予期せぬ損害
爆撃隊に攻撃を仕掛けたのは150機のヴァリアン。零戦150機と交戦したのとはまた別の部隊であった。内60機は護衛に就いていた零戦30機の足止めに従事した。
数の上では九九艦爆と九七艦攻を合わせ300機を越える爆撃隊が有利であろうが、爆弾を抱えた状態ではろくな回避飛行も取れない。機銃座で牽制するのが関の山であった。
既に100機近くが落とされ、このままでは基地破壊に効果的な攻撃どころか半数が辿り着けるかどうかも分からなかった。
「全機爆弾投棄!反転し撤退せよ!!」
友永大尉は撤退を命令。空母へと向かった。
岩本らの零戦隊100機が空戦空域に到達したのはその直後だった。
「爆撃隊は撤退しているな。」
「援護するぞ。1機でも多く守るんだ!」
零戦の接近を察知したヴァリアンも撤退し始めた。
「敵戦闘機隊飛来!数およそ100!」
「潮時だな。退くぞ!」
爆撃隊が少なからずの被害を受けたにもかかわらず、敵機には逃げられ尚且つ敵飛行場は破壊できていない。第2戦は日本軍の敗北といえよう。
一方、昨日のうちにワーシュラット大陸西部の『モロー海岸』に上陸した陸戦隊5000人は海抜約5mの内陸50kmまで進出。さらに上陸地点を見下ろすことの出来る『ワルー山』を占領し、後続の陸軍1個師団も上陸し進撃を開始した。
だが、そんな帝国陸軍の前に最強の敵が立ちはだかる。
まず、50km内陸に進出した海軍陸戦隊5000人が、ヨル陸軍の1個機械化歩兵師団とモロー海岸とミヘルベット空軍基地の間に広がる『ゴトマ平原』で交戦に入った。
戦況は三八式小銃しか装備していない陸戦隊に対し、ヨル陸軍は装輪装甲車や装甲ハーフトラックを前面に押したて、陸戦隊を徐々に追い詰めていた。
ヨル=ウノアージン聖皇国の装輪装甲車『スペーナン』は、機械化された歩兵部隊にとってなくてはならない存在である。
装甲は地魔法を宿し厚さ2mmに加工したプレートを5mmの均質圧延鉄板で挟んだことで実質的な装甲は20mmになり、これを全周に施している。
速度は整地で90km/hで独立懸架サスペンションに4WDを搭載することで不整地でも60km/hと快速を誇っている。
武装は20mmの機関砲と7.92mmの機関銃を装備している。
装甲ハーフトラック『タックトン』もまた歩兵の相方的存在であった。
装甲はスペーナンに遠く及ばないものの、距離300mから撃たれた小銃弾ぐらいは跳ね返せる。
速度は半装軌であったが、このおかげで整地でも不整地でも55km/hを出せる。
武装は7.92mm一丁だけであるが、その機動力に加え完全武装の歩兵10名を乗せる事が出来る高い輸送力を持っていた。
その完全武装の歩兵は、一例として突撃銃『ゲーヴェア』とその30発マガジン10個に拳銃『ワルーザ』と8発マガジン5個に4発の手榴弾、3日分の食料と携行させた状態のことを言う。
この場合突撃銃で主武装あるが、半自動小銃『バイゼン』や短機関銃『シュマーザ』を装備していても同様である。
そしてこれらで編成される機械化歩兵師団は人員約1万。装甲車150台。装甲ハーフトラック500台。
量も質も帝国海軍陸戦隊を凌駕していた。
「全軍撤退!撤退しろー!!」
戦線を圧迫された陸戦隊は撤退を余儀なくされた。
撤退戦は作戦行動で最も困難な戦術で、一斉に撤退しようものなら敵軍の追撃に遇う。反対に散発的に撤退しようものなら撤退後の部隊再編に時間がかかる。
とは言え、後方の陸軍への被害のことを考えれば集団撤退は愚策であり、中隊ごとに撤退を始めたが・・・。
「戦車だ・・・。戦車が来たぞー!」
帝国陸軍の新型中戦車『一式中戦車チヘ』が前線に到着。陸戦隊は随伴歩兵と共に反撃に移った。
日本陸軍の新型中戦車、チヘは『和製Ⅲ号』とも言える強力な戦車であった。
主砲は前任の九七式中戦車チハ改から流用した47mm砲で、1000m離れていたとしてもスペーナンの装甲を貫通することが出来る。
装甲はチハ改を大きく上回る45mmで20mm機関砲では200m以内まで接近しなければ貫くことは出来ない。
また、チヘと歩兵の支援を新型軽戦車『一式軽戦車ケニ』が行う。
ケニもまた『和製Ⅱ号』ともいえる性能であった。とは言え砲塔には機関砲ではなくハ号から流用した37mm砲を装備していた。
チヘの放つ徹甲榴弾はヨル聖皇国の装甲車や装甲ハーフトラックの正面装甲を意図も簡単に貫通し、その炸薬量の多さから敵歩兵にも絶大な効果を発揮した。
「このまま押し込めー!」
戦車の後押しを受け、日本軍はミヘルベット空軍基地の西、約10kmにまで進軍した。
だが、戦車が後詰として参加したのは日本軍だけではなかった。
「敵戦車・・・、デカイぞ・・・。」
快進撃を続けるかに思われた日本軍の前に、巨大な2種類の鋼鉄の塊、中戦車『パルサー』と重戦車『ティガール』が立ち塞がった。
ダガンッバゴンッ
ヨル聖皇国陸軍の中戦車『パルサー』は同国で最も生産数の多い戦車である。
主砲は脅威の72口径75mm砲で、チヘの正面装甲を2km以上離れていても貫通することが出来る。
それでいて速度は50km/hと快速であり、装甲もまた55度に傾斜さ、地魔法プレートを40mmの均質圧延鉄板で挟んだ実質130mmの装甲を持っている。だが側面は60mm、背面に至っては40mmしかなくここならチヘでも貫通することが出来る。
そして、そんな中戦車パルサーを束ねるのは、ヨル聖皇国の新型重戦車『ティガール』である。
ティガールもまた恐るべき戦車で、主砲の60口径88mm砲はパルサーの正面装甲ですら弾く事は難しい。
装甲は垂直に近かったが、それでも60mmの均質圧延鉄板で地魔法プレートを挟んだ実質150mmの装甲は日本陸軍のありとあらゆる火砲の貫通を許さない。
正しく陸戦の王者の名に相応しい、ヨル聖皇国の切り札であった。
ティガールとパルサーから距離800mで放たれたAPDS(装弾筒付徹甲弾)はチヘの正面装甲を貫き、車内の乗員を粉々に粉砕しながらエンジンさえも破壊し、背面装甲を突き破り遥か後方に着弾し爆発する。
対するチヘの徹甲榴弾は爆発こそ起こすが、ティガールとパルサーの乗員からすれば目晦ましにもならないほど全く効果が無かった。
全戦線でチヘを葬ったティガールとパルサーは日本軍の随伴歩兵を蹴散らしながらモロー海岸に突進していった。
途中、日本軍の速射砲や機動野砲の砲撃を受けたが持ち前の装甲で簡単に弾き返し、反撃として榴弾を発射し撃破した。
だが、海岸まであと数kmと言う所で進撃の足を止められた。
「艦砲射撃か・・・!!」
ティガールが撃破されたのだ。その張本人は海軍の重巡洋艦『鳥海』であった。
陸軍の野砲はティガールの前では無意味であったが、20.3cm砲弾を食らってはひとたまりも無い。
「空軍は何をやっている!?さっさと敵艦船を沈めんか!!」
「先ほどようやく瓦礫の撤去が70%終了しました。残りの瓦礫の撤去と滑走路復旧にはあと3日ほど掛かります。」
「クソが!!」
戦車隊長はいきり立ったが、艦砲射撃の中に入るわけには行かず、射程圏外まで後退した。
空母『翔鶴』・・・。
空母7隻からなる機動艦隊はルリエナス海峡の出入り口付近まで南下し、零戦50機が着艦しようとしていた。
そこに岩本から電文が入った。
「高速航空機が接近中。注意されたし。」
航空機が高速なのは当たり前であったが、海軍最速の零戦を超える航空機が居るはずがないという認識と、岩本が虚偽の報告をする筈が無いのとが重なり、航空参謀以下、電文を聞いた者すべてが困惑の表情を浮かべた。
「何かが向かってくる!恐ろしい速さだ!」
岩本と同じ報告を艦橋見張り員が叫ぶ。
その直後、雷鳴の如き轟音を轟かせながら艦隊の上空を通過する航空機が現れた。
その機体、全9機にプロペラは無く、海軍の一同を驚愕させた。
機動艦隊に襲い掛かったのはヨル聖皇国の最新鋭ジェット戦闘機『アラドーラ』であった。
機動艦隊の位置は航続距離1500kmのアラドーラが配備されたウィッシュビー空軍基地からは1000km近く離れていたが、空軍大臣ゲスペルが魔力暴走を覚悟で敵艦隊に打撃を与えよ、との直々に命令を下した。
アラドーラにもヴァリアン同様、魔力の補助としてジェット燃料が使われていたが、これを全て濃縮した火と風の混合魔力にすることで航続距離を2倍にすることが出来た。だが裏を返せば魔力暴走を引き起こす確立も2倍になるという事だ。
現に機動艦隊と会敵できたのは32機中たったの9機であった。
「対空掛かれ!撃ち落すんだー!!」
それでも時速900km/hは脅威以外の何者でもなく、帰投中の零戦隊や爆撃隊を抜き去り、一気にここまで到達した。
「敵戦闘機を乗せている船が在る。アイツをやるぞ!」
3機ずつの編隊に分かれたアラドーラは、それぞれ空母『祥鳳』『龍驤』『翔鶴』の艦尾側から襲い掛かった。
12.7cm高角砲や25mm連装機銃の弾幕ではアラドーラに傷一つとして与えることは出来ず、機首に集中配置した20mm機関砲4門の雨によって着艦したばかりの零戦が破壊され、爆発し、飛行貫通した曳光弾の一部が航空機用燃料に命中し燃え上がった。
「消化急げーー!」
狙われた3隻の空母はいずれも撃沈とまでは行かなかったが、飛行甲板が炎上し、艦載機の発着艦ができなくなった。
「ふんっ。ざまぁ見ろ。」
そのまま撤収しようとするアラドーラであったが・・・。
「<バフマン!上だ!!>」
「何っ!?」
気づいた時には既に遅く、零戦は目の前わずか30mに達する所まで接近していた。
「堕ちろーーっ!!」
バフマンのアラドーラに7.7mm機銃と20mm機関砲が多数命中。主翼が捥ぎ取れ渦を巻きながら海面に向けて堕ちて逝った。
帰投して来た零戦はすぐさま戦闘に移り、圧倒的な数の多さでアラドーラを取り囲んだ。
いくら高速のアラドーラといえど、運動性能は双発機と大差ない。ここでも格闘戦に持ち込まれれば撃墜もありえた。
「くっそぉ・・・!」
リーデンは15機の零戦の波状攻撃を受けていたが、奇跡的に被弾は無く、降下と加速で零戦を引き離しに掛かった。
しかし・・・。
ピピピピピピピピピピピ
コックピット内に警報音が鳴り響く。速度計や高度計、残燃料計の長針と短針が狂ったように高速回転を起こし、操縦桿も硬直し、全く動かなくなった。
「魔力暴走・・・!こんな時に・・・!!」
力の限り操縦桿を引き、回転しながら真っ逆さまに海面目掛け落下する機体を立て直そうとするが・・・。
「うああぁぁぁぁぁ-」
その努力も空しく、リーデンは愛機と共に海中に没した。
最終的にウィッシュビー空軍基地に辿り着けたのはたった1機だけであった。
また、バフマン機を落とした菅野は撃墜数5機のスコアを叩き出し『撃墜王』となり、世界初のジェット戦闘機撃墜者となった。
とは言え、アラドーラの攻撃を凌いだ日本海軍であったが、3隻の空母が使用不可能となっただけでなく、ウィッシュビー空軍基地のヴァリアン200機とパルーガⅡ150機が健在であり、前日に破壊したミヘルベット空軍基地もいつ稼動を再開するか分からない。
「旗艦に伝えよ。撤退だ・・・。」
陸軍もまた完全武装の1個師団を失っている。
制海権が取れていても制空権は劣勢、陸戦ではヨルの戦車を撃破する術はなく、このままでは悪戯に損害を増やすだけであった。
モロー海岸の沖合いから鳥海が睨みを利かせているうちに、陸軍と陸戦隊の残存兵は物資集積所を焼き払い海岸から撤収を完了。日本軍は第1海洋界から撤退した。
その道すがら、着艦できなくなった艦載機は機首を西に向け滑空していた。燃料も使い果たした艦載機は次々にルリエナ洋に不時着。パイロットは駆逐艦が拾い、人的損失を出すことは無かった。
日本軍の損害は・・・。
陸上部隊:陸軍1個師団と海軍陸戦隊2個連隊、計3万。戦車64両。大砲140門。
艦艇:大破、空母3隻。重巡1隻。
航空機:200機以上。
ヨル聖皇国軍は・・・。
陸上部隊:1個機械化歩兵師団、計1万。装甲車及び装甲ハーフトラック500台。
艦艇:撃沈50隻。(蒸気帆船は含まれていない)
航空機:500機以上。
大日本帝国はヨルを降伏させることが出来ず、またヨルも海軍が壊滅している状況で日本本土に逆襲など出来ない。
戦争は膠着状態となった。




