航空奇襲
時は流れ一週間後・・・。
ヨル聖皇国絶対防衛線、その北の要所、衛星大陸『ワーシュラット』。その中で最も大規模な基地、『ミヘルベット空軍基地』。
この基地には全長1200mもの滑走路を有し、聖皇国で作られたありとあらゆる航空機が離着陸可能であった。人員はパイロット約700名、整備員約2500名、対空警戒員300名と大勢の事務員が配置され、空戦の主力となるヴァリアンは300機。その内120機が滑走路脇に横列体制で60機ずつ並べられ、残りは地上格納庫に収められていた。
更に同じように地上格納庫には140機のパルーガⅡが、また地下格納庫に16機の最新鋭ジェット戦闘機アラドーラが駐機してあった。
そして、東から昇る太陽が紅色から白色に変わる頃。早朝の偵察部隊が離陸準備を進める光景が管制塔の窓から見えていた。
それに加え、聖皇国人なら絶対に見たくないものも見えていた。
数時間前 ワーシュラット大陸北西約300km・・・。
日本海軍の空母7隻からなる機動艦隊は夜明けと共に攻撃隊を発艦させた。目標はミヘルベット空軍基地。位置は事前の潜水艦搭載の水上偵察機で把握している。滑走路は北東から南西にかけて設置され、北と東には小高い丘があった。
攻撃隊約400機はまず北方から大陸を東に横断。丘陵を目暗ましに利用し、北東から滑走路を縦断しながら滑走路と駐機してある敵機を破壊する。
その間、機動艦隊は南に転進。攻撃隊を回収した後再武装を整えた後、南の衛星大陸『デトラント』の『ウィッシュビー空軍基地』を破壊しにかかる。
戦艦を主力とする打撃艦隊は機動艦隊と入れ替わる形でワーシュラット大陸に海軍陸戦隊2個連隊、約5000人を上陸させ橋頭堡を確保させる。
その後陸軍2個師団、3万人を上陸させ万全の体制を持って飛行場を占領する。
『全機発艦はじめーーーっ!!』
そして現在・・・。 『トラ・トラ・トラ』
「敵襲ーーーッ!!」
まったくの予想外であった。
日本はワーシュラット大陸の南西に上陸を仕掛けてくるものと思い込んでいた。だが敵機が現れたのは北東。まさに背後を突かれた形になった。
「エンジンを回せー!」
「弾薬だ!弾薬を搭載しろ!!」
「対空砲につけー!」
空襲警報のサイレンが鳴り響き、パイロット達が兵舎から雪崩を打って出てくる。
上着はおろかズボンを穿くことすらままならい。そんな者は流れの邪魔にしかならず、脇の砂利が露出した地面に向けて押し倒される。
人の波を掻き分けてようやく滑走路に出られても、ニホン軍の戦闘機が雨のような銃撃をパイロット達の行列にくわえる。
その雨を、ある者は背中に、ある者は肩に、またある者は頭に浴び、路上に展開状態で放置してあった傘が突風で呷られ飛ばされるように、片腕を何mも勢いよく飛ばし回転しながら、形容し難い格好で、断末魔を発しながら地に伏せた。
格納庫には弾薬が置かれていたが、そこには急降下爆撃機が来襲。投下された爆弾は屋根を付く破り中で爆発する。
格納されていたヴァリアンとパルーガⅡが燃え上がり、炎と熱波が扉から噴出し、火だるまとなった整備兵が悲鳴を上げながら出てきては焼死した。
パイロットのみならず滑走路脇に駐機していたヴァリアンにも被害が出た。それも120機。そう脇に駐機していた機体全てに何らかの被害が出た。とは言え炎上はしなかった。
そもそもヴァリアンのエンジンは魔力で動き、補助的に航空機用ガソリンを使っている。
仕組みはいたって単純。
火魔法と風魔法を1:2で混合した魔力をエンジン気筒内に送る。それを気筒内に組み込まれた火魔法を宿した魔石で燃焼させるのだが、それでは混合魔力と純魔力による干渉で魔力暴走が起きる可能性が高くなり、最悪、爆発する。風魔法の比率が高いのは実質的な比率を2:2にし干渉させずらくする為であった。
とは言えこの比率では出力が不足しがりである。そこで航空機用のガソリンを使用し燃焼効率と出力を上げている。
排気は混合魔力に使われた風魔法が火魔法と一緒に押し出してくれる。
更に、長時間の稼動に耐えられるよう気筒の外側に水魔法を宿した魔石を付け、冷却している。
これによりヴァリアンは7.92mm機銃2丁と20mm機関砲2門と弾薬を満載した状態で、最高速度630km/hと航続距離570kmを実現している。
だがミヘルベット空軍基地のヴァリアンはその能力を発揮することなく地上で無残にも撃破された。
撤収する直前になってようやく対空砲が射撃を開始したが、いくら強力な20mm四連装機関砲や37mm砲といえど対応があまりにも遅く、撃墜できたのはたったの3機。
最新鋭ジェット戦闘機アラドーラに被害はなかったものの、ミヘルベット空軍基地は壊滅的打撃を受けた。
その情報はすぐさま周辺の陸軍駐屯地とウィッシュビー空軍基地に伝えられた。
ウィッシュビー空軍基地・・・。
ミヘルベットの惨状が伝えられたウィッシュビー基地ではヴァリアン隊の発進準備が進められていた。
「敵討ちだ!気合入れろ!!」
第12航空隊の隊長『メルダース』中佐の檄に他部隊の兵士も高揚する。
その高揚と共にヴァリアンのエンジンが轟音を響かせる。その数150。滑走路の脇に駐機していた機体全てである。
その裏、地下格納庫においてアラドーラの魔力濃縮噴射機に燃料となる地魔法で濃縮された風火魔力とケロシン燃料を搭載していた。
翌日・・・。
そして全機発進準備を整え、飛び立つのを今か今かと待ち構える戦闘機隊を含め、基地全体に管制塔からのアナウンスが流れる。
「敵の艦隊がルリエナス海峡の西を南下中!間も無くヴァリアンの戦闘域内に到達する!
ヴァリアン全機発進後すぐさまパルーガ全機発進!敵艦隊を魚礁に変換せよ!!」
アナウンスと共にメルダースの第12航空隊36機が発進。そのほかの航空隊も後を追って続々と発進し、総数150機のヴァリアンが飛び立ち、高度2500mで編隊を組んだ。
また同時刻、日本海軍第一機動艦隊からも制空権確保のため零戦180機が発艦。
役者は揃い、ルリエナス海峡西端の海上を舞台に、大空戦の幕が上がる。




