズは本物の『ダメ人間』なんだよ」
・・・そこは記憶がない人間なのでは?
「こんなバカ正直な魔素を発する人間は、久しくお目にかかったことが無い・・・」
どこか遠くを見つめるマーサさん。
サテラさんの上司を知っているという事は、
若かりし頃は、同じような職業だったのかもしれない。
でも、そんな過去をねほりはほり聞くなんて野暮はするつもりもない。
人には言えない過去だってある訳なんで・・・
「マーサさんもお若い頃は聖騎士だったんですか?」
ド直球ストレート。
ものすごい剛速球だよサテラさん。
ことひと、交渉ごとには絶対に向いていないタイプに違いない。
もし相手の気に障れば、すべてがここで終わっちゃうのに。
「聖騎士?そんなものには興味が無かったねぇ。むしろ正反対の立場だったのかもしれないが、まぁ、そこは聞くだけ野暮ってもんだ。『冒険者』ってことにしておいておくれ。爺さんとはライバルって関係だったが、詳しくしりたかったら爺さんにでも聞くといい」
うーん、僕が同じ質問をしたら、
間違いなくホークで目を貫かれていたな。
どこの世界でも相手の過去を聞くって言うのは、
信頼関係が強くなければ成り立たないね。
「・・・ところで鑑定ってなんですか?」
ふたりが「鑑定」のスキルって言ってた事が気にかかった。
なにかの秘め事なのかもしれないが、この場にいた人の前で晒した情報なのだから、
これは聞いたところで問題は無いだろう。
「さっきの羊皮紙があるだろう。洗礼を受けたものは先天性の魔法の他に、『ギフト』と呼ばれるアビリティ『鑑定』があるのさ」
「ギフトには、そのほかにもたくさんあって、神の寵愛を受けたものには複数の『ギフト』が与えられるのよ。だから羊皮紙を他人に見せるって事は、自分の手の内を晒すことになるから秘匿するっていうのが決まりなの。さっきキミのを見ちゃったから鑑定の事で許してね♪」
なるほど、だからマーサさんは僕が罪人じゃないと判断できたわけか。
そしてその判定の結果が『ダメ人間』・・・
否定はできない。




