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一刀両断 Severing the Smile  作者: eno
儀式の崩壊編
15/17

第14話 軍師たちの密会

 深夜0時。

 大和基地の最深部にある「第0会議室」。

 そこは、物理的な壁に囲まれた完全な密室であり、あらゆる通信が遮断された空間だった。

 円卓を囲むのは、10人の男女。

 彼らこそが、人類の頭脳。

 各流派(スクワッド)を指揮し、隊員たちの命をチップとして運用する「軍師(タクティクス)」たちである。

「――定刻だ。始めよう」

 議長席に座るC班(灰賀流)の標慎二が、氷のような声で開会を告げた。

 部屋の照明が落ち、円卓の中央にホログラムが浮かび上がる。

 映し出されたのは、あの「雨中の戦闘」におけるスマイルのデータだ。

「単刀直入に言う。スマイルは進化した。

 奴らは『一刀両断』のからくりを理解し、こちらの弾切れ(リソース枯渇)を狙う戦術行動を取り始めている」

 標の言葉に、円卓がざわめくことはなかった。

 ここにいるのは、感情よりも計算を優先する怪物たちだ。彼らはただ、値踏みするようにデータを睨んでいる。

「ふん。だからどうした?」

 退屈そうに足を組んだのは、B班(刹那流)の軍師、**九条(くじょう) 結(ゆい)**だ。

 彼女は長い爪をいじりながら、鼻で笑った。

「奴らが賢くなった? 結構じゃない。待ち伏せでも何でもさせておけばいい。

 ウチの『刹那流』は、奴らが思考するよりも速く斬る。0.1秒で終わる戦闘に、戦術もクソもないわ」

「野蛮だねえ、九条ちゃんは」

 茶々を入れたのは、E班(緋月流)の軍師、**墨須(すみす)**だ。

 サングラスをかけ、不敵な笑みを浮かべている。

「賢くなったってことは、『恐怖』以外の感情も芽生えてるってことだろ?

 もっとエグい追い込み方ができるじゃないか。絶望させて、泣き叫ばせて……あぁ、ゾクゾクするね」

「……非生産的な議論はやめろ」

 G班(玻璃院流)の御影 玄が、眼鏡を光らせて制した。

「問題は、奴らの学習速度が『自然進化』のレベルを超えている点だ。

 バックグラウンドに、強力な統率個体――『王(キング)』が存在する確率が高い」

 王(キング)。

 その単語が出た瞬間、場の空気が変わった。

「王、ですか……」

 穏やかな、しかし底知れない声が響いた。

 F班(神代流)の軍師、**志島(しじま)**だ。

 彼は柔和な糸目で、手元の数珠を弄んでいる。

「もし本当に王がいるのなら、我々の『儀式』は滑稽な一人芝居だったことになりますね。

 王は知っている。我々が必死に『一対一なら生き残れる』という嘘をついていることを。

 ……すべてお見通しの上で、人類を泳がせていたとしたら?」

 志島の言葉に、沈黙が落ちた。

 それは恐怖ではない。

 プライドの高い軍師たちにとって、自分たちのシナリオが「駄作」扱いされていたことへの屈辱だった。

「……気に食わねぇな」

 I班(逆廻流)の軍師、白洲 透馬が舌打ちをした。

「俺たちのハッキングが、逆にハッキングされてたってか?

 上等だよ。その『王』とやら、俺の盤面に引きずり出して、脳味噌バグらせてやる」

 標は、ヒートアップする軍師たちを見渡し、冷ややかに言った。

「感情論は捨てろ。

 今日集まってもらったのは、対『王』用の新戦略(ストラテジー)を策定するためだ」

 標がホログラムを切り替える。

 そこに表示されたのは、これまでの「安全な儀式」とは異なる、リスクの塊のような作戦図だった。

「これまでの『恐怖による固定』は通じなくなる。

 ならば、次のフェーズへ移行する。

 奴らの『知性』を逆手に取るんだ」

「ほう?」

「奴らが『生存確率』を計算するなら、あえて計算式に『穴』を作ってやる。

 わざと隙を見せ、誘い込み、カウンターで仕留める。……ただし、この作戦にはリスクがある」

 標は淡々と告げた。

「囮(デコイ)となる隊員死亡率、推定40%上昇」

 40%。

 それは軍事的には「全滅」と同義だ。

 だが、この円卓にいる者たちは、眉一つ動かさなかった。

「安いものね」

 D班(氷室流)の軍師、**凪野(なぎの)**が呟く。

「勝てるなら、隊員の半分が死んでも構わない。……要は、最後に王の首が取れればいいんでしょう?」

「同意する」

「異議なし」

 次々と賛同の声が上がる。

 彼らにとって、隊員は数字だ。名前のある人間ではない。

 勝利という解を導き出すための、変光星のような変数に過ぎない。

「……決まりだな」

 標が会議を締めくくろうとした時だった。

「クク……クククッ」

 不気味な忍び笑いが聞こえた。

 全員の視線が、円卓の隅に向けられる。

 そこには、今まで一言も発していなかった男がいた。

 J班(禍津流)の軍師、祝部(はふりべ) 朔(さく)。

 顔の半分を包帯で覆った、異様な風体の男だ。

「何がおかしい、祝部」

 標が鋭く問うと、祝部は包帯の隙間から、濁った瞳を覗かせた。

「いやぁ、頼もしいなぁと思ってねぇ。

 みんな、王を『倒す』ことしか考えてないんだもの」

「……どういう意味だ?」

「王だよ? 異星の神だよ?

 殺すなんてもったいない。……捕獲して、解析して、その力を『我々のもの』にできれば、人類はもっと進化できると思わないかい?」

 祝部の言葉に、狂気が滲む。

 打倒ではなく、利用。

 それは禁忌の思考だ。

「J班(ウチ)の『呪術』はね、精神汚染が得意なんだ。

 王の脳ミソ、覗いてみたいなぁ。どんな地獄が見えるのかなぁ……」

「……祝部。貴様、まさか独自に動いているのか?」

 標が詰め寄ろうとした瞬間、会議室の照明が点灯した。

 時間切れだ。

「おっと、お開きだねぇ」

 祝部はふらりと立ち上がり、出口へと向かった。

 すれ違いざま、標の耳元で囁く。

「C班のあの『不死身の新人』……いいねぇ。王への供物に最高だ。

 大事に育てておいてくれよ、標ちゃん」

 祝部は高笑いを残して去っていった。

 残された軍師たちの間に、不穏な空気が漂う。

 王という共通の敵が現れたにも関わらず、人類側の意思は統一されていない。

 それぞれの思惑、野心、そして狂気。

「……やれやれ」

 標は眼鏡を外し、深く溜息をついた。

 敵は外だけではない。

 この円卓こそが、もう一つの戦場だ。

「御影。J班の通信ログを洗え。……裏で何かやってるぞ」

「了解。まったく、気が休まる暇がないね」

 モニターの光が消える。

 闇に戻った会議室で、標は一人呟いた。

「戦争か。……生き残るのは、誰の計算式だ?」

(第14話 完)

次回予告:第15話『地下迷宮の攻略』

場所は地下鉄構内。

逃げ場のない閉鎖空間で、ついに「変則的な儀式」が試される。

そして、J班軍師・祝部の不気味な予言通り、灰賀乃亜に特殊な任務が降りかかる。

「C-3、前へ出ろ。……囮になれ」

人類が仕掛ける、初めての「誘い受け」。

だが、地下の闇には、まだ誰も知らない「王の眷属」が潜んでいた。

次回、一刀両断 第15話『地下迷宮の攻略』

「へぇ……人間にしては、いい匂いがするね」



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