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悪い魔法使いを捕まえるお仕事【コミカライズ連載中】  作者: 中谷誠 ▷7/15 コミカライズ1巻発売
五章 黄昏より愛を込めて

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ふらふら③

 結局、もう一つの魔具の元へ向かうのは明日になった。理由は明確、疲れているから。


 幹部戦闘員との激闘に酷いマナ中毒。そしてあの照射により生活魔具は停止し町も混乱している状態。魔物避けは機能しているというが、何があるか分からない。自分達の引き起こした事態を放って置けるほど、流石に図太くはなれなかった。


 幸いにも夕方には大半の生活魔具が復旧し、作動を再開していた。ハンネスの言っていたことは正しく、動作にも問題はない。しかし、強い揺らぎの影響か、通信魔具だけは動かないまま。本部と連絡が取れるのは、まだ先になりそうだ。


 あと、チェリアが俺の元に来ることはなかった。期待していたわけではない。身構えていただけだ。町が混乱し、それどころではなかったのだろう。少しだけ安堵してしまう胸に、軽い痛みを覚えた。


 流石にこの日の夜は睡眠魔法を使用した。流石に三日もまともに睡眠をとれないのは好ましくない。魔物避けは機能しており、シモンも前ほどの揺らぎはないと言っていた。だから多分大丈夫。そうやって言い訳をしながら久々の深い眠りに落ちた。



 そして、何事もなく朝日は昇る。


 出勤してきたユーゴは俺達を見て顔を引きつらせていた。


「あ、皆さん……おはよう、ございます」


 視線は宙を彷徨い言葉もぎこちない。それもそのはず、俺達は昨日の大混乱の原因なのだから。俺以外の三人もそれぞれ明後日の方向を向き、目を合わせようとしなかった。


「一応聞くけど、どうなった?」


 何が、とは言わない。町の警察が対応すべき案件が多すぎるのだ。必要な仕事の話に移った途端、ユーゴは表情を引き締めた。


「全て、上に報告しています」


 その言葉に、俺の肩が揺れる。ニギギに正体不明の魔具、そして町の機能停止。最後に関しては、処罰の覚悟もできている。


「正直、全て自分達の手に余る案件です。ニギギの捜索も魔具の調査もそのまま術師協会に対応して貰うのが良いでしょう」

「そりゃそうだな」


 国はニギギ程度に動いてくれないし、応援を呼ぼうにも初動はかなり遅くなる。魔具に関しては術師協会以上の専門機関はない。連絡を取りたくても取れないのが現状だが。


「それで、魔具の機能停止についてですが、」


 それまで俺を見ていたユーゴの瞳が逸れる。言い出しにくいのか、彼の唇は僅かに震えるだけ。ようやく開かれたかと思えば、浅い息が零れた。


「少なくとも、こちらから術師協会へ抗議を入れるつもりはありません」

「……理由を聞いても?」


 静かに理由を問うと、ユーゴはあまり良い顔をしなかった。


「皆さんが壊したことで町に被害が出たことは事実です。でも、あのまま放置していれば、いつかもっと大きな事件になっていたかもしれません。だから責任は問わないというのが上の方針です」

「そうか……」


 多分この問題は術師協会に調査を依頼するための交渉材料となるのだろう。けれども、それは行政間の取引であって市民の生活は関係ない。あの数時間、魔具を必要とする業務は止まり、損害も出ているだろう。補填がないことに納得できない気持ちは理解できるつもりだ。


「迷惑をかけた。悪かったな」


 口だけの謝罪でなんとかなるわけではない。けれども謝っておきたかった。かけられた言葉が予想外だったのか、ユーゴは一瞬表情を崩した。


「責めている訳では……いえ、そうですね」


 言葉を飲み込み、気まずそうに視線を下げる。その胸にあるのは不満だけはなく、別の感情が引っ掛かりとなっているようだった。本人でもまだ、整理がついていないのだろう。腹部の前で組まれた指だけが落ち着きなく動いている。


「専門機関を待たず調査を依頼したのは自分です。それに危険を顧みず、町の付近にいたニギギにも対応してくれました。手段は、ちょっと……乱暴でしたが」


 ユーゴは一度だけ深く息を吸い、手を止めた。少し間を置いて揺れた唇。そこには薄い笑みが浮かんでいた。


「だから、個人的には、皆さんにとても感謝しています」


 真っ直ぐに言われ、返す言葉を失った。礼を言われるようなことをした、という実感はない。俺達はいつものように戦って、いつものように周りに迷惑をかけた。

 なのに、そんな顔で感謝されるとどうも調子が狂う。やや居心地の悪さを感じ、頬を掻いた。


「……そう言われると、逆に困るな」


 それでも、厚意を無下には出来なかった。胸の奥に残る気まずさを押し込め、笑みを返す。普段通りの軽薄な表情を貼り付けユーゴに向かうと、張り詰めていた空気も最初の頃のものへと戻っていった。


「それで、皆さんはどちらに?」


 俺達を見てユーゴが問う。グラウスに戻るにしては軽装、この町に留まると見てからの疑問だろう。


「あー……」


 何を言うか迷い、零れたのは間の抜けた声だった。ようやくぎこちなさが解けてきたところなのに。伝えるべきか誤魔化すか。一瞬だけ考え、答える。


「もう一つ魔具があるらしくて、それを見に行ってくる」


 正直に言った途端、ユーゴの笑みが凍り付いた。数秒の間。誰も口を挟めないまま時間だけが経過する。


「……は?」


 ようやく発した言葉はその一音のみ。意味が分からないよな、俺達もそうだ。またもやユーゴの許容を越える出来事に思考は完全に停止していた。


「今回は壊さない。場所を特定するだけだ。約束する」


 とりあえず無理矢理話を進める。今回は本当の本当に、絶対に魔具へ手を出さないことを念頭に置いていることだけは知って貰わないと。


「いえ、心配なのはそこじゃなくて。え? 魔具がもう一つ?」


 ようやく動き出したかと思えば、激しく動揺していた。俺達一人一人に確認するように瞳を向けるが、誰もその話を否定しない。むしろ、誰も目を合わせようとはせず、順番に逸らしていく。その余所余所しさが、話が確かであることを裏付けた。ユーゴは俯き、暫しの間肩を振るわせた後、静かに顔を上げる。


「……分かりました」


 浮かぶのは清々しい笑顔。完全に思考を放棄したようだ。ただ受け止めるだけ受け止め、生じる感情は流していく。


「それじゃあ皆さん、お気を付けて」


 ユーゴの声は完全に温度を失っていた。理不尽な現実に適応した姿を見て、こちらまで悲しくなってくる。

 無心で手を振るユーゴに見送られ、俺達は警察署を後にした。今回ばかりは問題を起こさない、そう心に決めて歩き出す。

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