調査報告書① 女神の降臨
まぁ、勘違いは誰にでもある事なのだが、
「ボーズ」とは僕の本名がお寺の名前のようだから、
どうもすっきりしないのだ。
大道寺渉。これが僕の名前だ。
先祖がどこぞの住職だったなんてまったく伝わっていないのだが、
小さい頃はよく『坊さん』とか『一休さん』などとからかわれた。
異世界に来てまで『ボウズ』扱いされるというのは、
これもまたそういう星の下に生まれついた定めなのだろう。
「全属性っていうのはありえないんですか?」
「聖騎士学校の授業では、勇者や賢者になりえる人は、聖と四属性の恩恵を受けるって習ったわ。闇と四属性も魔王の器となりえるけど、どちらも滅多に現れないの。それに聖と闇は相容れないものだから、そんな恩恵は魔力が対消滅しちっゃてすべてが無に帰るって言われてるけど・・・」
「ふん、全属性なんて司祭さんの手元が狂ったんだろう。だいたい詠唱式が与えられていないんだ。複数の属性があるってのも可能性として低いだろうね。おっと司祭さん、気を悪くしないでおくれ」
「いやいや、私もこんなことになるとは面目次第もありません」
恐縮する司祭さんは教会へと帰っていった。
さきほどの龍さわぎのせいか、
村の明かりがいつもより早く暗くなっている。
サテラさんが馬の様子を見てくると立ち上がったのだが、
暗くなった街道は、いくら聖騎士と言えど危ないと、
マーサさんから引き留められる。
聖騎士の鎧は、強化魔法が付与されているようで、
サテラさんのような女性でも、
あんな重装備で機敏な動きが可能のようだった。
もっとも、聖騎士として厳しい訓練を受けているのは、
間違いないのだろうが・・・
「それでは馬も休ませたいので、今夜は泊めていただいてもよろしいですか」
「はいよ、今夜はそこの『ボーズ』しか客がいないからねぇ。部屋は十分余ってるよ」
商魂たくましいと思ったけれど、
聖騎士から宿泊代はとれないのだと、
あとからマーサさんが教えてくれた。
ちょっと怖いところがある豪快な女主人なんだけど、
思いやる気気持ちはだれよりも強く持ちあわせている。
言葉使いが多少あらっぽいのは、
そんな気持ちの照れ隠しなのかもしれないな。
「裏庭に井戸があるから水浴びして着替えておいで。それから飯にしよう」
「ありがとう、マーサさん」
「それとボーズ、あんもすごい匂いだから聖騎士様と水浴びしてきな」
「え゛え゛え゛、いっ、一緒にですか!?」
「・・・お前、水浴びするときは相手の姿は見ちゃいけないってルールも忘れてるのかい?まぁ、もっとも邪な気持ちがあれば、すぐにでも聖騎士様から叩き切られるだろうけどね」
プラチナブロンドの美女と一緒に水浴びだなんて、
こんな美味しいイベントは地球では絶対にありえない事だ。
見るなと言われても、視界の端にちょっとだけ入り込む画像なら、
邪と言われることは無いだろう。
うん、無い無い。
あの甲冑の下に隠れている肢体はいったいどんな驚きが隠されているのか。
顔はとても小さいのだから、中肉中背というのが定番だろう。
しかしながらあの美貌である。
すらりとした8頭身であれば、
殺される覚悟でじっくりと脳内に永久記憶しておきたい。
だが、甲冑は相当重そうだった。
あれを常に着こなしているならば、
筋肉粒々マッチョな体に、
アンバランスな小さい顔がついているのだろうか。
普段水浴びは、他の宿泊者といっしょになっても、
女性は衝立てのようなものに隠れて体を洗っているようだが、
年齢が高い人ばかりで、まったく興味を掻き立てられなかった。
そういえば、この村に来て若い人って見たことが無かった。
マーサさんだって見た目は50才前後だけれど、
食堂兼パブにきている連中の顔ぶれからすれば、
『若手』と言われる年頃だ。
最初は日中どこかで働いているのかと思ってたけど、
こう連日姿を見ないってことは、
きっと村では生活していないのだろう。
あまり根掘り葉掘り聞きだしすぎると、
怪しまれるから気おつけなくてはいけないが、
調査としては優先的な事項なのかもしれない。
「・・・おじゃまします」
今それ以上に大切なのは『水浴び』の実地調査なのだ。
それと、聖騎士の生態について生乳・・・もとい、
生体を確認するという、きわめて困難な調査となる事だろう。
下手をすれば命を落とすが、それに見合う価値がある。
っていう事を僕の中心にそびえているレーダーがそれを感じ取っている。
こちらの世界に来る時のダウンサイジングが悔やまれてならない。
ただでさえ暗い宿の裏庭。
月が雲に隠れたことと、
ほかの家々が明かりを落としているせいもあり、
実際いつもより暗いのだろうな。
衝立が使用された形跡はない。
僕が早く来すぎて警戒されないように、
ちょっと時間をおいてやってきたのだが、
やはり男と一緒の水浴びなど、
聖騎士様にはありえないことなのだろう。
顔立ちと立ち居振る舞いを見る限り、
育ちの良さをうかがい知ることが出来る。
そう考えれば、僕の抱いていた邪な気持ちが、
とてつもなく恥ずかしく思えた。
ヌーディストビーチで醜態をさらす日本人の典型的な見本だったね。
さっさとカラダをあらって、
マーサさんから合格点を貰わないと、
今夜の飯にありつけない。
あっ、持ちあわせの銅貨が少し足りないかもしれないが、
今更出て行けとは言われない・・・とは言い切れないか。
ぎぃ。
錆びついた蝶番が歯ぎしりをするような音とともに、
裏庭続く木戸がすっと開いた。
そこには白い湯あみ着を纏った女神さまが降臨していた。
歩く歩幅に合わせ、プラチナブロンドの髪がゆっくりと風になびく。
あんなに暗かった裏庭が、突然の女神様の降臨によって、
光で溢れんばかりに輝きだす。
「・・・サテラさん」
予想外のスレンダーな肢体。
透き通るような白い肌。
1本1本が光り輝く髪の毛。
そして、湯あみ着に浮かび上がる神の双丘。
このハイスペックな女神様を前に、
一目散に退散するなんともヘタレな僕なのであった。




