ルリエナ海戦6
帝国海軍 第1水雷戦隊旗艦『阿武隈』・・・。
「敵、水雷戦隊接近!」
マーマガルハ海戦で活躍した第2水雷戦隊とは違い、艦隊の護衛が主任務の1水戦には新鋭の駆逐艦は配備されておらず、殆どが『吹雪型』などの旧式の駆逐艦しか配備されていない。
「右舷、魚雷戦用ーー意っ!!」
だが、いくら旧式艦といえどその装備はヨル聖皇国の駆逐艦とは比べ物にならない。
ヨル艦隊の駆逐艦は全て『マーリア級』で、武装は主砲の12cm単装砲4基のみで、速力は戦艦に合わせ28kt程度。これでもヨル聖皇国の中では最速の部類に入り、簡素な造りのおかげで大量生産に向いている。
だが相対する日本海軍の主力駆逐艦である『吹雪型』は、12.7mm連装砲3基を主砲に、速力は脅威の38kt。さらには、決定的違いとして2基の三連装魚雷発射管を備えていた。
つまり、ヨル海軍のマーリア級は火力も速力も日本海軍の吹雪型に劣り、雷撃力は有無の差であった。
そもそも日本とヨルでは駆逐艦の役割が違う。日本は対米戦術『漸減作戦』において、超射程の酸素魚雷で米海軍の戦艦を撃破することを目的に建造されているが、ヨルの場合、各国の大使館及び領事館の防衛、第1海洋界の常時警戒と反乱分子の抑制が主な任務である為、海戦には不向きである。
「てっーーー!!」
圧縮空気の白い煙に押し出され、1隻当たり6本の魚雷が海中に投下され敵艦隊目掛け突き進む。
魚雷は艦艇に致命的な損害を与える。もし敵艦が魚雷攻撃をしてきたら何が何でも回避しなければならない。だがヨル聖皇国海軍の艦艇は回避行動を取るどころか、同航戦の形を取り交戦の構えを見せる。
ボゴォン
当然被雷する。
およそ20隻いたうちの7割が横転し沈没。
圧倒的な超射程を高威力を誇る九三式酸素魚雷は、魚雷発射管から撃ち出されると水面下を時速48ノットと高速で突き進み敵駆逐艦の船体を真っ二つに圧し折し、後方で撤退中の敵本隊にも被害をおよぼした。
「高速で離脱!敵艦隊の側面に回れ!!」
魚雷を撃ち終わってもまだ主砲が残っている。休日返上で猛訓練に励んでいる帝国海軍からしてみれば、駆逐艦であっても敵の巡洋艦と充分に撃ち合える能力を持っているが、今回は撃滅戦術に基づきヨル艦隊に対する止めを重巡洋艦と戦艦に刺して貰うため、また航路と射線を確保と帆船殲滅のため、水雷戦隊は左右に分かれた。
第3戦隊 戦艦『金剛』・・・。
水雷戦隊が形成した突破口目掛け、戦艦と重巡が突撃する。とは言え、密集陣形の真ん中から食い破る為至近距離の砲撃戦になる。なので大口径主砲は使えない。金剛を含めた戦艦群は副砲と高角砲での戦闘を余儀なくされたが、それらだけでも敵艦を葬るには充分であった。
「水雷戦隊離脱。正面に突破口。」
「突破口に向け、全軍突撃!左舷砲戦用意!」
金剛率いる第1縦列戦闘群の右隣、姉妹艦『比叡』率いる第2縦列戦闘群もまた同様に戦闘体勢に入った。
ヨル海軍 重巡洋艦『エリーザベトガツゥル』・・・。
ヨル艦隊は敵駆逐艦を迎撃に動いた高速戦隊は敵艦から発射された水中爆弾で殲滅され、撤退中の艦艇にも被害が出た。
そして、敵巡洋戦艦の突破も許し、戦意は極限まで低下。戦う意思の無い事を示すためメインマストの戦闘旗を下ろす艦も現れる始末であった。だがその行動にも納得がいった。逃げられないならせめて戦わないようにしなければ、そうしなければ己が死ぬのだから。
「敵戦艦の前に出ろ!」
それでも残った3隻の重巡洋艦を中心に抵抗を続ける。
「それでは敵艦に横腹を-」
「構わんっ!!全速!!」
敵艦首に対し直角に船体を当てることで前部と後部の主砲を使用できる。とはいえ被弾面積が増すがそんなことはどうでもよく、死兵となって敵艦隊の足を止めるたえの石になることが彼らの存在意義となっていた。
帝国海軍 第2縦列戦闘群 重巡洋艦『高雄』・・・。
「敵重巡接近!我々の進路塞ごうとしています。」
「面舵35!左舷、砲雷激戦用ー意!!」
エリーザベトガツゥルと高雄も、駆逐艦と同様、エリーザベトガツゥルは20.3cm連装主砲を4基のみ装備するのに対し高雄は同性能の連装主砲を1基多く5基、そして四連装魚雷発射管を4基備えている。更に乗員も休日返上の猛訓練で錬度はそもそも比較にならない。
だが士気の面では死兵となったエリーザベトガツゥルの乗員の方が上回っていると言える。
そして、高雄とエリーザベトガツゥルは主砲を左に直角旋回させ、反航戦ですれ違い様に・・・。
「撃てーーッ!!」
「撃てーーッ!!」
両艦長はほぼ同タイミングで砲撃を開始した。
互いの威信をかける砲撃戦。高雄もエリーザベトガツゥルも持てる火力全てを敵艦に向けて撃ち放った。だが、高雄は5基の主砲のみならず、高角砲に魚雷まで持ち出すので手数は圧倒的であった。
そして、この撃ち合いに終止符を打ったのは勿論・・・。
ボゴォォォォオオオンン
魚雷の存在であった。
「敵重巡、轟沈!」
エリーザベトガツゥルを沈めた高雄であったが、左舷側の中央部に大きな被害が出ていた。幸いにも機関部まで貫通されるということはなかった。
「敵が使用していたのは恐らく榴弾でしょう。徹甲弾を用いられていたら我が艦も唯では済まなかったでしょう。」
「そうだな。被害は?」
「左舷第1甲板炎上により高角砲、魚雷発射管使用不可能。中破と認定します。航行に支障はありませんが、再び死兵と合間見えるとなった場合、本艦も撃沈される恐れが有ります。」
第1甲板の炎上だけで済んだが、それでも同じ場所に集中砲火されればいずれは機関部まで届きかねない。もし敵弾は機関部に命中すれば、高雄は中心部から真っ二つになる。艦長はそう考えただけで身震いを起こす。
「止むを得んな。戦闘継続可能でも撃沈されれば元も子もない。これより本艦は戦闘水域より離脱する。反転180度。」
「宜候。」
高雄は撃沈回避のため離脱したが、死闘を繰り広げたエリーザベトガツゥルに生存者は居なかった。
高雄を欠いたものの、群としての戦闘は継続され各戦艦や重巡は20.3cm主砲、15.5cm副砲、12.7cm高角砲でヨル海軍の軽巡洋艦と駆逐艦を血祭りに上げていき、水雷戦隊も外周の蒸気帆船に砲撃や銃撃を加え片っ端から破壊していった。
第2航空戦隊 空母『飛龍』・・・。
第1次、第2次攻撃隊が帰艦し既に再攻撃の準備に取り掛かっていた。
「本当に雷装でよろしいのですか?」
友永大尉は再攻撃にも九七式艦上攻撃機の武装は九一式航空魚雷とした。
整備員からは駆逐艦や軽巡に対して過剰火力ではないかと言われたが、友永大尉が雷装を指示したのは海戦後に控える敵航空基地の破壊のために800kg爆弾は必要不可欠と考えた為だ。
「すべこべ言わずさっさと装着しろ。」
第3次攻撃隊は戦闘機75機、雷装攻撃機170機の編成となった。
『全機発艦準備!!』
第1次、第2次と同様、攻撃機、戦闘機の順でエレベータに乗せられ飛行甲板に並べられる。
海戦の戦果を拡大かつ確実なものにする為、栄エンジンを轟かせる。




