大空戦 零戦vsヴァリアン
ルリエナス海峡。
ワーシュラット大陸とデトラント大陸の間の海域で幅は約100km。流れは年間を通して穏やか・・・、というよりこの惑星の海流は非常にゆっくりではあるが、おかしなことにまるでデスペルタル大陸に吸い込まれているように流れている。
ディートリア大陸から西に行こうとすれば急激に流れが速くなり、大日本帝国が誇る世界最大の戦艦大和型を持ってしても乗り越えることは出来なかった。まるでデスペルタル大陸の裏に在るナニかが接触を拒むように・・・。
とはいえそれはまた別の話。
この海峡の上空が、大日本帝国とヨル=ウノアージン聖皇国の初となる大規模な制空戦闘の舞台となる。
日本海軍の主力戦闘機『零式艦上戦闘機』とヨル空軍の主力戦闘機『Fb-901ヴァリアン』では、武装にさほどの差は無いが最高速度と降下耐性はヴァリアンが勝っている。
だが零戦には優れた格闘性能と上昇力、そしてそれを手足のように自在に操れる熟練パイロットが揃っている。
このことから、零戦は『ドッグファイト』、ヴァリアンは『一撃離脱戦法』に徹すれば勝機があった。
ルリエナス海峡 上空2500m・・・。
雲量はやや多く、全体の6割ほど。風は西の風であるが分速1mにも満たないほぼ無風の状態であった。
ヴァリアン150機は敵機を探していた。だがいくら探しても見つからない。何処に居るのか分からないというのはヨル空軍の数少ないベテランパイロットから平常心を少しずつ奪っていった。120人の新兵達の中には既に四肢を震わせる者も居た。
「どこだ・・・?」
同高度から海面までコックピットから視認できる範囲を見渡た。何度も何度も。だが一機たりとも見つけることが出来なかった。
ここでふと上空を見つめた。
雲が多いが隙間隙間から日差しがコックピットに差し込み視界を晦ます。あまりにも眩しいので一旦目を瞑り俯く。そしてもう一度上空を見上げる。
「ん・・・?何だ・・・?」
そこには黒い影が映った。
ルリエナス海峡 上空3000m・・・。
150機の零戦は15機ずつの中隊に別れ敵機を捜索した。各中隊の間隔はそれほど離れておらず、どこかの中隊が会敵し戦闘に移ったとしても6分以内に駆けつけれる。
そしてその零戦第1中隊を率いる『岩本徹三』は暑い雲層の隙間から敵機を発見した。
「先頭の奴を食らう・・・。」
岩本の零戦は増漕タンクを切り離し急降下を開始した。
本来、零戦は軽量で旋回性と上昇力に優れる。だが裏を返せば、急降下で血液が頭部に集中しブラックアウトする前に空中分解を起こすほど脆い機体でもあった。
だが岩本達の編隊は敵編隊より上空を飛行しており高度差で有利であり、また敵機は自分達には気付いていないことで奇襲が出来る。これが岩本が急降下耐性が低い零戦で、あえて『一撃離脱戦法』を採る理由だ。
近代空戦の鉄則、『ベルケの格言』にあるように・・・。
<攻撃を仕掛ける前に優勢を確保するように心掛けよ。可能であれば太陽を背にせよ。>
を忠実に守っているともいえる。
今回は太陽を背にすることは出来なかったが、厚い雲層が岩本達の機体を隠してくれた。
突然現れた敵機に先頭を行く機体が撃墜された・・・。そんな光景を見せ付けられた新兵はどうなるか。想像に硬くない。
岩本は速度計が600km/hを超えないように注意しつつ、雲と雲の隙間から、敵編隊の先頭の機体に狙いを定め・・・。
「発射ッ!!」
100mの距離で2門の20mm機関砲を発射した。
わずか3発の射撃であったが、見事に2発が敵機の右主翼の付け根に命中。右主翼が切り離された機体はキリモミ回転をしながら落下する。そして、その敵機の直ぐ横を岩本の零戦が突き抜ける。
その際・・・。戦果確認のため撃墜した敵機を見ていた岩本は、その敵機のパイロットと目が合った様な気がした。
岩本の寮機も次々に敵編隊に突入。通り魔の如く撃墜していった。
攻撃を受けたヨル空軍は・・・。
「散開しろーっ!!」
敵機の射線から逃れる冷静な対応に見えたが、その実は予想外の上空からの襲撃に慌てふためき散り散りになっただけであった。
「岩本に遅れを取るなぁ。」
そんな状態のヴァリアンに第2中隊を指揮する『西沢広義』や第7中隊の『赤松貞明』等の零戦は容赦なく襲い掛かる。
「振り切れーーっ!!」
ヴァリアンは距離を詰められないように、加速、上昇、急旋回を繰り返すが、零戦はピッタリと付いてくるうえ、失速するヴァリアンの旋回の内側に入り込み・・・。
「何だ奴の旋回は・・・ッ!?」
「堕ちろコノヤロォーッ!!」
7.7mm機銃を発射した。
撃ち込まれた銃弾は胴体からコックピットの窓にかけ一本の射線を入れた。そして線の終点となった窓の反対側は赤く染まった。
至近距離で発射された銃弾は窓を貫通し、パイロットの頭部に命中。そのまま頭蓋骨と脳細胞を破壊しながら頭部を貫通し反対の窓にまで穴を開けた。
バランスを崩しても、機体を操るものが居なくなれば木の葉の様に堕ちていくだけ。
零戦は・・・。
<いったん攻撃を仕掛けたら、必ず完遂せよ。>
<充分に接近して、敵機を真正面に捉えた場合にのみ射撃せよ。>
<敵機を見失わないように常に心掛けよ。そして、決して敵の策略には惑わされるな。>
<どんな攻撃においても、敵の後方から攻撃することが鉄則である。>
を忠実に守り、損害を受けることなく一方的にヴァリアンを撃墜していった。
対するヴァリアンは・・・。
<敵が降下攻撃を仕掛けてきたら、これを回避しようとせず、敵に正対するように飛行せよ。>
初激に対する対応を誤り、ヴァリアンが不利なドッグファイトに持ち込まれことが大敗の原因となった。
自軍の大敗を見たメルダース中佐は撤退を決めた。
「全機急降下!撤退しろ!!」
数を大きく減らされ、今となっては速度と急降下耐性でしか敵わない。
生き残ったヴァリアン60機余りは高度を一気に1000m以下まで下げそのままウィッシュビー空軍基地まで一目散に逃走した。
不思議なことに敵機の追撃は無かった。
<敵地上空においては、常に退路を考慮せよ。>
岩本は追撃を中止させた。戦闘において自機の位置を把握できなければ、たちまち敵の大軍に囲まれ袋叩きに遇う。
そんなことになれば大損害は必至。今作戦の計画全てに影響を及ぼしかねない。
「全機集結せよ。」
「んで?これからどうすんすか?」
敵機4機撃墜と『撃墜王』の称号に王手をかけた零戦第11中隊の隊長『菅野直』に次の行動の如何を問われた。
「残弾、燃料を確認。危ない奴から先に帰艦しろ。」
集計の結果、150機の内100機はまだ1回の空戦が可能であった。
そしてすぐさま新しい戦場が舞い込んできた。
「<こちら艦爆隊、敵機多数見ゆ!救援を求む!>」
零戦隊は敵の目を晦ます為あえて大陸の西よりを飛行していた。しかし北を飛行していた爆撃隊に敵が攻撃を仕掛けようとしていた。
無論護衛は付いているが、その数はわずか30機。零戦と戦ったほどの数に出くわしたら・・・、全滅しかねない。
「全機反転、進路0-3-8!爆撃隊の援護に向かう!!」
迷う理由など無かった。




