↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一刀両断 Severing the Smile  作者: eno
儀式の崩壊編
6/17

プロローグ 『スマイルの王』

 我(われ)がいた故郷は、常に鉄と錆(さび)の匂いがしていた。

 空には二つの月が浮かび、大地は枯れ、生き残った者たちはただ互いの《核》を奪い合う。そこは、永遠の闘争の世界だった。

 その世界では、人間たちが好むような「飛び道具」など、無意味な玩具に過ぎない。

 我々の皮膚は、あらゆる衝撃を吸収し、瞬時に再生する。

 唯一、我々に「死」を与えることができるのは――同じ硬度、同じ鋭さで《核》を両断する「剣」の一撃のみ。

 ゆえに我々は、己の四肢を刃に変え、あるいは鋼を鍛え、剣技を磨き続けた。

 強き者が喰らい、弱き者は糧となる。

 それが絶対の理(ことわり)だった。

 あの日も、そうだった。

 我は、我の同種でありながら、弱き者を守ろうとした「裏切り者」と刃を交えていた。

 互いの剣が核を捉えようとした瞬間、激突のエネルギーが臨界点を超え、時空に亀裂が走った。

 我らはもつれ合うようにして次元の彼方へと吸い込まれた。

 ――気がつけば、我はこの極東の島国に墜落していた。

 お前たちの暦(こよみ)でいう、「平安」と呼ばれていた時代だ。

 裏切り者は、既に動かなくなっていた。

 奴の核は砕け、再生能力を失っていた。

 我は、その砕けた核の残骸を拾い上げた。

 かつて我に刃向かった愚か者の末路。その無様な姿を、我が勝利の「戦利品」とするために。

 我は奴の欠片(かけら)を我が虚無の中へと取り込み、永遠に飼い殺すこととした。

 だが、我もまた深手を負っていた。

 当時のこの星は、あまりにも「静か」すぎた。

 我々の糧となり、仲間を呼び寄せる「ゲート」を開くためのエネルギーが、圧倒的に足りなかったのだ。

 ゆえに、我は潜んだ。

 だが、ただ闇に蹲(うずくま)っていたわけではない。

 我はこの地の人間たちが抱く「畏怖」を利用し、荒ぶる「祟り神」を装った。

 村々から、鎮めのための供物が運ばれてくる。

 その中でも、我(われ)が特に求めたのは「生贄の女」だった。

 彼女らは、我の飢えを満たすだけの餌ではない。

 我は彼女らの胎内に、微小な《核》の欠片(かけら)を埋め込んだ。

 脆弱な人の身を苗床(なえどこ)とし、我と同質の化け物を産ませるために。

 そうして産み落とされた眷属(けんぞく)どもを、我は各地へと散らせた。

 奴らもまた、それぞれの土地で土着の「神」や「妖怪」として振る舞い、人を攫(さら)い、苗床として数を増やし続けた。

 人間どもが「神隠し」と呼び、恐れ慄(おのの)いた現象。

 その全ては、我らによる捕食と繁殖の儀式に過ぎぬ。

 無論、我の真の姿――仮面の下にある虚無を直視した愚か者は、例外なくその場で始末した。

 歴史の影で人間を苗床として弄び、腹の中で「戦利品」を転がしながら、我は待ち続けたのだ。

 あれから千年。

 人間たちは繁殖し、我らが蒔いた種もまた、日本全土の闇で芽吹いている。

 大気には電気信号が満ち、都市は不夜城のごとく輝いている。

 そして愚かなことに、彼らは我々の天敵である「剣」を捨て、銃火器への依存を深めていた。

 

 今、機は熟した。

 この星は、我々にとって極上の「狩り場」へと育った。

 さあ、目覚めの刻(とき)だ。

 この柔らかな世界を蹂躙し、我が故郷の同胞たちを招き入れよう。

 かつて我を阻んだ「裏切り者」は、もういない。我が腹の中で朽ちている。

 この世界に、我の首を断てる剣士など、存在するはずもないのだから。

 人間どもよ。

 精々、その顔に絶望を張り付かせて笑うがいい。

 我ら種族《スマイル》の糧となるために。


(プロローグ 完)


次回予告:第6話『他流派の流儀』


正式にC班へ配属された乃亜を待っていたのは、他流派との合同任務だった。


現れたのは、A班、狛流(こまりゅう)のエリート部隊。


「君が噂の不死身君か? ……品がないね」


圧倒的な実力差と、華麗なる「正統派」の儀式。


乃亜は、自分がいる場所の底辺さを痛感しながらも、戦場へと向かう。


だがそこで、エリートたちの「綺麗な剣」が通用しない事態が発生する。


次回、一刀両断 第6話『他流派の流儀』


「教科書通りにやって、死ぬつもりか?」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。