02-19.森での出会い
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リックとルチアをレミト村に送り届け、無事に小屋へ戻った一行はサームとレオに街であった騒動を含め、ここまでの事を全て話す。サームもレオも一様に厳しい表情でエルに申し訳ないと謝罪をした。
その中でレオの貴族になった経緯についてはダンから説明されていたが、サームに関してはエルボアやメルカに聞いても皆が口を揃えて「本人から聞くべきだ」と言う。なので、エルは意を決しサームに貴族の生活から今の森での生活になった経緯を問うた。
するとサームは順を追って今までの事を話してくれた。
元々はサームの父は王都で道具屋を営んでいた。父はエルフ族で母が人族。お互いに寿命の違いがある事も知りながら二人は生涯を共にする事を近い、父はエルフの里を出て王都で道具屋を構えた。エルフの伝統工芸品を扱いながら魔力に秀でていた父は冒険者や王宮の管理する魔道具の修理なども手掛け、だんだんと店は評判となっていった。
サームが生まれ大人となる頃には父の店は王都では有数の魔道具修理専門の店として名を上げていた。サームは王家の紹介で錬金術師の元で魔道具の勉強をしていた。そんな中で魔道具制作に必要なスキルに目覚めたサームは師の元で錬金術の勉強をしながら、父の店で魔道具修理を手伝うと言う生活を送り続ける。
サームが40歳となる頃に母が病気で亡くなり、父は店を閉めエルフの里へ戻り母の想い出と共に暮らす事を決めた。そのサーム親子の王都への長きにわたる功績を称え、国王は父へと爵位を用意していた。しかし、父は「そのお心をどうかこの先も王都で暮らす息子へと僅かばかりでも頂けるならば王への私への温情を私が死した後尚、エルフの里で語り継ぎましょう」と頭を下げ、サームは王より子爵の位を賜った。
その後、サームは錬金術工房を立上げ様々な魔道具を開発・販売し、人々の暮らしをより良いものへと変えていく努力を惜しまなかった。基本として魔石を使用する魔道具の開発と生活への普及は冒険者ギルドへの魔石採取の依頼も増加させ、それによって王都周辺を中心に魔物の発生を減少させる事にも繋がった。
そうして20数年ほどの月日が流れた頃、サームの開発した魔道具が軍事転用され帝国へと密輸されると言う事件が起こる。数自体は少なくその魔導具も帝国側に渡る前に押さえられた事から重大な事へとは繋がらなかったが、それを指示したのが王国の貴族であった事が発覚し、しかもその貴族がその話をサームから持ち掛けられたと証言をした事からサームの王国での立場は揺らいだ。
その頃には魔道具の専門家として王政で助言を求められるほどの地位になっており、魔石ランタンやその技術の街灯への転用やその他調理器具・運搬技術に至るまで庶民の生活にサームと父が関わった魔道具が無くては成り立たないほど浸透していた。サームも侯爵を新たに賜り、王都に豪邸を構えるほどの資産も手にしていた。
事の真相が分かるまでの間にサームへの追及が一部貴族から執拗に行われ、サームはどんどんと立場が悪くなっていた。それを庇ったのがオーレルだった。幼少時代にサームの父の店に通うのが好きだったオーレルは幼い頃からサームと仲が良く、それはサームが貴族となった後も変わらなかった。
そして、サームを王政から排除しようとする貴族勢力とそれに対する勢力とで王政の会議の場は二つに割れた。このままでは国民の生活にまで影響が出かねないと思ったサームは、魔道具の管理を怠った責任を取り爵位を返上し王都を去る判断を王へと願い出る。
しかし、王は長年の功績はもちろんサームがそのような事をするはずがないとサームに考え直すよう何度となく話し合いの場を持った。しかし、サームの意志は固く魔道具が軍事転用されてしまった事は事実であり、技術管理の徹底を出来ていなかった事への責任はあるとし身を引く考えは変わらなかった。
結果、王は王政への助言を今後求めないとし王都から出る許可も認めたが、爵位の返上だけは最後まで首を縦には振らなかった。その事を一部貴族から反対の意が出るが、王は「これは勅命である」としそれ以上の反論は認めなかった。
最終的な調査の結果、サームが軍事転用に関わった証拠は無く、それ以上に密輸に関わった貴族との繋がりがサームには無かった事からサームへの疑いは完全に晴れるが、その頃にはサームは既に幻霧の森に移り住んでおり、王都の住まいも整理してしまった後だった。
未だに王からは王政への復帰をと手紙を貰う事があるが、サームは今の生活が殊の外気に入っており気持ちだけ受け取り丁重に断り続けている。
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ここまでの話を聞いたエルは今までレオ達やサームと行動していた時の違和感の正体にやっと気付いた。いくらレオ達が白金冒険者とは言え、ワックルトの街の行く先々で丁寧過ぎるほどの対応を受けていた。サームが同行していた時に関しては全ての話がマスタールームでギルドマスター相手に行われていた。冒険者ギルドでその扱いならばレオ達が白金冒険者だからと理由は納得できるが、商業ギルドや薬師ギルドのレントの対応を見てもレオ達にと言うよりはサームに対しての対応が丁寧だったように感じていた。
エルはここまでにダン達からしっかり謝罪と説明は受けたので大丈夫とサームとレオに告げる。その顔を見て二人は安心した表情を浮かべる。
そして、今度はエルが真剣な顔でレオに向き合う。急なエルの真剣な表情にレオも困惑した表情で向き合う。当然、説明と謝罪をしなければならないのはエルも同じだった。講習会の場で起こしてしまった騒動をエルの口からレオとサームに報告し謝罪する。
サームは「冒険者としての指導はレオ達に任せている」とレオに対応を任せた。レオは厳しい表情でエルを見つめ、膝を折りエルと目線を合わせ手を握る。
「良いか?エル。その子を救おうとした。その一点においてはお前たち3人の気持ちを俺は凄く誇らしく思う。冒険者と言えど女性が男2人に囲まれるのは相当に不利だ。それが駆け出しなら尚更だ。でもな!ダン達が言うように選んだ手段が良くない。お前たちは何か争いごとが起きた時にすぐに力で解決する道を選ぶのか?相手の事情も分からず、自分達の印象だけで、ちゃんと調べる事もせず。」
エルはレオの言葉に心が抉られる思いだった。それはエルが最も嫌う、あの奴隷商たちが自分達奴隷に行ってきた事だった。エルは膝をつきぐったりと項垂れる。その肩をレオはそっと抱く。ゆっくりゆっくりと背中をさすりながら優しくレオは語り掛ける。
「良いか。確かに状況的には女の子は危ない状況だったのかも知れない。でも、そうなる前にリックとルチアに声をかけさせて時間を稼ぎ、その間にエルがザックや職員を呼んで来るって事も出来たはずだ。今回エル達が取った行動は最も簡単に場を治められる方法だったのかも知れない。しかし、それによってその女の子が男達に余計に恨まれる事になったら?エル達はその子と行動を共にしてる訳じゃない。その子が一人になった時に男たちが更に仲間を呼んで女の子を襲いに来たら?」
その言葉にエルは体を震わせる。考えていたつもりで何も考えていなかった自分達の行動が怖くなってしまったのだ。自分達がした行動が、行動を起こす前よりも女の子を危機的状況に置いてしまっている。
「エル。俺たちがお前たちに教えていた『自分の行動に責任を持つ』って言うのはこういう事なんだ。自分の行動でその先の未来にどういう影響を与えてしまうか、自分が正しいと思って取った行動がとんでもない騒動になる事なんて珍しくない。だから正しい行動を取る事を躊躇うなって言ってるんじゃない。その行動を取るなら最後まで自分の行動が起こした結末を見届ける覚悟を持てって事だ。」
「・・・・はい。」
「これから大人になっていくお前達にこんな事はまだ難しいのかも知れないし酷な事を言ってるのかも知れない。しかし、行動するからには子供だからでは済まされない。キツイ言い方になるかも知れないが責任が取れない内は関わるな。関わるなら誰の力を借りても良いから最後まで見届けろ。良いな?」
「はい・・・ごめんなさい。」
「こんなプレッシャーはかけたくないが、お前達3人は創竜の翼のメンバーとして指導までして面倒を見るのは初めての冒険者だ。だからこそ、可愛く思っているしそれ以上に厳しくもする。それはこれからも覚悟しておいてくれ。」
「はい!」
「よし!じゃあ、話は終わりだ。」
そう言ってレオはエルの頭を撫でる。その後、ダンからパーティー登録を目指してエル達が連携の訓練を始める事を伝える。そして、リックの身体強化の指導を頼みたいと聞くと真剣な表情で頷いていた。
3人が今後パーティー登録する為に森の小屋へ泊まり込みで訓練を行いたいと言う事をサームにも伝える。サームはそれを了承し、シスターの許可が取れたら二人を小屋へ案内する事になった。
シスターとの話は二日後にダンとレオがレミト村へ向かう事が決まり、エルはそれに合わせてジュリアと共に相性の良い属性魔法を探る事となった。
とりあえずはそれまでの間は今まで通りの生活へと戻る。往復の帰還を合わせればおよそ6~7日の間、小屋を離れていただけだが森の中には新たに薬草が生えていたりして毎日の作業は多い。
次の日の朝にダンとレオ、そしてサームと共に薬草の採取へと向かう。しかし、小屋に近い場所に関しては小屋を中心に張られた大粒の結界石のおかげで魔物が近付く事は無い。なのでエルもその範囲内では一人で採取を行う。範囲外へ出る場合はダン達と共に行動する。
今回の遠征は騒動などもあったが、自分が採取していた素材があれだけの高額で取引されている事に驚いた。ミレイから採取ボーナスなども乗せていると教えてもらってはいたが、それでもやはり素材ひとつひとつの価値が希少である事は違いなかった。今後も気を付けて採取し、乱獲し過ぎないように心配りしなければと以前よりも丁寧に周りの環境を見ながら採取を行う。
ある程度、素材袋が膨らんできてそろそろ背負子の方に素材を移そうかと思っていた時だった。
目の前の茂みがガサガサと揺れる。エルはダンかレオがこちらへ手伝いに来てくれたのだと思い、背負子を下ろし近付こうとした。
すると、茂みは激しく動き。中から一頭の走竜が顔を出す。しかし、体格は小さくどうやら子供の走竜のようだ。エルは咄嗟に後ろへ飛び退き腰の鉈へと手を伸ばす。走竜は息が荒く目も薄い。興奮状態なのか?エルは爆発しそうなほど激しく打つ心臓の音を体全体で感じながら相手から目を離さない。
そんな瞬間、走竜はその場にどさりっと倒れた。恐る恐る走竜の様子を見ると脚と腰に切り傷が見えた。エルは鉈から手を離し、少しづつ少しづつ走竜に近付いていく。走竜はエルの方を見る余裕すら無いほどに息が荒い。
エルは腰袋から自分が製作した低級ポーションを取り出す。走竜の傷口へかけようとした瞬間、手が止まる。昨日、レオから言われた『自分の行動への責任』の言葉が頭をよぎる。この行動でもしかしたら自分が走竜に襲われる危険もある。しかし・・・
エルはそれでもこの子供の走竜をそのままにしておけないと思った。もし、襲われた時は周りに助けを求めながら自分の手でトドメを刺す覚悟も考える。そして、決意の目で低級ポーションを傷口へかけ、もう一本を口に流し込む。様子を気にしながらも最悪の事を考え、少し距離を取りそのまま走竜を見つめる。
だんだんと目に見える傷は消えていき、走竜の息遣いも落ち着いていく。低級ポーションで回復出来たと言う事はそれほどまでの致命的な傷では無かったのかも知れない。そしてゆっくりと走竜は立ち上がりエルを見つめる。さきほどまでの興奮した様子は無く、走竜もこちらの様子を窺っているようだ。
エルは態勢を低くし自分に攻撃する意思が無い事を示すように手を上にあげてにっこりと笑顔を見せる。走竜は変わらずこちらを観察し続ける。エルは意を決してゆっくりと走竜に近付き、片方の手を前へと差し出す。その手には甘いチョックの果実を握っていた。
「ほら、お腹空いてないか?食べていいよ。」
優しく走竜に話しかけ続けると、少しづつ走竜もこちらに近付き鼻をチョックの実に近付けくんくんと匂いを嗅ぐ。そして一口で実を口に含むともしゃもしゃと美味しそうに食べ始めた。エルはもう一つ実を手に持ち、もう一度差し出す。
すると走竜は実に近付きながら目はエルをジッと見ていた。
「良いよ。お食べ。」
エルがそう言うと走竜はまた一口で食べ始めた。言葉が通じる。エルはホッとしながらその姿を見つめていた。すると・・・
「エル!!!離れろ!!!」
後ろからエルを一気に引きずって自分の後ろへ弾き飛ばしたのは、長剣を構えるレオだった。
誤字脱字ありましたら教えていただけると助かります。
カクヨムにて同名で連載始めました。




